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転生したけど魔法が使えないので薬師を目指していたら幼馴染み魔術師が私を溺愛してきます  作者: みゆり


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134.回収屋メルディアス・パトラスと美味しい魔獣肉料理



 念のため認識阻害の魔術をティナとクラヴィスには施している。


 周囲に気をつけながら音のした所までやって来る。そしてその木のそばに身をひそめた。


 今日はお互いに魔導具の耳飾りも着けてきている。これは微量の魔力で直接話さなくとも念話で意志疎通することができる。


 魔術で遠視も使い様子をうかがう。するとなにやら黒い服を着た男達が大型の魔獣を捕まえようとしていた。


 ティナはハッと息を呑む。


 あの服には見覚えがある。あれは女神教の回収屋の制服だ。


 彼らの役目は魔術師のもつ天球儀を回収すること。他には女神教が表立ってできない裏の仕事を請け負う。


 いわば教団の私兵のようなものだ。


 ティナは眉を寄せた。


 『魔獣を捕まえてどうするつもりなのかしら』

 『おそらく拘束具をつけて飼い慣らすか、実験か何かに使うつもりだろう』


 『実験?』


 クラヴィスはティナの疑問に頷く。魔獣はうまく飼い慣らすことができれば馬のように移動する手段として使える。さらに魔力もあり体も頑丈なため戦闘向きらしい。


 『この魔獣は魔力を蓄えることもできるんだ。その力を研究したいのかも知れないな』


 遠くから静かに見守っていると、魔獣が暴れだしていた。大きな魔獣だ。意外にも回収屋は苦戦している。


 だが上空から誰かが放った雷の矢が降ってきた。強い魔力だ。それは一瞬で魔獣を串刺しにする。


 つかつかとその魔獣の近くに進んできたのは灰色髪の男。どこかで見たことがあった。


 彼も同じく黒い制服を着ている。


 あれは――


 『メルディアス・パトラス公爵。大司祭ガルシア卿の後継とも(もく)されている男だ。魔術師としてもかなりの腕をもっている』


 たしかに今の雷魔術をみてもクラヴィスの魔術と匹敵するものがあった。


 『あの人、前にウィリアム殿下の誕生祝賀会にいた人よね。……ちょっと怖い感じの』


 道理で見覚えがあるはずだ。あの時、ダンスに誘われてクラヴィスが助けてくれた。


 魔獣を仕留めメルディアス達がそれを引きずりこちらへ向かってくる。きっと森から出るつもりなのだ。


 『ティナ、こっちへ』

 『うん、』


 クラヴィスの誘導のもと大きな道から逸れるようにテイナ達は茂みに隠れる。認識阻害の術は使っているが、念のためだ。


 彼らが近づいてくるにつれてメルディアスの声が聞こえてくる。何やらとても怒っていた。


 「まったくこの程度の魔獣もすぐに仕留められないとは。女神教の精鋭が聞いて呆れるな」

 「パトラス様、申し訳ございません」


 「……帰ったら訓練だ。いいな」


 怒りを圧し殺した声だ。説教している。


 部下らしき男達はガックリと項垂れていた。彼らは茂みに隠れるテイナ達に気づくことなくそのまま通り過ぎていく。ティナはホッと息を吐いた。


 その瞬間、


 ギロリとメルディアスの鋭い眼光がこちらを向いた。獲物を狩るような眼差し。ティナはひぃと震えた。


 「…………」


 「どうしましたかパトラス様」

 「……いや、なにやら殺気が。俺は疲れているのかもしれん。帰るぞ」


 最近肩も凝るし、とメルディアスはブツブツと呟き去っていった。


 『こ、怖かった。怖かった。あの目力、半端ない』

 『大丈夫だ。気づかれてはいない。パトラス卿はいつもああなんだ。……だがやはり疲れているのかもな。魔術にキレがなかった』


 (……魔術にキレって。私には全然わからなかった)


 メルディアスを見てもクラヴィスは動じていない。それどころか心配している。彼とはたまに王城ですれ違ったりするらしい。最近疲れているのか、顔が暗いそうだ。


 『中間管理職とはそういうものだから』


 何かを悟ったような口振りにティナは心配になった。


 『ラヴィもそうなの?』

 『まぁ、考えても仕方ないし。ティナがいるから平気』


 魔術師として仕事をするのは大変なのだ。それがある一定の役職に就けばなおのこと。


 『無理しないでね。何かあったら相談にのるから言ってね』


 ティナの言葉に彼が笑って頭の上にキスを落としてきた。慌ててクラヴィスの腕からスルリと抜けると立ち上がる。


 『頭はだめ。汗かいてるから』

 『気にしなくていいのに』


 面白くなさそうな顔をしているクラヴィスにティナは首を横に振る。


 メルディアス達はもうとっくにいなくなっている。ティナはクラヴィスに町へ戻ろうと言い、馬を連れ二人は戻る。


 そうしてティナ達は宿を探すことにした。だがあらかじめ宿を取っていなかったことが失敗だった。


 どうしても二部屋の空きがない。小さな町なので宿屋自体も少ないのだ。


 最悪、別々の宿屋を取ることも考えたのだがその距離がかなり遠くそれは難しそうだった。


 困った。お腹もすいたし。


 「もう夜だ。これ以上遅くなると食事も難しくなる。とりあえずティナ用に一部屋だけでも取ろう。俺はどうにかするから。……野宿してもいいし」


 野宿、という言葉にティナは目を見開いた。


 「だめ。いくらサウザンドラ領が暖かいといっても冬なのよ。ラヴィに風邪をひかせるわけにはいかないわ」

 「大丈夫だよ。夜営は慣れてるから。とにかく宿だけは取ろう」


 クラヴィスはそう言うとあっという間に宿を取りに行ってしまった。


 (せっかく旅行みたいで楽しかったのに夜営なんて……。せめてその部屋にソファーか何かあれば私が横になればいい)


 ティナがそう考えているとクラヴィスが宿の受付をすませ戻ってきた。


 「お待たせ。宿の主人がここからすぐの所に魔獣肉を扱う料理店があると教えてくれた。人気があるらしいよ」

 「えっ、魔獣って食べられるの?」


 「ああ。毒をもつ魔獣は難しいが、さっきの森にいたものなら捌いて焼くと美味しいんだ」


 ティナは呆然とする。知らなかった。


 自分はこれまで日本食に近いものを求め、ルーン領を探し回ったことがあった。けれど魔獣が美味しいなんて。


 ルーン領には加護の影響か、魔物や魔獣は出没しない。そこが盲点だった。


 宿の主人のいう料理店に行くとそこはすでに大勢の客がいて賑わっていた。ティナ達は端のテーブル席に案内される。


 どんな料理が良いかわからないので、とりあえず店主オススメのメニューを頼むことにした。


 「ラヴィお酒は?」

 「いらない。ティナもこの間のことがあるし今日は控えて」

 

 「……うん」


 ちょっとショックだ。メニューにある地酒を飲んでみたかった。


 こちらの沈んだ表情で察したのか、クラヴィスがお土産に地酒を買って帰ろうと言ってくれた。


 (……でもあの時はラヴィがお酒にすごく酔ったはずなのに。どうして)


 そうこうしているうちに出来上がった料理が運ばれてきた。見かけは魔獣じゃない。お洒落な料理になっている。


 魔獣肉の煮込みシチューを食べ思わず頬が緩む。全然臭みがない。とても柔らかい。


 「わぁ、これすごく美味しい」

 「良かった。これでティナの機嫌直ったかな」


 クラヴィスが瞳を和らげる。相変わらず整った容貌にドキマギする。


 「怒ってなんかいないわ。……その、今日はありがとう。すごく楽しかった」

 「ん、魔獣のこと少しはわかった?」


 「うん。今まで見たことがなかったから、とても勉強になったわ」


 クラヴィスは魔術師団に所属している。そのため魔物や魔獣の討伐は仕事柄ごく当たり前にある。今回のような穏やかな魔獣ではなく、もっと気性が荒く凶悪なものがほとんど。


 食事をしながら彼の仕事の話を聞く。すごく大変なお仕事だと思った。


 お腹もいっぱいになり店を出る。ここから宿屋はすぐそこだ。部屋は二階。クラヴィスが部屋の前まで送ってくれる。


 扉の前で彼が言う。


 「じゃあまた朝になったら迎えに来るから。おやすみ」

 「ま、待ってラヴィ。私、そこのソファーで寝るからあなたはベッドを使ってほしいの!」


 「え?」


 急いで扉を開け、クラヴィスの腕を掴んで強引に部屋に入れた。


 魔法で灯りをつける。ぽわっと部屋の中が明るくなる。窓際には大きめのベッド。その脇にソファーがみえる。


 思った通りのものがあってホッとする。


 けれどクラヴィスが慌てた声を出した。


 「ダメだよ、ティナ。君と一緒の部屋はいけない。俺は外で平気だから」

 

 もう行く、と部屋を出ていこうとしたのでティナは渾身の力で彼にしがみついた。


 「ダメったらダメ。ラヴィはここで寝るの。お願い!」

 「断る……って、おい!?」


 それでも行こうとしたので、魔術を使ってクラヴィスの体を浮かび上がらせベッドに横にする。強制的に魔術を使うのは嫌だけれど仕方ない。


 クラヴィスがムッと顔を歪めてこちらをみている。怒っているけどそんなこと気にしていられない。負けじと彼を見下ろした。


 「私はソファーで寝るからラヴィはここで大人しく寝てちょうだい。いいわね」

 「ったく。こんなことして……知らないからな」


 苛立っているのかクラヴィスはくしゃりと髪をかきあげる。怒っているのに仕草がいちいち格好良すぎだ。不覚にもティナの胸がドキリと鳴る。


 ベッドにある掛布をかけてあげる。これなら風邪をひくことはないだろう。


 自分も身体浄化の魔術をかけクローゼット横の小部屋で夜着に着替え肩掛けを羽織った。


 「ラヴィは着替える?」

 「……いい」


 怒っているのか低い声で返事が返ってきた。


 ティナもソファーに横になる。自分なら小さいのでちょうど良い大きさだ。余分に置かれていた掛布をかぶり「おやすみなさい」と彼に声をかける。


 返ってこない返事に苦笑し、ティナも眠りについた。


 

 


 


 


 

 

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