13.薬調合と騎士団での遭遇
今日は一昨日、ストレイ山で採取した薬草や素材を調合する日である。
エプロンを着けたティナは生物保管室から出した素材を他生徒と一緒に大鍋に入れ、大きな木べらで混ぜている最中だ。
(……なんだか、給食のおばさんみたいだわ)
汗を拭いながら只管に溶かしていく。
素材は様々な薬効を持つ物へと各々調合し、出来上がった物はラドルートに品質の不具合がないか、最終確認をしてもらう。
Bコース生徒は体力回復ポーションや毒消し、傷病軟膏、胃腸薬などを生成していく。魔力を要しない薬を作るのがこちらの担当だ。
完成した薬は、Bコースは騎士団の詰所に届けることになっている。
出来上がった薬を丁寧に木箱に詰め、ティナもやれやれと腰を下ろして休憩した。
「ヴァンドール君、すまんがこれを騎士団に届けてくれんか。 途中でAコースの生徒と合流して、魔力回復ポーションを受け取ってくれ」
「はい。分かりました。 ラドルート先生、行ってきます」
ティナは木箱をよいしょと抱えると、調合室を出た。
回廊を進んで行くと、Aコースの生徒が一人木箱を抱えて壁際に寄りかかっていた。
「あっ、糸目先輩!」
「全く、Bは何でこんな遅いんだ。 早くこれ持ってけ 」
彼はフンと苛立っていたようだが、魔力回復ポーションを自ら掴み、ティナの木箱に数本入れてくれた。
実は糸目君ことリオン・ハルシフォムさんは、Aコース二年生なのだ。年はティナと同じだが、先輩だった。
糸目で名前が定着してしまったが、本人から特に文句がないので、そのままにしている。あまり気にしない性格なのかも知れない。
「ありがとうございます。糸目先輩はそれ、魔術師団の所に届けるんですか?」
「そうだ。 ティナは騎士団だろう?」
「はい」
まぁ、こちらは糸目呼びだから、向こうも呼び捨てになるのは仕方ない。
騎士団と魔術師団の詰所は各々西棟と東棟に分かれており、ティナは糸目と分かれ西棟に向かって歩き出した。
◆ ◆ ◆
騎士団の詰所は西棟の端に位置している。回廊を進むと屋根のない広々とした場所があり、そこでは騎士達が剣を打ち合い訓練を行っていた。
「わぁ、すごい。 格好いい」
思わず足を止めて、騎士達の動きを目で追いかける。向こう側は簡易の休憩所が設営され、その隣は貴婦人達が観覧席に座っている。
何か騎士達の試合が行われているようだ。
皆、一様に相対する騎士二人の動きを固唾を飲んで見守っている。どうやらティナは丁度、決勝戦の場面に出くわしたようである。
と、赤髪の騎士が腰を低く落とし地を蹴った。金髪の騎士がその速さについていけず、バランスを崩す。その一瞬の隙をついて赤髪が宙を舞い剣を振り下ろした。勝負は決まった、赤髪の騎士の勝利である。
ワッと興奮した声、歓声、喝采が上がった。
ティナもほぅと息を吐き、紅潮した頬を冷ましながら、その場を後にした。
詰所の扉をノックし入室すると、執務机に先程の赤髪の騎士がいた。タオルで汗を拭いている。
「おっ、薬持ってきてくれたのか! 悪いな学生さん。あっ、女の子かぁ-」
「はい。 あと――」
薬の入った木箱を脇の小机に置いて、彼に納品書を手渡す。
室内を不意に見回すと執務机と反対側にあるソファーにどこかで見たことのある人物の姿が目に入った。
発しかけた言葉を飲み込み、ティナは目を瞬いた。
クラヴィスがソファーに座って、お茶を飲んでいたのだ。
向こうもティナの姿を見て驚いているようだ。紅茶のカップを取り落としそうになっている。
そんな様子を物珍しそうに見ていた赤髪の騎士は首を傾げた。
「あれぇ、クラヴィスお前の知り合いか?」
「いや、ああ……、私は魔術師団副師団長クラヴィス・ルドシエルです。 お嬢さんどうぞよろしく」
戸惑いながら立ち上がったクラヴィスは、ティナに流麗な仕草で恭しく礼をとった。ティナも慌てて礼をする。
「薬師養成機関の生徒、ティナ・ヴァンドールと申します。よろしくお願い致します」
「あー、ティナちゃん、俺はジュード・ロゥ。騎士団の副団長やってる」
クラヴィスに向かって言った挨拶をさりげなく遮って、ジュードがティナ達の間に割って入ってきた。
「ふふっ、ロゥ様、よろしくお願い致します。 あの……納品書と薬の確認をお願いできますか?」
なんだか面白い人だ。つい堪えきれなく、笑みが漏れそうになり口許を抑える。
「ああ、分かった。今やるね」
「私も一緒にお手伝いしますね」
ジュードの隣に並んで、二人で納品書を読み上げながら確認作業を行っていく。作業はすぐに終わり、ティナは二人に礼をし執務室を出ようとした――
「ジュード、俺ももう行く。 ヴァンドールさん、途中まで一緒に行きましょうか」
「えっ、 は……はい」
突然クラヴィスに背中を押されて、ティナは回廊へ出た。
【登場人物】
・ジュード・ロゥ……騎士団副団長、赤髪




