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転生したけど魔法が使えないので薬師を目指していたら幼馴染み魔術師が私を溺愛してきます  作者: みゆり


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129.風の神の真名と魔力の底上げ



 互いに抱きしめ合っているアーティとセレスティアをみて、ティナは胸を撫で下ろした。


 隣ではソルソフィアが二人の姿に、何やらニヤニヤしたり頬を赤らめたりしている。それを横目でみてルーデウスが呆れたように注意する。


 「ソル、ジロジロ見るなんて下品だよ」

 「だって微笑ましいじゃないか。二人とも一途なんだねぇ」


 会話を聞くのもどうかと思うが、二人の間からぼそぼそと何か聞こえてくる。それを耳聡く聞きつけたソルソフィアが目を細めた。


 「……あと五十年経ったら迎えに行くから、それまで絶対浮気するなだって。セレったらすごい執着心だねぇ」


 ソルソフィアは杖を抱きしめる。仲良しなのが嬉しいらしい。


 「たしかにそれは、すごいですね」


 セレスティアなら今の時点で彼を一緒に連れていく事も可能だろう。そして今のアーティはそれが容易なほど、魂の透明度が増している。


 その事で重要なことを思いだし、ティナは慌ててルーデウスを見上げた。


 「ルー、今日の夕食はお肉とお酒を出してね」

 

 突然声をかけられ、ビックリしたのかルーデウスが聞き返してきた。


 「え、どうしたのいきなり。それって今のアーティの状態と関係があるのかい?」

 

 「そう。食べ物で影響を防げるの」


 現時点で心身ともに、彼は神気を多く浴びている。肉体と魂は清浄なのだが、同時に不安定になるのだ。


 儀式が終われば、すぐに内部から俗世に馴染ませていかなければならない。


 その最たるものが命を食し酒を飲むこと。そうすることで魂が現世に、肉体に定着していく。


 (……できれば添加物バリバリのジャンクフードを食べるのも効果があるんだけど、この世界にはないしね)


 「そういえば、アーティさんの内側を浄化した時、とてもやり易かったの。千年以上の年期の溜まったモノだから覚悟していたんだけど、さほど時間がかからなくてビックリしたわ」


 「ああ、それは彼は守護者として事前に潔斎を行っていたからね。それもあるかも知れないね」


 ティナの疑問にソルソフィアが答えてくれる。ここで言う潔斎とは形式上のものだが、儀式前日は肉や魚を食べずに野菜や豆を食すらしい。


 するとセレスティアの声が聞こえてきた。


 『すまない、待たせたな』

 「良かったね。彼と話せて」


 アーティとセレスティアがこちらへやって来た。ソルソフィアが二人に笑みを向ける。


 『ああ、そうだそこの娘。君は見たところ眷属でもないのに、すごい力を持っているのだな。まさか今生でアーティと触れあうことが出来るなんて、夢にも思っていなかった。ありがとう』


 「いえ、お二人がしばらくぶりにお会いすることが出来て本当に良かったです」


 セレスティアはふわふわと浮かんで近づき、ティナの顔を覗き込む。そうして何かに気づいたのか、おや、と嬉しそうに口角をあげた。


 『これは私がやった緑瞳だ。そうか、わかった。君はアルの子孫なのだね。そうだ、お礼の代わりと言ってはなんだが私の名を教えてやろう』

 「? 御名はセレスティア様ですよね」


 その名はもう知っている。困惑しつつも風の神の名を口にすると、この会話を静かに見守っていたソルソフィアが嬉々としてティナの肩に手を置いた。


 「姉さま、」

 「実にありがたいことだ。もらっておきなさい。彼女の真名を頂けるなんて、どんな財宝よりも至上の価値があるんだよ」


 真名という言葉に動揺し、不安そうにソルソフィアを見上げる。彼女は断るなど不敬であると言わんばかりの表情でこちらを見返してきた。


 セレスティアがほわ、と優しく微笑んだ。


 『ふふ、そう警戒しなくともよい。名を知っても使う使わないは、君の自由だ』

 「……セレスティア様、」


 これは風の神から真名を教えてもらうだけなのだ。ティナはそう自分に言い聞かせる。


 『さぁ、ではまず君の名を教えてほしい』

 「私はティナ……ティナ・ヴァンドールと申します」


 わかったティナだね、とセレスティアは満足そうに頷くと、そっと耳元に顔を近づけてきた。そのままこっそりと囁く。


 『私の真名は――――……だ』

 「……!」


 瞬間、その名がティナの内部に入り込んできた。覚える必要はない。魂に刻まれていく、紐付けされていく感覚にくらりと眩暈がした。


 『それと、これも必要だ』


 続けてセレスティアはティナの頭に手を乗せる。すぐに体の奥底から膨大な魔力が引き出された。まるで引っ張りあげられる感覚だ。


 魔力の底上げが一瞬で行われたのだ。不思議な感覚にティナは両手を見比べる。セレスティアは自慢気に胸を反らした。


 『これなら私を喚んでも、有り余るほどの魔力があるはずだ』

 「わぁ、セレすごいね。ティナの魔力はこの国でも結構ある方なんだよ。それを一気に倍にするなんて」


 感心して声をあげるソルソフィアに、ティナは何かの間違いだろうと耳を疑った。


 (……!? 倍ですって?嘘でしょう。信じられない)


 言われてみれば確かに自分の中に、今までとは比較できない多量の魔力がこんこんと湧き出しているのを感じる。


 だが、とティナは青ざめた。


 この状態では帰った時、生活魔導具が破損する恐れがある。これまでも日常生活において、不必要な量の魔力は封じているのだ。


 (帰ったらとにかく、増えた分の魔力は封印しないと)


 心の中でティナは頷いた。


 ふと顔を上げると、いつの間にかセレスティアが神妙な顔つきになっていた。その瞳はソルソフィアを見ている。


 『私はもう還らねばならん、すまない。お前一人を残して……全てを任せてしまって』

 「いいよ、セレ。実はね、君と同じように私にも大切なものができた。だからきっと大丈夫だ」


 にこやかに答えるソルソフィアの姿に、セレスティアは心底驚いたように眉をあげた。そして堪えきれずにクックッと笑う。


 『おや、人間嫌いのお前が珍しい。……それなら世界も愛せるようになれたのだな。なら安心だ』

 「安心かどうかはわからないけれどね。だが少なくとも否定はしなくなった」


 一拍のち、そうか、とセレスティアは目を伏せた。その口許は嬉しそうに綻んでいる。


 『これで本当に最後だ。……アーティ、またな』

 「ああ、」


 そうして最後にアーティに微笑み、彼女は光の粒子に戻り消えていった。


 風の神が消え去るのと同時に、光の柱も消失する。周囲はもう元の色だ。


 

 トン、トンと杖が地をならす。


 儀式は無事終了した。


 聖域がなくなり、元の空間に戻った。ライカは今気がついたようにパチパチと瞬きする。そうして不思議そうにこちらを向いた。


 「あれ。もう儀式は終わったのか?」

 「うん。滞りなく終わったよ」


 横でルーデウスが柔らかい表情で答えている。無事終わったので、彼の緊張も解けたようだった。


 ティナはアーティの姿を確認する。すると彼は眩暈を起こしたのか、顔を押さえ片膝をついていた。


 「アーティさん!」

 「……う、あ」


 傍に駆け寄ったティナは急いで彼の体に結界を張った。自分の魔力が復活していることにホッとする。


 この結界は外界との境界を明確にする。魂が肉体から離れないようにする為の措置だ。


 聖遺物をしっかりと埋め終えたルーデウスがやって来て、その様子に眉を寄せる。


 「ティナ、彼は少し眠らせよう」

 「ルー、」


 返事をする前に、彼が一瞬でアーティを眠らせその体を抱える。これも魔法だ。


 ルーデウスが気遣わしげに、ティナの頭を撫でた。


 「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。竜人族は人間より遥かに強靭な肉体と精神を持っているからね」

 「……そうね」


 そうして儀式は終わり、ティナ達は王都にあるソルソフィアの屋敷へと戻ってきた。


 

 儀式自体は午前中で終わったのだが、皆疲れているようで午後はゆっくり過ごすことになった。


 そのため《トリニティ》の調整も明日に変更された。


 屋敷に戻ってからティナがアーティの様子を見に行くと、彼は来客用の部屋で横になっていた。目は覚めているようで、こちらの気配に気づきゆっくりと起き上がる。


 「まだ寝ていてください。アーティさん、体調はいかがですか?」

 「悪くはないんだが、何か不思議な感じなんだ。フワフワしているというか……」


 ティナは申し訳なさそうに返す。


 「それは……私のせいでアーティさんの内側がとても不安定になってしまったんです。ごめんなさい」


 ティナの落ち込んだ様子に、彼は何のことかとキョトンとしている。だがすぐに瞳を和らげた。


 「謝らないでほしい。君のおかげで長いこと会えなかった彼女に会えたのだから。本当にありがとう」

 「アーティさん、」


 それから彼はセレスティアとの昔の話を、ティナにたくさん聞かせてくれた。二人で話している内に、あっという間に夕刻になっている。


 アーティには夕食の準備ができ次第呼びにくるから、それまで休んでいてほしいと伝える。そうしてティナは彼の部屋を出た。


 するとたくさんの道具を持った人達とすれ違った。ドヤドヤと庭に向かっていく。


 彼らを追い庭先に出ると、ルーデウスがその人達に道具を置く位置を指示していた。ティナは彼の傍に近寄った。


 「ルー、何をしているの?」

 「ああティナ。今夜は外で食べようと思ってさ。今色々準備しているところなんだ」


 みれば何やら焼き物をする魔導具のようだ。近くにはテーブルや椅子が並べられている。


 「これってバーベキューの準備みたいね」


 興奮し頬を紅潮させてそう言うと、彼が首を傾げて苦笑する。


 「ティナ、肉が良いって言っていたよね。それならと思って、シンプルに焼いて食べるのも面白いかなと思ったんだ」


 こういう食べ方は、よく発掘現場の作業員達とやるらしい。畏まって食べるよりも、このようにざっくばらんに食べる方が彼らはとても喜ぶとの事だ。


 その時のことを思い出したのか、ルーデウスがふっと笑う。


 「そうだ、今日は作業員の皆も呼ぶ予定だよ」

 「ふふっ、作業員のおじさん達もきっと喜ぶわね」


 着々と進む準備を眺めていると、屋敷の方から背の高い男性が歩いてくるのが見えた。


 紺色の髪。クラヴィスだ。仕事が終わり帰ってきたのだろう。魔術師団の制服ではなく、もう私服姿だ。


 「お帰りなさいラヴィ」

 「ただいまティナ。……これは?」


 焼き物の準備をしているのを見て、クラヴィスが軽く驚いている。ティナは今日の出来事と夕食は庭で焼き肉をすることを教えてあげた。


 


 


 



 

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