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転生したけど魔法が使えないので薬師を目指していたら幼馴染み魔術師が私を溺愛してきます  作者: みゆり


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118.初代副師団長の日記とラヴィの補給時間



 書類を揃えて箱に納めていたら、ふと書棚の本が目についた。そこには沢山の魔術書が並んでいる。自宅のクラヴィスの部屋にもあるが、これはきっと歴代の副師団長の持ち物だ。中には古代書めいた物もあった。


 その中の一つが気になったので、手に取りパラパラと捲ってみる。


 本の内容は竜や魔物の生態についてだ。ここにも竜は元来穏やかな性質であると記されている。


 「ティナ、どうかした?」


 不意にクラヴィスが声をかけてきた。書類の山が減ってきたので、彼の表情がわかる。その事に気づいて苦笑する。


 「ううん、ちょっとこの本が気になっただけ。ここには魔術書もそうだけど、魔物や竜についての専門書もあるのね」

 「それは俺の……と言うより、過去歴任した副師団長達が置いていったものなんだ」


 少し余裕が出てきたのか、クラヴィスがティナの所へやって来た。そうして一番上の高い棚にある本に手を伸ばす。それは装丁がくたびれていた。


 「これはこの中で最も古い本。この国が興された初期の様子が書かれている」

 「すごい。とても古いのね」


 どうぞ、とその本をクラヴィスに渡される。これは見ても良いという事だ。


 本を開くと中に直筆の文字がびっしり埋まっている。羅列を追うと、これは日記であることに気づいた。


 ティナはクラヴィスを見上げた。


 「ラヴィ、これって……」

 「これは初代の副師団長が綴った日記だ。竜の討伐やら魔物との戦い。後は、日記だから個人としての感情も書かれている」


 日記とは言え、これは意外とすごい物ではないのか。当時の彼らの痕跡が、記録が今も残っているのだ。


 「ほら、ここに赤い竜との戦闘について載っているだろう?」

 「うん、昔からあの竜はいたのかしら」


 ティナは首を捻る。


 日記や創世神話にある赤い竜と今存在する火竜は同一なのだろうか。ソルソフィアは火竜は千年前から存在すると言っていた。


 読み進めていると、ティナの目が途中で留まった。


 『赤い竜は荒れ狂い、地を割き天を裂いた。あらゆるものを焼きつくした。それを鎮めたのは竜人族の娘。彼らの協力により祭祀を執り行った。竜は再び眠りについた』


 

 これは自分が見た創世神話のその後の話だ。かの神話はラルフェリア王国が興る間際にいた王の話。


 今読んだものは、赤い竜が眷属ではなくなった頃の話だ。一瞬、ティナの中で妙な胸騒ぎがした。


 これはあくまで自分の空想だ。


 「ねぇ、ラヴィ。竜はどれくらい長生きなの?」

 「そうだな。千年は生きると言う。だが竜は番を失えば狂う。力を急速に失い衰弱するんだ」


 失う、とは死んでしまうとか居なくなってしまうという意味だろうか。


 そう思いあぐねていたら、いつの間にか身動き出来ない状態になっていた。腰には腕が回されている。背後にはクラヴィスがいた。


 わわ、とティナは動揺する。


 「ラヴィ、離して」

 「疲れた。少しだけ補給させて」


 ティナの頭上にクラヴィスの口づけが落とされる。ついでにスン、と匂いを嗅がれたので、ティナは慌てて振りほどこうともがいた。だが、がっちりホールドされている。


 自然と身を竦める。


 「ダメ、嗅いだりとか……汗、かいてるから」

 「…………」


 ティナの必死の訴えは、軽く無視される。クラヴィスは自分の魔力がとても好きだ。だからこの行動もその延長なのだ。


 とにかく耐えられなかったのでティナはえいっ、と自身に身体浄化の魔術をかけた。


 体臭、汗には魔力が染み込んでいるのだ。よってその根源を絶ったわけである。


 至近距離でクラヴィスが息を呑んだ気配が伝わってきた。少しは元に戻ったろうか。ティナは平然を装い、開いていた本をパタンと閉じる。


 「ティナ、」

 「……何でしょう」


 恨みがましい声が耳に響く。腰に回されていた腕が緩んだ。その一瞬の隙をついて、ティナはうまく彼の腕から逃れると得意気な顔で後ろを向いた。


 「私だってちゃんと――」

 「いいよ、それならそれで」


 え、と反応する間もなく正面から唇を塞がれる。それも角度を変えて何度も。息がうまく出来ない。思わずぎゅうと彼の制服を掴んだ。


 やがて熱情の籠ったそれが離れていく。魔力なんか一滴たりとも与えていない。それなのに、とても満たされた顔をされてしまった。


 真っ赤な顔で息を吸い、彼を見上げる。ちょっとと言うか、かなり悔しい。


 「……補給、終わった?」

 「ん、」


 ぺろりと唇の端を舐める彼の仕草に目を逸らす。何でこうも飄々としているのか。


 だが近くでドサッと音がし、沈黙が破られる。ティナ達が振り向くと、扉を開けたリュージュが目を見開き立っていた。床には今持ってきたであろう書類が散らばっている。


 わなわなと震え、リュージュが叫ぶ。その前にしっかりと防音魔術をかけてくれた。さすが魔術師だ。


 「な、な、何してるんですかあぁっ!副師団長、ここは仕事場ですよっ!?」

 「…………」


 正直クラヴィスには悪いが、リュージュさんもっとやれとティナは思った。この人には、たまにはガツンと言わないとダメだと思う。


 だがクラヴィスは鬱陶しそうに眉を寄せ、リュージュを睨んだ。


 「煩い。俺はやるべき事はやっている。他人の分までな。さらに言うなら、この人は俺の婚約者だ。何をしようと俺の勝手だ」


 いやそれは、場所を選べと言いたい。ティナは喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。まるで半分暴君のような台詞を吐いて、クラヴィスはぷんと向こうを向いた。


 だがリュージュも負けずに肩を怒らせる。


 「とにかく、そういう事は私的な場所でされてください!副師団長、そしてティナさんも良いですね!」

 「はい。すみません」

 「…………」


 何故かクラヴィス共々自分も怒られてしまった。後で絶対彼に注意しよう。黙ったままムスッとしている彼を、ティナは横から見えない様につついた。


 こちらの意思が伝わったのか、渋々と言った体でクラヴィスはボソッと呟く。


 「…………以後気をつける」


 そんな彼の姿にまるで珍しいものでも見たように、リュージュは驚いている。ティナは普段のクラヴィスが気になった。


 (魔術師団でお仕事しているラヴィは本当はどんな人なのかな……)


 「わかってくだされば良いんです。……あら、これは?」

 「あっ、それは確認し終えた書類です。項目ごとに振り分けてありますので」


 書類を机に置き、リュージュは脇の小机に目を留める。そうして今気づいたのか、書類の山も減っている事に目を丸くした。


 「すごい。こんな短時間でここまで処理出来るなんて。ああ、良かった。今日が期日の案件も完了していますね」

 「当然だ。俺は――」


 マズイ。またリュージュを怒らせる事を言ったら大変だ。ティナは焦って彼の制服を後ろから引っ張った。


 するとリュージュが完了した書類を一気に魔法で持ち上げ、微笑む。何だかすごく嬉しそうだ。


 「ありがとうございます。ティナさん、助かりました」

 「いいえ、私は何も……」


 労いの言葉を何故かこちらにかけられる。横でクラヴィスがまた面白くなさそうな顔をした。


 それでは、と会釈をし機嫌の良くなった彼女は執務室を出ていった。

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