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転生したけど魔法が使えないので薬師を目指していたら幼馴染み魔術師が私を溺愛してきます  作者: みゆり


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11.消えた村と謎の少年



 薄桃色のカーテンが風に靡いている。

 ここはティナ・ヴァンドールという少女の部屋。白いワンピースを着た彼女はそこにあるベッドの中心に座っている。



 私、如月瑠夏はこの少女と同一である。


 今、瑠夏である私は、その姿を彼女の背後から眺めている――


 「大丈夫、きっと魔法が使えるようになるわ」

 

 ふわりと少女は目の前で泣きそうになっている少年に笑った。


 「……本当に?」

 「そうよ。だって私たち、すごく魔力の相性が良いんですって。 こんなこと、めったにないってお母さんが言ってたもの」


 さぁ、手のひらを重ねて、とティナは少年に囁いた。


 その時ふと瑠夏はまるで懐かしいものに出会ったかのように少年を見つめた。


 彼は、自分の故郷の人間を彷彿とさせる、黒い髪と目の子供だったのだ――




◆ ◆ ◆




 「おお、あった。これだ」


 ここは王城内に宛がわれているラドルートの研究室だ。とは言っても視察に行った際の記録や授業の教本、薬草や素材を調合する器具位しか置いていない場所である。


 ラドルートは老眼鏡を装着し、目録頁とその記述箇所を確かめた。


 「ほぉ懐かしい。もう10年以上も前のことになるのか……」


 

 そうあれは東部地方の農作物の種類や発育状況などを調査する案件だった。


 頁を捲るごとに当時の記憶がまざまざと甦ってくる。不思議なものだ。いや、それだけ印象深い出来事だったから思い出したのかも知れないが――


 昨日、ティナ・ヴァンドールという娘に尋ねられたことを思い出す。

 

 「まさかマゥムを知っている者がいるとは……参ったなぁ」


 誰にともなく呟くと、ふぅむと呻いた。


 彼女には分かり次第教えると約束した。

 だが、彼には教えられない理由があったのだ。



◆ ◆ ◆



 ラドルートがそこを訪れたのは全くの偶然である。東部リーディウス領へ視察に行きつつ、その周辺を綿密に調査する予定であった。これはその行程途中にあった村である。


 寄るつもりはなかったのだが、ふと窓の向こうの広大な牧草地、農作畑が秋の収穫の時を迎えとても美しく目に映ったのだ。


 ラドルートは御者に馬車を停めるよう伝える。


 降り立ったそこは、名をカトル村といった。


 村人達にあたたかく迎えられ、もてなしを受けた。村には教会の聖職者に育てられたという少年がいた。この国には非常に珍しい黒い髪と目を持ち、育ての親たる聖職者は老衰ですでにこの世に居なかった。


 年老いた者ばかりの村で、それと少年一人だけ。


 不思議なことに村人達は彼をまるで長老のように扱っていた。時に賢者や学者のように、或は神のように崇め教えを乞うていたのだ。



 実に奇妙であった。



 しかもこの村は異常な程豊かなのだ。その理由を尋ねると村人達はこぞって、少年のお陰だと笑った。


 農耕は肥沃な土壌と潤沢な水、適した気候を要する。この地はそれに適していない土地なのだ。 


 このまだ年端も行かない、一地方の村の子供が専門的な農耕知識や技術を持ち合わせているとは思えなかった。


 それから夕食をご馳走になり、初めて白いほかほかしたマゥムというものを食べた。この食物驚くべきことに備蓄ができるらしい。さらに余剰分は周辺の町や村に出荷しているとのことだった。


 このことに感服しラドルートはまた来ると約束し、村を去ったのだ。


 

 だが、この三月後ラドルートが再び村を訪れた時、何故か村は人一人いない、廃村になっていた――

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