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7.お嬢様差し押さえられる。

「ゆえに、聡いお前には理解できるだろう?

 お前とアルバート・クラウディアの婚約が

 破談になればどういうことになるのかということが。

 これもアルドレッド家に生まれた者の運命だと思って諦めなさい」

 

オーリスはそう言って肩を竦めて見せた。


「はあ? 諦めるわけないでしょ! 

 わたくしの諦めが悪いのはお父様譲りよ?

 よくご存じでしょう?」


シャルロットがありったけの目力を込めてオーリスを睨みつける。


「そんなこと言ったってさあ、シャルロット、

 お前は 今日16歳になったわけだろ?

 ゆえに10年前に交わしたアルドレッド家とクラウディア家の取り決めは、

 今日をもってすでに法的にも効力を発揮してしちまったんだ。

 お前の婚約と同時にアルドレッド商会の商売の権利、

 全部アルバート坊ちゃんに譲渡しちゃったよ?」


衝撃の父の言葉に、シャルロットは二の句が継げない。


「は? はあ? なんでそんな大事なことを

 わたくしに相談もなく決定しているのよ?」


シャルロットが父の襟首を締めあげて迫る。


「だ……だって、お前とアルバート坊ちゃんが結婚すれば、

 同じことだろ?

 二人でアルドレッド商会を切り盛りすれば……」


オーリスが酸欠のために白目をむくとさすがにアルバートが、

シャルロットの手からオーリスを取り上げ、


「お……お義父さん、しっかりしてください」


オーリスの頬を小さく叩いて、生存を確認する。


「っていうか、経営権譲渡しちゃって、

 お父様はどうなさるおつもりなの?」


シャルロットの言葉にオーリスが息を吹き返す。


「よくぞ聞いてくれた、シャルロット!

 実は南海の孤島にSSS級の超希少な宝石が出土するらしいのだ。

 私はその宝石を手に入れるために、全財産を売り払い、商いの旅に出る」


オーリスの瞳がキラキラと輝いている。


「相変わらずだな。さすがは、商業王オーリス・アルドレッド殿だ」


そんなオーリスの様子に、アルバートがクスリと笑みを漏らす。


中庭にはすでにアルドレッド商会の飛空艇が、低く唸りをあげて

吸い込まれそうな空の青の下で、真っ白い帆をはためかせている。


「ちょっ、ちょっとお父様、そんな急に、

 っていうかわたくしはどうすればよろしいの?」


すぐにも出発してしまいそうな父に、シャルロットは慌てふためく。


「いや、だからアルバート坊ちゃんと結婚したらいいんじゃないの?」


オーリスが何でもないことのように、さらっと言ってのける。


「嫌よ! 絶対イヤ!」


シャルロットは腕を組んで断固拒否を示す。


「だったら、自分で運命を切り開きなさい」


そんな愛娘を、オーリスが愛し気な眼差しで見つめている。


「お前はこの、商業王オーリス・アルドレッドの娘だ」


そういって白い歯を見せてにっかりと笑う。


「お父様……」


シャルロットが感慨深げに、父を見つめる。


幼少期から商業バカのこの父に泣かされたことは数知れずあった。

だけどそんな父に怒ることは多々あったが、どうしても憎むことはできなかった。


幼少期に母を亡くしたシャルロットには、

それでもこの父が唯一の肉親であり、


尊敬する商いの師でもある。


父の商いの才能とひらめきを、

シャルロット自身が深いところで一番理解していて、


心のどこかで憧れさえも抱いている。


(心が震える)


シャルロットは知らず、拳を握りしめた。


「シャルロット、父はどこにあっても、お前のことを愛しているよ」


オーリス・アルドレッドは悠々と飛空艇に乗り込む。

そして振り返り、じっとアルバートを見つめる。


「このじゃじゃ馬をよろしく頼む。婿殿」


アルバートもその眼差しを真摯に受け止める。


「この命に代えても」


オーリスはアルバートの言葉に満足げに頷く。


「面舵いっぱい! アルドレッド商会、商船『デュミナス』出航する!」


帆は風を孕み、

商船は空へと高度をあげていく。


「お父様っ! やっぱりわたくしもっ」


思わず感情があふれ出し、シャルロットがタラップに駆け出そうとするのを、

アルバートがその手を掴んで戒める。


()()()!」


アルバートが首を横に振る。


大粒の涙がシャルロットの頬を伝うと、


躊躇いがちに、アルバートがシャルロットの頬に触れて、

その指の腹で、シャルロットの涙を拭ってやる。


「アルバート……やっぱり婚約の話は」


シャルロットが濡れた眼差しをアルバートに向けると、

アルバートの眉間にプチリと青筋が立つ。


「っていうか、いい話風に恰好をつけているけど、

 要するにお義父様は借金のかたに娘を売ったわけだよね」


雰囲気に任せて泣き落してみようとかと、

一瞬思ったシャルロットは激しく後悔する。


「どうするの? ()()()()()()()()


目の前に魔王がいる。

シャルロットは確信した。


「それでも……婚約は破棄してください……」


シャルロットが蚊の鳴くような声で呟くと、

魔王が酷薄な笑みを浮かべた。


「ふ~ん、そう、それが君の答えなんだ?」


アルバートの指示の後で、

クラウディア家の側近が屋敷の色々なものに赤い紙を貼っていく。


「え? なにこれ?」


シャルロットがきょとんとした顔をすると、

そんなシャルロットの額に、アルバート自らが例の赤い紙を貼りつけた。


シャルロットは、アルバートの不可解な行動に目を瞬かせる。


「これか? ()()()()()だよ。

 婚約破棄により発生する違約金は、君の身体で払ってもらおうか?」


アルバートはシャルロットの頬を、オーリスと交わした書類で軽く撫でた。

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