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6.シャルロットの追憶

確かあれは初等部に入る年だったから、10年くらい前だったと思う。

誕生日プレゼントを買ってやると言われたからついていったのに、


なぜだかドレスを着せられて、父にどこかのお屋敷に連れて行かれたのだ。


「は? 話が違うじゃん。おもちゃ屋さんどこよ?」


あたりを見回せど、そこはどこかの貴族の邸宅でしかなかった。


大人たちが客間で何やら難しそうな話をしていたので、

退屈をしたわたくしは部屋を抜け出して、


そこでクソ生意気な二人のガキに出会ったのだ。


「おっ! 噂をすればなんとやらだな。

 こいつお前の親父さんに借金を申し込みにきた貧乏人の娘だぜ?」


そういってニヤニヤと笑みを浮かべたのが、漆黒の髪の少年で、


「興味ないよ」


そういって顔を背けたのが、

薄茶のさら髪に琥珀色の瞳をした無気力だけど、

恐ろしく美しい顔をした少年だった。


「興味ないって……お前、借金のかたにこいつはお前の嫁になるんだろ?

 なにせ家柄だけはいいからな」


そういって、黒髪の少年が意味ありげな視線をこちらに向けたが、

当時の私は二人が何をいっているのか、さっぱり意味が分からなかった。


会話の意味は理解できなかったが、

二人の態度がとりあえず気に入らなかったので、


「ごきげんよう。お二人はもしかして

 わたくしのことをお話していらっしゃったのかしら」


そこはかとない圧を滲ませて、二人に微笑みかけると、


「うるっせぇ、ブス!」


とまず口火を切ったのが、黒髪の少年の方だったので、

鉄拳で沈めた。


しゅーっという音を立てて、黒髪の少年が地面に仰向けに倒れている。


「え? ちょっとジーク? しっかりしなよ。

 っていうか、君、彼が誰だかわかってる?」


薄茶のさら髪の少年が顔を青くしていたけれど、

そんなことは知ったこっちゃない。


「興味ありませんわ」


つんと上を向いてそう言い返してやった。


結局彼らがどういう身分の者であるかというのは実際のところは、

よくわかっていなかったんだけど、


父が土下座して二人に詫びを入れていたので、

相応の身分の人なのだろう。


「困りますな、当家がお預かりしている大切な客人にこのようなことを……。

 こんな乱暴な令嬢を当家の嫁とすることはできかねます。

 先ほどの融資の件は白紙としてもらおう」


屋敷の当主がそう言い放つと、

父が絶望に打ちひしがれてその場に膝をついた。


「お立ちください、お父様!

 気に入らないものを気に入らないといって何が悪いのです?

 わたくしは道理に反することはしていない。

 先にわたくしを罵ったのはあの少年たちです」


悔しくて、悔しくて、きつく唇を噛み締めたのを覚えている。


「お前はっ! 黙っていなさい」


父の平手が飛んできた。

殴られると、私は恐怖に目を閉じた。


パシンッと乾いた音がしたが、不思議と私の頬に全然痛みはなくて、

視界に入ってきたのは、薄茶のさら髪の少年だった。


「ごっ……ご子息!?」


父が顔色を変えている。


少年はグイと拳で切れた唇の端を拭った。


「面白いではありませんか。父上がこの男の借金をお断りになるのなら、

 僕がお支払いいたします」


そう言って、少年はその場で小切手にサインした。


「その代わりクソ生意気なこの女は、

 僕が貰い受けます」


それは薄茶のさら髪と琥珀色の瞳を持つ、

恐ろしいほどに美しい少年で……。


◇◇◇


「ようやく思い出した? シャルロット。

 あのときの約束を果たしてもらうために、僕は君を迎えに来たんだ」


アルバート・クラウディアはそういって、

氷の微笑を浮かべた。


◇◇◇


場所を父の書斎に移し、

シャルロットは激昂する。


「婚約のお話、今、この場で破談としてくださいませ!」


シャルロットが言葉とともに、勢いよく机を叩いた。


「却下」


しかしシャルロットの父、オーリス・アルドレッドは微動だにしない。

そんな父の様子に、シャルロットは更に頭に血が上る。


「はあ? 何をおっしゃっているの?

 本人の承諾も得ないままに、そのようなことを勝手に決めるなんて、

 あんまりですわ!」


シャルロットは髪を逆立てるが、


「勝手も何も、仕方がないだろう。

 お前もよく知っているように商売とは良い時もあれば、そうでない時もある。

 そんな気運を幾たびも乗り越えた先にこそ、商機があるのだから」


オーリスはあくまで開き直る。


「それは存じておりますけれども、今我が社は上り龍の勢いで、

 業績も過去最高益を叩きだしておりますわ。

 よもや10年前の借金をいまだ返していないということはないのでしょう?」


シャルロットが柳眉を顰める。


「そこが問題なのだよ、シャルロット。

 10年前我々は借金をしたのではなく、株式を発行したのだよ。

 その株を大量に購入したのが、お前の婚約者であるアルバート・クラウディア。

 この国の宰相家の坊ちゃんだ」


確かにアルバートはさっき自分に言ったのだ。

自分はアルドレッド商会の筆頭株主なのだと。


(これはかなりヤバイ事態だわ)


シャルロットは口を噤む。


(よりにもよって、この天使の顔をした腹黒悪魔がアルドレッド商会(うち)の筆頭株主だなんて)


シャルロットは先日のアルバートの宣戦布告にも似た発言を思い出す。


『この手を離したら、僕たちは敵同士に戻る。

 そのときは容赦しないよ? 覚悟してね、()()()()()()()()


(あれは単なる脅しじゃなかったんだ。わたくしが甘かった)


シャルロットは悔し気に唇を噛みしめる。

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