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5.株主総会にて、お嬢様衝撃の事実を知らされる。

自室に戻ったシャルロットは、ベッドに身を横たえた。

ひどく身体が重い。


「なんか疲れる一日だった」


カフェテリアでエルザが身分違いの恋を暴露したこと、

ジークが侍従長にお妃選びを迫られていること、


シャルロットは昼間の出来事を思い出した。


「いつの間にか、そんな年齢になってしまったのね」


しみじみと呟きを洩らす。


そして最後にその脳裏にアルバートが過る。


『そうでもないよ? 僕にだって婚約者がいるし』


どうせあなたにはそんな悩みなどなくて、誰でも選びたい放題なのだと

揶揄したら、


アルバートはいつもと変わらない飄々とした笑みを浮かべて、

とても残酷な事実を自分に告げたのだ。


シャルロットの頬に涙が伝った。


「何よ……知っていたじゃない。だから今更傷つく必要なんてない。

 アルバートがわたくしを好きじゃないってことくらい」


シャルロットは頬に伝う涙を拭わない。


『興味ないよ』


10年前、アルバートは冷たく自分にそう言った。


それ以来、シャルロットは

アルバートのことを決して愛称では呼ぶことはなくなった。


「シャルロットお嬢様! 

 ドレスの仮縫いのために業者の者が参っておりますが」


メイド頭が部屋のドア越しに、

そう告げるとシャルロットは重い身体を起こした。


「わたくしは、この国の御三家、商業の大家アルドレッド家の娘よ。

 だからこんなことで泣いてはダメ」


そして涙を拭って立ち上がる。


◇◇◇


それから数日後、御三家のひとつ、商業の大家アルドレッド家では、

当主の愛娘シャルロット・アルドレッドが十六歳の誕生日を迎えた。


この日のために有名ブランドデザイナーに特注させた桜色のドレスを身に纏い、

ドレスと同じ色の美しい髪を盛りに盛って迎えたこの日、

シャルロットは気迫に満ちていた。


「今日はわたくしにとって運命の日。

 わたくしがアルドレッド家の次期当主としてふさわしいかどうか、

 お父様とわが社の取締役員及び株主たちに問われる日なのだわ」


シャルロットは白絹の手袋越しに扇を握りしめた。


そして意気揚々とその一歩を踏み出し……。


「あれ?」


というか、どうやら踏み外したようだ。


シャルロットは二階に位置する支度部屋から、

今日のパーティー会場となる一階にある広間へと向かおうと、

屋敷の中央に位置する磨き抜かれた大理石の階段を、今まさに踏み外してしまったのだ。


身体のバランスが崩れ、奇妙な浮遊感に背筋が凍る。


まわりの景色がやたらとスローモーションに感じられ、

その色彩でさえ鮮やかだ。


(これはっ……!  まさか、わたくしの死亡フラグですの?)


シャルロットの脳裏に、そんな思考が掠めたときだ。


自身の身に纏う浮遊感が、

何者かにしっかりと抱き止められる事によって止まった。


「うん、もぅ、危ないなあ。

人生、もっと集中して生きないと、死んじゃうよ? ()()()()()()()()


薄茶のサラ髪がはらりと散って、琥珀色の瞳がシャルロットを映し出すと、

シャルロットが高速で目を瞬かせる。


アルバートもいつもとは違い、フォーマルな装いである。


「あっ、アルバート! っていうか、()()()()()()()がどうしてここに?」


シャルロットの背中に嫌な汗が伝う。

その脳内では猛烈に嫌な予感が、けたたましく警報を鳴らしている。


「それは、この僕がアルドレッド商会(おたく)の筆頭株主だから」


アルバートはシャルロットに氷の微笑を浮かべた。


()()()()()……覚悟しろって……このことだったの?」


アルバートを見つめるシャルロットが、高速で目を瞬かせる。


「残念ながらそれだけではないよ、この間の君の問いに答えてあげる」


アルバートの眼差しが、僅かに細められる。


「この間の……問いって?」


シャルロットの唇が、緊張のためにひどく乾いている。


「僕の婚約者が誰かって聞いただろ?」


アルバートが挑発するような眼差しをシャルロットに向ける。


「え? ええ」


シャルロットがごくりと生唾を飲み込んだ。


「君だよ、シャルロット」


広間から盛大な拍手の音が聞こえる。

この株主総会によって、何かの議案が

可決、承認されたのであろう。


「ほら、行くよ! シャルロット・アルドレッド!

 いや、今日から君はシャルロット・クラウディアだね」


そう言ってアルバートはシャルロットの手を取って

広間にエスコートする。


「はあ? あなた一体何を言っているの?」


意味もわからず、シャルロットが広間に現れると、

割れんばかりの拍手と祝福の言葉が投げかけられる。


「おめでとうございます、アルバート様! シャルロット様!」


「この国の基である御三家のより深い結びつきに、乾杯!」


人々がシャンパングラスを高く掲げると、


「ども、ども」


シャルロットの父オーリスが愛想よく、その祝辞にいちいち手を振って応えている。


「ちょっと、ちょっと、お父様! これは一体どういうことですの?」


シャルロットが柳眉を吊り上げるが、

オーリスはどこ吹く風である。


「あれ? シャルロット、お前知らなかったっけ?

 10年前、アルドレッド商会(うち)が不渡りを出したときに、

 このお坊ちゃんが大量にうちの株式を購入してくれて、倒産を免れたこと」


何気にさらっと告げられた衝撃の事実に、シャルロットは戦慄を覚える。


「はあ? 初耳です」


そう息巻いて、シャルロットははたと口を噤む。


(ちょっと待って? っていうか、何気にうっすらと記憶がある)


シャルロットは高速で目を瞬かせる。

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