魔力が‥‥
悪魔暦2021年。
この年、新たなものが魔王になった。
名は『メフィスラム・ボルニクス』。
無慈悲にして絶対なる吸血鬼、ボルニクス家の唯一の跡取りにして次期当主。
その力は、前魔王である父『イゴール・ボルニクス』と、魔王配下総括者である母『スフィア・ボルニクス』の血を一番強く受け継いでいるため、誰もが史上最強であると疑いもしなかった。
もちろんそれは、メフィスラム・ボルニクス本人も思っていた。
自身が史上最強の存在になれると。
しかし。
何事にも例外というものは存在する。
疑問に思い始めたのは、6歳のころ。
本来なら6歳にもなれば、初級魔法全てとは言わなくても何かしらの初級魔法は使えるものだ。
しかし、メフィスラムは何一つとして使うことができなかったのだ。
当然不思議に思ったメフィスラムは、正直に母親に相談した。
「お母様。実は少し、お話ししたいことがあるのです‥‥」
「あらメフィ、そんな泣きそうな顔してどうしたの?」
「実は私、6歳になったのに魔法が使えないのです。私は落ちこぼれなのでしょうか‥‥?」
「あら、そんなこと?大丈夫よ、メフィ。きっともう少ししたら魔法くらい使えるようになるわ。それよりも一緒におやつでも食べましょ、出来立てのがあるわよ!」
そう言いながらメフィスラムの涙を拭き、膝の上にのせていつも励ましてくれた。
メフィスラムは、そんな優しい母親と一緒に食べるおやつがいつも好きだった。
そして6年後‥‥
メフィスラムは12歳になっていた。
12歳にもなると、本人の魔力総量は大まかに決まるので、12歳の誕生日に『魔力総量測定機』という魔道具を使い、自身の魔力総量を測るのが魔界の行事にもなっていた。
もちろんそれはボルニクス家も例外ではなくて‥‥
12歳の誕生日、珍しく家族全員集まり『メフィの誕生日会』を行った。
もちろん誕生日会は楽しかったし、メフィスラム本人もとても満足していた。
しかし、あることを除いて。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、とうとう最後のイベント『魔力測定会』が始まった。
「さあメフィ、この機械に手を置いて、手首にこの紐を巻くんだぞ!」
ノリノリなお父さんが、血圧を測る機械のようなものを取り出し、メフィスラムに渡してくる。
「ありがとう、お父さん‥‥」
メフィスラムはそれを受け取り、ゆっくりと指示通りに手首に巻いていく。
その間もメフィスラムは、ひどく緊張していた。
それもそのはず。
メフィスラムはこの12年間、一度も魔法を使えたことがなかったのだ!
もちろんやれるだけの努力はした。
早寝早起き、朝から晩まで魔法の勉強、練習‥‥
雨の日も、風の日も、雪の日も、一日も休まずに続けてきたのだ。
魔法は使えないけど、神話級の魔法の発動方法を覚えるほど、ひたすらに勉強してきたのだ。
しかし現実は非情なもので、今日この日まで使えた魔法は一つもなかった。
だけど、練習と勉強をしてきた時間は本物、裏切ることなく魔力総量に表れていると信じて。
ゆっくりと魔力測定機に手を伸ばす。
ゆっくりと手を置き、手首に紐を巻き‥‥
(これまで12年間、ひたすらに魔法を練習してきたんだ‥‥その成果は必ず出るはず!)
「よし、測定を始めるぞ‥‥」
「見てるこっちが緊張するわ‥‥」
測定が始まる。
機械音が、静かな部屋に響き渡る。
ピ!
ウィーーン、、
ピピピ!!
「結果が出たぞ‥‥」
どのくらいたったのか。
時間にしては2.30秒だったのだろうが、メフィスラムにはとてつもなく長く感じた。
「あなた、いくつあったのかしら?」
緊張した様子で母が聞く。
お父さんはゆっくりとうなずく。
「うむ、結果は‥‥」
鼓動が早まる。
緊張でのども乾いている。
(お願い、せめて総量だけはあって!!)
「結果は、0だ」
お父さんがゆっくりと言葉にする。
シーーーン‥‥
「えー-----!!??」
静かな部屋に、メフィスラムの声が響き渡る。
そんなメフィスラムの様子を見て、お父さんとお母さんは嬉しそうに声をかける。
「良かったな、メフィ!」
「そうよ!メフィ、本当に良かったじゃない!」
(二人とも何で褒めてるの!?)
それぞれほめてくれた両親の様子に、メフィスラムはすかさず疑問を口にする。
「なんで!?私魔力0だよ!魔王の娘にして魔力0って、、もう普通の人間じゃん!」
「そんなことはないぞ、メフィ!うすうすそうじゃないかと思っていたが、本当に魔力0とは‥‥これは、次期魔王はメフィに決定したも同然だな!」
「そうよ、メフィ!こんなことってあるのかしら‥‥まあ私たちの子供だもの、このくらい当り前よね!」
「だからなんでそんな喜んでるの!?魔力0って、魔法が使えないってことだよ!?」
メフィスラムは両親の喜びように納得いかず、負けじと大きな声を出す。
そんなメフィスラムの様子を見て、両親は揃って首をひねる。
「何を言ってる、メフィ?魔力が0ってことは、この測定器じゃ測定できないほどの魔力を保有しているということじゃないか」
「え、そうなの!?」
そんなの初耳とばかりに、メフィスラムは驚きの声を上げる。
「そうよ。この測定器で0を出したのはダーリンと私、そして四天王のひとたちだけなのよ?」
そんな事実知らなかった!
そんな驚いた顔をしているメフィを両親は喜ばしそうに見ていたが、ポンっと手を叩いて大きな声で使用人を呼んだ。
「システィ、来てくれシスティ!」
「お呼びですか、魔王様」
コンコン、とドアをノックして、システィが現れた。
システィは、魔王軍諜報員総隊長であるフラスコさんの一人娘であり、私の専属使用人をしてくれてる万能メイドさんだ。
私の魔法の練習、勉強の教師をしてくれていて、尚且つ使用人としての仕事もしっかりとこなしてくれている、とても信頼できる人だ。
「うむ、さっきメフィの魔力測定をしたんだが、無事次期魔王になれそうなほどの魔力を保有しているのがわかってな」
「それはそれは。おめでとうございます、メフィスラム様」
システィがこちらをみて、喜ばしそうに笑みを浮かべる。
「ありがとう、システィ。それとメフィスラムじゃなくていつも通りメフィって呼んで?」
「それはいけません、メフィスラム様。今は魔王、イゴール様とその奥様、スフィア様の御前ですので。」
そういうと、申し訳なさそうにこちらに頭を下げる。
「別に気にしないのに‥‥ね、お父さん、お母さん?」
「あぁ、気にしなくてもいいんだぞ、システィ。逆に様付けの方が違和感があるしな」
「そうよ、変に気を使わなくてもいいのよ?シスちゃんもメフィも、変に気を使いすぎなのよ?」
「私は最近は丁寧語じゃないし‥‥ってそうじゃなくて、システィもいつも通りメフィで、分かった?」
システィは少し困った顔をしながらも、少しうれしそうに笑みを浮かべる。
「わかりました、メフィ様。今日は特別な記念日、家族間での集まりの時はいつも通り呼ばせていただきます」
「うん、これからもよろしくね、システィ」
そのように話がひと段落したところで、お父さんが話を戻す。
「そうそう、メフィの魔力が膨大にあるのがわかってな、俺もいい歳になってきたし、もう少ししたら魔王の座をメフィに譲ろうと思ってな」
「えー----!!」
そう言い放つお父さんを見て、私は今日二度目の大きな声を上げることとなった