小説戦隊ラノベンジャー
頭空っぽにしてお読みください。
「この作品は自信あるからな。今頃きっとブクマと評価もうなぎ登りで、ゆくゆくは書籍化も……グフフ」
そして期待を胸にアクセス数を調べてみた少年を現実の厳しさが襲う。
「PV23……ブクマ0……評価ポイント2だと」
投稿してから10分後とかではない。ほぼ半日経ってからの実績だ。
「そんなはずはない、そんなはずはない!」
作品が日の目を見るにはまず日間ランキングに乗らねばならない。そのためには24時間のうちにどれだけポイントが稼げるかが勝負。
それを過ぎればその他大勢の埋もれていった作品の中に埋没するだけであるのに、1時間経っても2時間経ってもPVがちょっと増えただけでブクマも評価も変動しない新作のあまりの評価に、自信を持って送り出した少年は何度も何度も更新ボタンをクリックするが、当然それで何かが変わるわけでもない。
「そんなことはない、こんなはずじゃない!」
「フハハハハ! そんな小説が人気出るわけないだろ~」
「誰だお前は!」
愕然とする少年にかけられた薄気味悪い猫なで声。後ろを振り返ると異形の怪人が笑いながらこっちを見ている。
「ば、化け物!」
「化け物? 違うぞ、俺はお前の心の中に潜む願望が具現化した存在。お前の心の叫びが俺を呼び起こしたのだ」
「願望?」
「お前、ブクマが欲しいんだろ? 評価ポイントが欲しいんだろ? 俺がその望みを叶えてやろうか?」
相手はどう見たって怪しい奴。でも、ブクマがもらえる、評価ポイントが入る。今自分が欲しいものを与えてくれるという…… その申し出が少年の折れかけた心に突き刺さる。
「本当にブクマが増えるの? 評価ポイントがもらえるの?」
「ああ、俺様の言うことを聞けばお前も人気作家の仲間入りだ」
人気作家という夢のような一言に、少年は縋るように怪人に答えを求めた。
「いいだろう。まずジャンルはハイファンタジーか異世界恋愛で固定することだ」
「え? 僕は純文学が書きたいんですけど」
「純文学って何か分かってる? 悪いけどここじゃ過疎ジャンルだぞ。お前、ポイントが欲しくないのか? ブクマが欲しくないのか?」
「欲しいです」
少年のつぶやきに頷く怪人。
「だったら、異世界転生した主人公がとんでもねえチート持ちとか、隠れた才能持ちが追放された後に活躍してもう遅い! が王道よ。あ、前世はトラックに轢かれて死んどけば問題ねえから。あとはそうだな……その程度の理由で? って話で婚約破棄された奴が幸せになったら、逆に相手が没落してざまあとか、そういうのを書けばいい。こっちは婚約破棄の理由を『真実の愛を見つけた』とでも言っておけば、細かい事情はテキトーで構わねえしな」
「そんなの、流行に乗っただけじゃないか!」
「流行ってるってことは多くの目に止まるということだ。お前、ポイントが欲しくないのか? ブクマが欲しくないのか?」
「……欲しいです」
望むアドバイスとは違うが、自分から教えてくれと言った手前、少年は怪人の話を引き続き聞いてみることにする。
「あとはタイトルだな。ある程度ネタバレするレベルで長い方が目に止まる。100文字ギリギリくらいがベストだ。もし将来的に【書籍化決定!】とか入れたければ10文字くらい余裕持たせてもいいかもな」
「タイトルでネタバレなんて、そんなの小説じゃない!」
「馬鹿かお前は? ブクマやポイントを増やすにはまずPVを稼がなきゃならん。長いタイトルの方が目に止まるんだよ。このサイトだけでどれだけの人間が投稿してると思ってるんだ? タイトルで目を引かなきゃ誰も見てくれんぞ。大体お前の小説のタイトル……『白い夕焼け』って、意味わかんない! 全然興味引かれねえわ!」
「タイトルでネタバレなんて、そんなの邪道だよ……」
「ポイントが欲しくないのか? ブクマが欲しくないのか?」
「…………欲しいです」
「流行のジャンル、長いタイトル、そして後書きにポイントくれ! ブクマくれ! って書いておけば完璧だ」
「ポイントくれくれは反則だよ!」
「規約のどこに反則と書いてある? みんなやってるぞ。クレクレが嫌いな奴はポイントを入れないだけでデメリットなんかどこにもない」
「でも……」
「気にするだけ無駄だよ。『面白かった!』『続きが気になる!』と、少しでも思っていただけましたら、下にある評価をポチッと押してポイントお願いします。皆様の応援が作者の励みになりますのでよろしくお願いします! ってな。これテンプレだからコピペして毎回後書きに入れておけ。そうすればどんどんポイントが入ってお前の望むランキング入りだって夢じゃない」
「それは作品を評価して入ったポイントじゃないだろ」
「ポイントが欲しくないのか? ブクマが欲しくないのか?」
「……いらない」
「何?」
「いらないよ! そこまでしてブクマもポイントもいらないよ! 見てくれる人が少なくたっていい、評価が入らなくたっていい。僕は自分の書きたい小説を書くんだ!」
「そうかい、そうかいそうかい。なら仕方がねえな」
少年がきっぱりと断ると、怪人の態度が急に変わり、猫なで声が威圧するような声色に変わる。
「馬鹿な奴だ。せっかく俺様がお前を人気作家にしてやろうと思ったのによー。まさか断るとはな。だったらお前のアカウントを乗っ取って、俺様の書いたざまあやもう遅い系の小説をバンバン投稿してやるよ。我らの工作員総出で書いた無数のストックを世に放つのだ!」
「やめろ! 僕のアカウントだ! それに1つのアカウントを複数人で使うのは規約違反だぞ!」
「うるせえ! お前なんぞが投稿するだけ無駄なんだよー」
怪人が少年のアカウントを乗っ取り、流行ジャンルの量産品を投稿しようとしたそのとき!
「待て! ポイントクレクレ団! それ以上の悪さは許さないぞ!」
「誰だ!」
「ラノベレッド!」
「ラノベブルー!」
「ラノベイエロー!」
「我らは小説を愛し」
「投稿する作家を守り」
「悪どいポイントクレクレ野郎を成敗する」
「小説戦隊ラノベンジャー!」(ドカーン!)
「出たなラノベンジャー、いつもいつも邪魔ばかりしおって!」
「怪人ハヤリモーノ、今日こそ許さないぞ!」
「ハッ! やれるもんならやってみな!」
「行くぞ! 2ポイントパーンチ」
(説明しよう。2ポイントパンチとは、「お前の小説つまんねーよ」という思いを込めた痛烈なパンチなのだ)
「グヘヘヘ、効かねえな」
「何故だ! 全然効いていない!」
「ダメだイエロー! こいつ低評価でもポイントが入ったこと自体に喜んでいる」
「ならばこれだ! ネガティブ感想欄アタッーク!」
(説明しよう。ネガティブ感想欄アタックとは、作風の急激な転換、ぶれぶれ設定、後付けモリモリ、伏線張りすぎて回収出来なさすぎ、登場人物出過ぎ、そもそもつまらない、恋愛してないのに恋愛カテゴリの詐欺連呼など、様々な要因でネガティブコメントで溢れかえった感想欄を見せつける攻撃なのだ)
「ふおー、つまらないだと! ありきたりだと! ひねりがないだと! 投稿数ゼロのカス共が調子に乗りおってー!」
「ナイスだブルー、かなり効いているぞ!」
「とどめだ! 運営垢BANキャノン!」
(説明しよう。運営垢BANキャノンとは、どうしようもないときに、アカウントごとこの世から消し去ってしまう、ラノベンジャーの最終必殺技なのだ!)
「ぐわあー、俺のアカウントが、アカウントがー」
「お前はアカウントもろとも闇の底へ消え去るがいい!」
「おのれラノベンジャー。俺は死なん、いつかまた別垢で蘇ってみせる……うおー!」
「少年、大丈夫か」
「ラノベンジャーありがとう」
「よく頑張ったな。君が流行に流されず、自分の望むものを書きたいと願ったおかげで、クレクレ団が倒せたんだよ」
「うん! これからも好きな小説を書いていいんだよね」
「もちろんだ。これが君の書いた新作かい?」
「うん、自信作なんだ!」
「どれどれ……あーうん、これは……」
「ラノベレッド、どうしたの?」
「正義のヒーローは嘘はつけないから正直に言おう。つまらない!」
「そんなー」
こうしてラノベンジャーは今日も一人の作家を救った。
だが、クレクレ団との戦いはまだまだ続く。
もしかしたら、次に貴方のところへ現れるかもしれない……
「ポイントが欲しくないのか? ブクマが欲しくないのか?」
お読みいただきありがとうございました。
決して流行を否定するとか、マイナージャンルを馬鹿にするという意図はございません。
自虐とか自戒の意を込めて書いてみました。
よかったらポイントクレクレ~
ハッ、ここにもクレクレ団の魔の手が!