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第二話

 彼はびっくりしてあたりを見渡した。うす暗い部屋の中は、中央にある暖炉の火に照らされ、そこらじゅうでチロチロと影がゆらめいていた。どうやらここは、リビングのようだ。部屋の中には誰もいなかった。彼の身体にはいつのまにか毛布がかけられていた。おそらく自分は寒さに震えていたのだろう。どうやら山の中で、誰かが気づいて運んでくれたようだった。


 助かったのか……?


 彼はホッと胸をなでおろした。しかし、安心するのもつかの間、彼はすぐさま目をするどく光らせた。どこの誰が助けてくれたかは知らないが、いつまでもここにいるわけにはいかないだろう。なんせ俺様はどろぼうだ。街からはなれたとはいえ、追っ手がこの家の持ち主に、いつ連絡してきてもおかしくはない。


 そっと毛布から抜け出し、誰にも見つからないように忍び足で部屋を出ようとして…彼は自分がものすごくお腹がすいていることに気がついた。さっきの街では、いつもごちそうになっている肉屋から、うっかり夕食を盗みそこねていたのだ。


 出て行く前に、ここでなにか食い物をいただいていこうか。


 そう思い、彼はにやりと笑い目を細めた。

 生まれたときから親を知らず、「路地裏の浮浪街」で育った彼にとって、食べ物を食べるにはまず誰かから盗むか、無理やり奪うかのどちらかしかなかった。きれいごとだけでは飯はくえない。生きるためには毎日なにかを食べなければならず、彼は10年間、ずっとその街のルールにしたがって生きてきた。


 だから、この部屋の中でなにか食べるものをいただこうとするのも、彼にとってはまったく悪気のないことだった。暗やみの中目を光らせ、彼は部屋中の箱を開けて回った。壁ぎわにある、小さな箱の中には、何もない。その横の大きな箱の中にも、なにもない。それじゃあ、そのまた隣の、たてながの冷ぞう庫の中には…。彼は思わず舌なめずりをして、ゆっくりと取っ手を引っ張った。


 ガチャン。


 とつ然、彼の後ろで大きな音がして、部屋のとびらが開かれた。彼はおどろいて、あわてて冷ぞう庫のそばに身をかくした。


 「誰かいるの…?」


 廊下のあかりを背に受け、部屋に入ってきたのは、五さいくらいの女の子だった。彼は暗やみにその身体を隠して、じっと女の子をかんさつした。きっとこの家の住人だろう。眠そうに目をこすりながら、パジャマ姿の女の子が、ゆっくりと彼のいる方へと近づいてきた。彼は目を細めた。ここまできて、捕まるわけにはいかない。もし見つかりそうになったら、この女の子ののどを引きちぎってでも逃げ出してやる。そう思って、彼はみがまえた。


 女の子は、彼が隠れている冷ぞう庫の前で立ち止まって、そっとつぶやいた。


 「もしかして、サンタさん…?」


 女の子の問いかけに、彼はやっと気がついた。そうだ。そういえば今日はクリスマスだった。どうりで、街の夜がいつもよりさわがしかったわけだ…。


 「なーんて、いるわけないか…」


 彼がじっと動かないでいると、女の子は自分に言い聞かせるように、がっかりとした感じでそう続けた。それから女の子は暖炉の前の椅子にすわると、そのままそこでうとうとしはじめた。


 彼は困った。このまま女の子にこの部屋にいてもらっては、食べ物も探せないし、家から逃げ出すこともできない。しょうがない。少し危険だが、痛い目にあってもらおう…。彼は冷ぞう庫の影からゆっくりと身をのりだし、女の子に近づいていった。そーっと足を忍ばせ、物音を立てないように、一歩、また一歩。もう少しで、女の子の首元に手が届く。とうとう目の前にまで近づいたとき、彼はその場で大きな音を立て、思いっきり転んでしまった。足元においてあった、くまのぬいぐるみに気がつかなかったのだ。


 「…だれ!?」


 物音に気づいた女の子が、びっくりして彼の転んだ方向を見つめた。彼はまだ痛みをこらえ、床に大の字になったまま起き上がれずにいた。


 「サンタさん!? サンタさんなの!?」


 彼は首を上に曲げ、女の子を見た。椅子から飛び上がって、かん高い声を上げる女の子のしせんは、彼を通りこして暗やみを見つめていた。


 「ホントにきてくれたんだ!? やったぁ!!」


 女の子が、暗やみに向かって嬉しそうに叫んだ。


 「ありがとうサンタさん! お願い、一日でいいから、私の目を見えるようにしてください!」

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