ニ、事情と説得
じわじわと進んでいきますよ……
実際の時間は大して進んでないけれど。
「ベラちゃんのこと、教えてほしいの。そうしないと、これからどうすればいいかが分からないのよ。どうしても話したくないことだったら、首を振ってくれればいいから、ね。お願い。」
沈黙が流れる。先程までの和やかな空気が嘘だったかの様に、張り詰めた雰囲気へとシフトする。
「う、うん。」
「ありがとう。それじゃあ、お家はこの近くにあるの?」
「ううん。魔族のみんなが住んでるところにベラも住んでる。」
「そう。なら、どうやってこんな遠くに来てしまったのかしら。お父さんかお母さんはここにはいないのかな?」
「……いない、と、思う……」
一問目に比べて、声が格段に暗くなった。目線も下を向き、ベラを見つめるエリーゼとは合わない。
(親の話題が嫌なのかな……)
「誰か、ベラちゃんをここまで連れてこられそうな人に心当たりは?」
「……。」
黙り込んでしまった。しかし、首を振るわけではない。話すことを拒んでいるわけではなさそうだ。それでもこのままでは埒があかないので、質問を変えようかとエリーゼが考え込んでいると、か細い声がした。
「お、かあさま。」
「えっ。」
「おかあさまならここまで来られるよ。あのね、森で起きるまで一緒のお家にいたの。それでね……おかあさま、ベラのこと……いらない子だって言ってた。ベラ、捨てられちゃったのかな……。ダメな子だから。」
消え入りそうな声でポロポロと話し出す。次第に涙もポロポロと流れ落ち、嗚咽をあげる。
(捨てられたなんて……。こんなに小さな子を、魔獣も出て来るこの森に……、信じられない。母親、ね、神の御名の下に……いや、そんなの関係ない……。罪を懺悔させて消してやりましょうか)
エリーゼからはその衣装以上にどす黒いオーラが湧き出ている。
「お姉ちゃん……?」
気配に当てられ、流れ落ちていた涙は引っ込む。その代わりに恐怖が身を包み、体が小刻みに震えている。エリーゼは、慌てて気配を引っ込め、笑顔を取り繕う。
「ごめんね、ちょっと考え事してただけよ。大丈夫、大丈夫。あっ、それで、ベラちゃんはこれから行くとこないのよね。だったら、私の家に来ない?良ければ一緒に暮らしましょう。」
言った本人でも無理がある様感じるが、エリーゼは強引に話題を変更した。引き取るのは出会った時から、頭の片隅には選択肢として入れていたことだったので、思わず言ってしまったものの問題はない。それに対して、大きな反応をあげたのはベラの方だった。
「一緒に……?で、でもベラ、邪魔しちゃうよ。ダメな子だもん。お姉ちゃんに迷惑かけちゃうから……」
(どうしてこの子は自分をそんなに悲観して……)
「ベラちゃんは、ダメな子なんかじゃないわ。とても良い子よ。まだ、少ししかお話してないけど、あなたの事がとても好きになったの。ベラちゃんの方こそ、迷惑に思ってないなら一緒にいきましょう?」
「え、えーと……」
中々決心がつかない。しかし、エリーゼの中ではもう既に決まっている。ベラが遠慮がちな性格だということは分かっているので、押し通そうと畳み掛ける。
「ベラちゃんは私の事嫌い?」
「そんなことないよ!ベラもお姉ちゃんと一緒がいい!」
「そう。なら、一緒に帰りましょう。」
「…………うん。」
エリーゼが手を差し出すと、ベラはその手を掴む。瞳からはまだ迷いが見えるが、了承はとった。体を引き寄せるとそのまま抱き抱え、空で待機していた大鎌に乗る。そして今度は二人で帰路へと着いた。
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