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英雄達の偽曲~親友に裏切られて全て失ったけど【コスプレ】スキルで世界征服に邁進します~  作者: 最終章
魔国征伐~魔国の西の森にて~(異世界転移12か月後)
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第79話:死別

「クロ隊長!」



 弓矢で場を荒らしたところに、一人の隊員が飛び込んできた。彼女は、俺の身体を抱えると、一目散に離脱した。



「ソマリ!?」


「へへ、ひどい顔だな、クロ隊長」



 ソマリと、数人の生き残リの隊員。彼女達は、もはや他のことを何も考えず、ただひたすら森の中を駆けた。



「生きていたのか?」


「死んでたまるかよ。まぁ、死にかけたけどな」



 見れば、ソマリの軍服が血で染まっている。先の戦闘で、どこかやられたのだろう。今、動けているから問題ないのか?


 それより。



「おい、俺は置いていけ!」


「まだそんなこと言ってんのか!」


「フルイデに俺を殺す気はない。おまえらさえ逃げられれば、まだチャンスはある」


「あんな奴の言うことを信じるつもりかよ!」


「今はそれしかない!」


「なんだよ。そんなこと言って、あたし達を裏切るつもりじゃねぇのか!」


「そんなわけないだろ! どうして俺の言うことを聞かないんだ!」



 俺は、再びこみ上げてきた涙を呑み込んで、震える声を絞り出した。



「俺は、おまえに生きてほしいだけなんだ」


 

 俺が必死になって伝えたというのに、ソマリは、おかしそうに笑った。



「奇遇だな。あたしもそうだよ。正直、今は作戦なんてどうでもいい。クロ隊長に生きてほしい」



 思いは同じはずなのに、俺達の思考はすれ違う。その決定的なズレが、もはや後戻りを許してくれない。


 いや、初めから後ろに道などなかった。この作戦を開始したときから、帝国との同盟を結んだと勘違いしたときから、この運命は決まっていた。


 おそらく、俺がどんな選択をしても、こうして俺達は、望みのない逃走劇を繰り広げることになったのだろう。


 ほんのひとときの希望の時は、悲鳴と共に終わりを迎えた。


 

「くそっ!」



 ソマリが足を止める。


 大鎌を一振りするだけで、数人の隊員を斬り殺し、刃についた血を振り払い、こつんと棒尻を地面におき、にこやかにこちらを見る吸血鬼。



「逃げるのは、無理かな」



 シグレは、ふふと笑った。


 舌打ちをしつつ、ソマリが吠える。



「化物女め!」


「あはは、化け物はそっちでしょ。って、そういえば、あたしも今は悪魔なんだっけ」



 かる口を述べるシグレに、俺はなんとかコミュニケーションを図った。



「おい、シグレ! 逃げたことは謝る。俺はおまえらの仲間になる。だから、こいつらを殺さないでくれ!」


「あれ? さっき殺すって言ってなかった?」


「撤回する。全面的におまえに従う」


「変わり身、早っ!」



 もういい。策略も何もない。今の俺にできるのは、完全に勝負から降りること。それ以外に生きのびる道はない。



「まぁ、もうどうでもいいんだけど」


「どうでもいい?」


「うん。もうフルイデは帰ったから」


「何?」


「私に任せるってさ。あいつも忙しいからね」



 だから、とシグレは告げる。



「クロウは死ぬことに決まりました」


「なっ! 話が違うぞ!」


「仲間にしたいって言ったのはフルイデでしょ。私は、別にどっちでもよかったの」



 でも、とシグレは続ける。



「クロウに会って考えが変わったわ。あなたは、今の内に殺しておいた方がよさそう」



 大鎌を撫でるシグレを見て、俺は背筋を寒くする。



「この世界征服ゲームってさ、実際のところ、私やあなたみたいなランクの低いチートスキル持ちには有利だと思うの。だって、私達は、国が負けそうになったら、寝返ればいいじゃない? 最終的に勝ちそうな国のローランカーを殺して、チーム入りすれば勝ち。つまり、別に戦争にまじめに参加する必要はないの」



 だから、とシグレが俺に目を向ける。



「クロウはローランカーだし、最後に私の敵になりそう。チートスキル的には大したことないけど、フルイデが一目置くような奴は、生かしておくと面倒だなと思ったの。だったら、今の内に殺しておいた方がよくない?」



 平然と言ってのけるが、その圧倒的な力による恐怖は凄まじく、俺達はすくみあがった。



「あぁぁぁぁあ!」



 隊員の何人かが、恐怖に耐えかねて、シグレに襲いかかる。

 

 しかし、彼らの攻撃が通ることはなく、無情にも一振り、たった一振りで、彼らは肉塊となる。


 さすがに、隊員は戦意を喪失そうしつさせた。悲鳴をあげて逃亡する者、腰を抜かす者、一歩も動けずに立ち尽くす者。


 いずれの動作も、シグレの一動作でたれる。誰も逃がすつもりはなく、誰も見逃すつもりもなく、誰も彼も生きて帰さない。


 自然な成り行きなのだろう、隊員は全滅して、残るはソマリと俺だけとなった。



「頼む。俺はいい。だから、こいつだけは殺さないでくれ」

 

「その子、お気に入りなの?」



 くすりと笑って、シグレが尋ねてくる。



「クロもすみに置けないわね。戦争しながら彼女なんて作っちゃって。ルミちゃんが泣いちゃうわよ」



 うーん、とシグレは少し悩む仕草をした。



「やっぱりだめ。あとで復讐ふくしゅうされたら嫌だし。うふふ、女のうらみは怖いんだよ」



 もはやあらがいようがない。ソマリも俺も怪我をしていて、十分に動けないし、仮に万全であっても、シグレに勝つことも、逃げることもできない。


 気づけば、ソマリの身体が震えていた。この生意気で勇敢ゆうかんな女でも、死が目の前に来れば、さすがに怖いのだろう。


 そんなソマリが、震える声で話しかけてきた。臨戦態勢を解いてしまって、既に声に覇気がない。



「なぁ、クロ隊長」


「何だ?」


「あたし達、死ぬよな」


「あぁ、そうだな」


「怖いな」


「怖い」


「『クリーミーママ』のクレープ、まだ全種食べてないんだよな」


「あの世で食えるさ」


「なぁ、クロ隊長」



 ソマリは、俺を地面に降ろし、一つ息を吸ってから、にこりと微笑んだ。



「あたしさ、クロ隊長のこと――



 その言葉を最後まで聞くことはできなかった。


 ソマリの声は、大鎌の風切り音によってかき消され、同時にソマリの身体が二つに切り裂かれた。


 

「あ」



 半身から血が噴き出す。



「あぁぁぁぁ」



 彼女の頭部は転げ落ちる。そこに表情はない。見開かれた瞳と呆然ぼうぜんと開かれた口。



「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」



 俺は、もはや何も考えられなかった。叫びはのどきそうで、怒りは脳を燃やしそうであった。



「あら、一緒に殺してあげようと思ったのに、手元が狂っちゃったかしら?」



 飄々《ひょうひょう》と言うシグレがあまりに憎くて、俺は、折れた足を引きり、殴りかかった。


 だが、そこで気づく。


 俺の右腕がないことに。


 先ほど、ソマリが斬られたときに、同じく斬られたらしい。


 それがどうした!


 と俺が、突撃しようとしたとき、ふと足から力が消えて、俺の身体は崩れ落ちた。


 見れば左足がない。


 顔を上げると、シグレの大鎌が禍々《まがまが》しい黒色を光らせながら、血を滴らせている。


 最後に、シグレは告げた。



「じゃあね、クロウ」

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