第78話:悪魔の勧誘
何と言った?
今、フルイデは何と言ったんだ?
仲間になれ?
俺が? フルイデの? 仲間に?
俺の部隊の隊員を殺戮した後に、血に染まったこの惨状を見た上で、俺に渾身の殺意を向けられている中で、俺に仲間になれと言ったのか?
「俺を、バカにしているのか?」
「いや。言葉の通り、誘っているんだ。魔国に来て、俺の仲間になれ」
「何で、俺を?」
「おまえが優秀だからだ。前々から思っていたが、異世界に来てから顕著だな。クロウの活躍は聞いている。だから、ぜひ、うちにほしい。世界征服するために」
迷いなく、フルイデは話す。その様子があまりに平然としているので、こちらがおかしいのではないかという錯覚を覚える。
「そんな誘いに俺が乗ると思っているのか?」
「クロウならな。聞けば、王国では冷遇されているそうじゃないか。まったく見る目がない。チートスキルの強さなんて、オマケでしかないのに」
「そういう意味じゃない」
「あぁ、チームの人数制限を気にしているのだろう。確かに、うちのメンバはまだ誰も欠けていない。しかし、最後までそうだとは限らない。誰か死んだら、チームに入ればいいし、最後まで誰も死ななければ、そのときに奪取してもいい。少なくとも俺は最後まで皆生きているとは思っていない」
「そういう意味じゃない!」
俺は声を荒げた。
「目の前で仲間を皆殺しにされて、どうして、皆殺しにした奴の味方になると思うんだ!」
再び零れそうになる涙を呑み込んで、俺は叫んだ。しかし、フルイデは首を傾げるだけだった。
「仲間?」
そんなところにひっかかって、フルイデは、地面に転がる隊員の頭を蹴飛ばした。
「こいつらのことか? おいおい勘弁してくれ。クロウらしくない。これはただの駒だろ? 戦争に勝つための道具だ。仲間なんかじゃない」
「やめろ! おまえなんかが、俺の仲間に触るな!」
「本気で言っているのか? クロウ、目を覚ませよ。俺達は、この世界に移住しに来たんじゃない。戦争をしに来たんだ。この世界の兵士を利用して、戦争に勝利する。それだけだ。おまえなら、わかるだろ」
「わかるか! どうして、そんなイカれた理屈がわかると思うんだよ!」
「わかるさ。おまえは俺と同じだ。自分の望みが叶うのならば他はどうなってもいいと思っているだろ」
「!?」
こいつは、何を言っているんだ?
「おまえと一緒にするな! この狂人め!」
俺が吠えるが、フルイデは動じない。
「自覚がないのか。まぁいいが、はぁ、クロウがそんなに異世界人に愛着を持っているとは思わなかったな。シグレも余計なことをしてくれた」
「えー、私のせい?」
「もういい。そうだな、切り口を変えよう。シグレ、その辺で、生きている奴を連れてきてくれ」
「私が? もう、人使いが荒いんだから」
言いつつ、シグレは、鎌で器用に人を掬いあげ、フルイデのもとへ運んでくる。
「た、い、ちょう」
フルイデは、隊員の頭を掴み、そして、引き起こす。足を斬られ、腕を折られ、瀕死の彼の目を俺に向ける。
「俺の仲間になるのだったら、こいつらを生かしてやろう。王国に帰すわけにはいかないが、魔国で引き取ってもいい」
「何だと?」
「だが、俺と敵対するというのならば殺す」
「やめろ!」
パン!
俺の制止の言葉を聞かず、フルイデは隊員の頭に銃を突きつけた。チートスキル創造主で作成した拳銃。彼は、やはり躊躇いなく引き金を引いて、隊員の息の根を止めた。
「一人ずつ殺していこう。こいつらを仲間だというのであれば、賢明な判断をしろ」
「どうして、こんなことができる? おまえには人の心がないのか?」
「勝つためだ。俺は、この戦争に勝つためだったら何でもやる。そのために他のものはすべて捨てる覚悟をしている。友も常識も道徳も正義もいらない。俺は傲慢ではないからな。勝つ以外のことを求めないさ」
シグレが運んできた隊員の頭を撃ち抜きながら、フルイデはぽつりと零した。
「人の手は小さいからな」
実のところ、フルイデの声は、ほとんど頭に入ってこなかった。沸き起こる怒りの合間で、思考することに精いっぱいだったからだ。
フルイデに従えば、隊員は助かるのか? だとしたら、フルイデの申し出を受け入れる方が得策か。生き残って欺けばいい。逃げ出して王国へ帰ることもできる。
「あぁ、もしも形だけの合意を考えているのだとしたら、別にそれでもかまわない。今後の戦況を見れば、勝つためには、魔国に来ることが合理的だとわかるだろう」
「勝つため? 笑わせる。魔国が王国に勝てると思っているのか?」
「まだ勝てない。そのためには準備が必要だ。しかし、この戦争に勝つのは時間の問題だな」
「何だと?」
「おまえは、他の部隊から通信を受けていないのか? 許可するから、繋いでみたらどうだ?」
そんなはずない。トーイチロの巨大化があったとしても、こちらにはアキトとカスミがいるのだ。何か不測の事態が起こっていたとしても、対処できないはずがない。
俺は、本部に魔法通信を試みた。
「おい、クロだ。戦況を教えろ。もう要塞は落としたのか?」
『クロ隊長ですか? 無事ですか!? 戦況ですが、本隊は既に撤退を開始しています! クロ部隊もエドガー要塞まで後退してください』
「どういうことだ? 撤退だと!?」
『帝国軍です! あいつらが裏切りました!』
「何!?」
『帝国軍のゾンビ兵と、魔国の巨人により部隊は壊滅的です。戦闘続行は不可能』
「待て! アキトとカスミは何をしている? あいつらがいながら、何だ、その体たらくは!?」
『アキト様は、帝国と魔国の英雄と交戦中です。カスミ様は、巨人と交戦です』
何だ、これ?
本部隊が壊滅? こちらが優勢だったんじゃないのか? 俺達の奇襲はうまくいって、数の利はこちらにあって、要塞を落とすのは時間の問題で。
ふと、気づいて、フルイデを見上げた。
「全部、おまえが仕組んだのか?」
「仕組んだなんて、たいそうなことはしていない。俺は帝国に裏切りを持ちかけただけだ。いちばん強い王国をまず倒そうとな」
「俺は、何も知らずに」
「強さを自覚するべきだったな。俺達から見れば、王国が残っていることは脅威でしかない。帝国も最弱の魔国なんて倒すより、王国を潰したいんだよ。その絶好の機会となったわけだ」
「失敗して」
「まぁ、それでも王国が滅びるわけじゃないが、相当のダメージを負わせた。これで、戦力的には横並びといったところか。なぁ、わかっただろ。魔国にも勝利の目が出てきたんだ。ここで、クロウがうちに来れば必ず勝てる」
フルイデは、そこで微かに笑った。
「なぁ、クロウ。うちに来い」
「俺は……」
俺が、言葉を発しかけたときだった。
空から弓矢が降り注いだ。




