第77話:地獄絵図
それは、ただの殺戮であった。
集まってくる隊員達。彼らは、剣を抜いて構えているが、そこに意味はない。俺のチートスキルで性能をあげてなお、シグレの大鎌には歯が立たない。
「あははははははは!」
笑いながら、シグレは鎌を振るう。
俺を中心に円弧を描くようにして飛び回り、隊員達を切り裂いていく。
悲鳴が轟く。
血が飛び散る。
死体だけが立ち尽くし、肉片だけが転がって、残響だけが耳に残った。
「もう、やめてくれ」
殺されて。
殺されて殺されて。
殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて殺されて。
昨日まで、隣にいた者が。
飯を食っていた者が。
賭けに勝って喜んでいた者が。
酒に酔って踊っていた者が。
家族を思っていた者が。
神に祈っていた者が。
死んでいく。
軽々と。
鎌をくるりとまわす度に、命が一つ消える。まるで風船が割れるように、簡単に、消えていく。
こんなにも、簡単に、消えるものなのか。
「なぁ、もう、やめてくれ」
涙が零れる。
泣いてはいけない。いけないと、ずっと堪えてきたけれど、この惨状は、俺の決意をいとも簡単に打ち崩す。
隊員が死んでいくことが悲しくて、死の時が目に映るのが辛くて、何もできない自分が不甲斐なくて、恐怖している自分が情けなくて。
涙が止まらない。
「もう、やめてくれ」
俺の慟哭をよそに、悲鳴と笑い声は続く。死を振りまく死神は、俺の声など聞くことなどなく、笑い、踊り、殺す。
声が届かなくても叫ぶしかなく、ただただ叫んだが、現状を変える力はなかった。
しかし、ふと、シグレは動きを止めた。
それは、俺の懇願を聞き届けたからではない。もう一人、ここにはいなかったもう一人の声がかかったからだ。
「おい、シグレ。その辺でやめておけ」
突如、空間に現れた黒い円、そこから一人の魔人が現れた。
「あら、フルイデ。まだ呼んでいないけど」
「おまえが通信に応答しないから来たんだ。ちゃんと報告をしろ。基本だぞ」
「あ、ごめん。ちょっと夢中になっちゃって」
まったく、とフルイデは頭をかるく振った。
古射手伊月。元クラスメイト、魔国の英雄の一人で、おそらくリーダー的な存在。その彼が、俺達の前に姿を現した。
「誰がいきなり皆殺しにしろと言った。俺は、まずクロウと話の場を作れと言ったんだ」
「えー、だって、こいつらが襲ってくるんだもの」
「おまえなら、殺さないで無力化することもできただろ。もう少し作戦の趣旨を読んでくれ」
「ほーい」
何を言っているんだ、こいつら?
俺は頭がおかしくなりそうな思いだった。
俺の部隊の隊員達が、無惨に切り裂かれ、肉片となって転がっている地獄絵図の中で、彼らの気の抜けるような口調が、あまりに不調和で、どうしても理解できなかった。
何はともあれ、殺戮は終わった。ただ遅すぎた。今となって、俺の部隊で立っている者はいない。辛うじて生きている者も、倒れ伏して呻いている。
「久しぶりだな、クロウ。元気、そうではないな。その足は、シグレにやられたのか?」
混乱している俺に、フルイデが声をかけた。それから、彼は周囲を見まわして、頭をかく。
「まぁ、戦争だからある程度は仕方ないと思うが、少々やり過ぎたようだな。すまない」
「……すまない?」
すまない、だと?
「そんな言葉で済まされるものかぁ!! 殺してやる! おまえら、絶対に殺してやる!」
俺は激情の限り叫んだ。
怒りで人を殺せるのならば、百万回殺せるように、叫び散らした。
そうしなければならない。
そうすることしかできない。
だが、俺の叫びを聞いてもなお、フルイデは慌てることなく、澄ました顔で応じた。
「まぁ、そうなるよな。いや、当然だ。これだけ多くの駒を壊されては、怒るのも無理もない」
コマ?
「こうなってしまっては仕方がない。難しいかもしれないが、できるだけ冷静に俺の話を聞いてくれ」
もはや、自分の常識の外に話が進み過ぎて理解が及ばない俺をおいて、フルイデは告げた。
「クロウ、俺の仲間にならないか?」




