第73話:歯車の外れる音
ドン!
低い破裂音が鳴り、
「弾着!」
続いて、遠方でさらなる破砕音と、瓦礫の崩れ落ちる音。
基地が大きい分、当てるのが容易であった。破壊力は、魔法で補っており、弾着と同時に炸裂するようになっている。
基地は固く堅牢であったが、さすがに砲弾を当てれば崩れる。それに、立地もよかった。基地よりもやや高め、そして近距離からの一斉砲撃。
これで、破壊できなければ、正直、お手上げだったのだが。
なんとかなりそうかな。
「角度の修正を急げ。準備が整い次第、片っ端から撃ちまくれ!」
「「「おう!」」」
砲撃を行っているのは、ボンベイ分隊とバリニーズ分隊である。魔法による強化と爆破で、砲弾を打ち出すわけだが、実際の大筒よりもかなりの破壊力がある。時間不足で、砲撃の練習はあまりできていなかったが、良い出来だ。
こちらの砲撃に驚いていた魔国軍であったが、すぐさま反撃をしてくる。銃撃音が鳴り、基地が暗闇の中でぴかぴかと光った。
射程が異なるため、向こうからの銃弾が届くことは稀である。
こちらと同じように大砲を撃ってきたら、
「耐えろ!」
ラブル分隊が盾で防ぐ。彼らの防具は、当然、俺のチートスキル武装強化で強化してある。
「一発も通すなよ!」
「「「おう!」」」
「それから、ボンベイ分隊は、砲台を狙え! 相手を無力化しろ!」
「「「了解!」」」
銃撃では、こちらにダメージを与えられないとわかると魔国軍は、要塞から出て、こちらに向かってきた。
こちらの砲台を潰さなくては、ただ要塞を攻撃されるだけだ。ゆえに、この動きは自然。
「ソマリ、敵が向かってきた」
『おっけ! 野郎ども行くぞ!』
「黙っていけ!」
こちらに向かってきた敵兵をソマリ分隊が叩く。闇夜に乗じれば、獣人に勝てる者はいない。
魔国軍は、皆、銃で武装しているが、森の中では、その射程の長さもあまり意味をなさない。
森に入った時点で、獣人の圧倒的優位となる。
「想定通り、か」
奇襲としては、今のところ成功している。要塞の砲台は既にあらかた潰しており、こちらの被害は最小限に留まっている。
あとは、英雄の出方次第だが。
もしも英雄がこちらに迫ってきたら、撤退して、吊り出す。そうすれば、本部隊が要塞を攻めやすくなるわけだ。
それは、魔国軍もわかっているだろうから、そう簡単には出て来ないと思うけど。
『クロ隊長! 全弾撃ち尽くしました!』
「よし、サク、砲台を回収! 全部隊、次の地点に移動するぞ!」
『『『了解!』』』
人数的にも真っ向勝負ではやられてしまう。もともと奇襲なのだから、基本はヒット&アウェイ。攻撃をくらわすだけくらわしてあとは逃げる。
「しんがりは俺とソマリ分隊で務める。ラブル分隊長、先導は任せる」
『承りました』
俺達が撤退を始めた頃である。タイミング的にはぴったりで、同時刻、咆哮と地響きのような足音が鳴り響いた。
「うまくいき過ぎだな」
王国軍が到着し、要塞へと攻撃をしかけた。
砲台を潰したのが利いているようで、魔国軍は、王国軍の進撃を止めるのに手間取っていた。
銃撃で応戦しているが、王国軍とは数が違い過ぎる。要塞も取りついてしまえば、その意味をなさない。
攻略も時間の問題だろう。
「ソマリ、深追いするな。俺達の仕事は終わった。魔国軍が撤退するのならば、それでいい」
『へいへい。っちぇ、大将首を取り損ねたぜ』
文句を言いつつも、ソマリはいそいそと戻ってきた。
砲台の撤収を終えて、既にサクはベースに送り返している。彼は、そのまま補給して、本部隊に物資を運搬する計画だ。
おそらく、この戦争の中で、最も移動することになるだろう。それだけ重宝されるというのもある意味不幸なことか。
俺達の部隊は撤退して、その後、戦況の変化があるまで待機だ。
本部隊には、アキトがいる。要塞攻略は、できれば、アキトの力抜きでやって、彼の力は温存したいところだが。
あいつが、我慢できるかどうかだな。
などと、俺が不穏なことを考えたのがいけなかったのだろうか。
ゴン!
凄まじい光と爆撃音が鳴った。
それは、アキトの聖剣の輝きであり、彼がチートスキルを使ったことを意味していた。
あのバカ! いきなり使いやがって!
要塞を壊しても、魔国軍にはフルイデがいる。彼のチートスキル創造主で、いくらでも建造物は修復されてしまうというのに。
俺が、頭を抱えていたところ、ふと不自然さに気づいた。
光の方向が違った。
その光は、要塞の近くではなくもっと遠方、北の森に向けて放たれたようであった。
「おい、いったい何をやっている!?」
俺は、王国軍のチャンネルに向けて魔法通信を放つが、ジャミングが強くて繋がらない。距離はあるが、隊員をホッピングして本部経由で繋がるはずだが。
「くそっ!」
少なくとも何かがあった。王国軍の最大戦力であるアキトのところで、力を使わざるを得ない何かが。
「ソマリ分隊は、敵兵を撒いたら、アキトのもとへ向かう。しんがりは、ボンベイ分隊が引き継げ!」
『クロ隊長、そいつは無理そうだ』
「何?」
俺は、咄嗟にソマリの方を向いた。通信で話していたが、彼女は俺の視認できる距離にいる。
そのさらに奥。
月明りが、森の陰影が露わにする中、ゆっくりと歩いてくる人影。
「やっほー、クロクロ。久しぶり」
魔国の英雄、別府時雨は、この場に不似合いなかるい挨拶を投げかけて、狂気に満ちた、やけに明るい笑みを浮かべていた。




