第72話:奇襲開始
クロ部隊は、暗い森の中を進んでいた。
まだ夜が明けていない上に、鬱蒼とした森の中は、いっそうの暗さを内包していた。
ただ、獣人達には、そうでもない。彼らは、俺らと目の構造が異なるらしく、夜であろうと星の明かりで、十分見通すことができる。
この特性が、作戦の肝だ。
移動することが困難な南方ルートを、人間や魔人では活動できない時間に移動する。
だからこそ、魔国の虚を突く奇襲となる。
作戦事態はわるくない。ただ、時期がわるかった。
「月が明るすぎるな」
この世界は、元の世界と物理法則が類似している。とすれば、宇宙や惑星といった構造は、同じである可能性が高い。
月も同じだと思っていた。
だが、そうではない。この世界の月は、おそらく魔法、魔光石で輝いている。太陽との位置関係は重要でなく、宇宙を漂う魔力の増減で、満ち欠けが変わるのだ。
その魔力の増減に規則性はなく、月の満ち欠けは予想ができない。だから、運次第だったのだが。
「運がわるいな」
ルミが願っても、さすがに月の満ち欠けを変えるには至らなかったか。
ルミは、森に入る手前の王国軍本部で、チートスキル寵愛を使って、王国の勝利を願っている。彼女の力は、距離が近く具体的であればあるほど叶いやすくなるため、ついてきてもらったのだ。
本人は気が進まない様子であったが。
真ん丸の月が、夜空に出ている。その明かりのおかげで、森の木々の陰影ははっきりと見えて、俺にも白黒の世界が見えている。
部隊を進める分にはよくて、想定よりも早く動けている。ただ、それは、俺のような人間でも活動できるからだ。
だとすれば、魔人も同じこと。
夜でも見通せる獣人の目という優位が、活かしきれず、奇襲としての効果が薄まる。
まぁ、それでも、この南方ルートは、彼らの意識の外にあるはずだが。
俺は、頭を振った。
悪い癖だ。少しでも想定と違うことがあると、わるい方わるい方へと考えてしまう。
この程度の問題は無視できる。むしろ、人間の隊員の動きがよくなってプラスかもしれない。
いや、主に俺のだけど。
うちの部隊、ほぼ獣人だし。
「各部隊、問題ないか?」
『ソマリ分隊、問題ないぜ』
『ボンベイ分隊、同じく』
『ラブル分隊、予定通りです。ただ、ソマリ分隊は、少し先行しているように思いますが』
「おい、ソマリ」
『ラブルのおっさん、ちくんなよ』
『命令には従いなさいよ。お嬢ちゃん』
『陣形が乱れると全体が危険に陥ります。後方との連携をしっかりとってください』
はーい、とソマリは返事をする。この女、俺の指示はときおり無視するくせに、ラブル分隊長の指示には従うのだから、腹が立つ。
これが人徳の差というものだろうか。
俺もがんばってんだけどな。
「バリニーズ分隊は、ついてきているか?」
『バリニーズ分隊、少し遅れています。オストリッチが少々ごねました』
「何があった?」
『どうやら何か獣の気配を感じて、怯えてしまったようです。今は宥めたので問題ありません』
「そうか。無理をするなよ。時間に余裕はあるんだ。調整する」
『了解です』
南方ルートの下調べはしてある。さすがに、ぶっつけ本番でこんな入り組んだ道を通ったりしない。
ソマリを筆頭に数人で、道の調査を行った。その際には、オストリッチが怯えるような獣がいるという報告はうけていないが。
「ソマリ……」
『何だよ。あたしが調べたときには、何もいなかったぜ』
「本当か?」
せっかちなところはあるが、そのあたり手を抜くような女ではない。
だとすると、
「魔獣か」
東の森で、近頃、魔獣が出るという。魔法が使えるわけではないが、魔力が異常に多い獣で、狂ったように人を襲うというので、問題となっていた。
昔から、たまに出たらしいが、ここ最近頻度が多いとのことだ。その、ここ最近というのが、英雄が現れてから、だというのだから、きなくさい。
「誰かのチートスキルと考えるのが妥当だが」
魔国の英雄のものか。それとも帝国の英雄のものか。どちらにしろ、頭には入れておいた方がよさそうだ。
しばらくして、バリニーズ分隊から、遅れを取り戻したとの連絡を受けた。ソマリの先行もあったが、おおよそ定刻通りに作戦は進行した。
『クロ隊長、魔国軍を視認したぜ』
そして、ついにソマリからの通信が入る。他の分隊からも配置についたとの報告を受ける。
ソマリがみつけたのは、魔国軍の基地。さすがに王国軍の進行には気づいており、魔光石の明かりで照らし、抗戦の準備をしている。
地理的に、王国軍が中央を突破するには、この基地と必ず当たる。その時刻は、予定通りならば早朝となる。
奇襲をかけるには、いい位置取りができた。
だが。
「やはり、頑丈そうだな」
俺は、ソマリに続いて魔国軍の基地を視認する。そこあるのは、どでかい要塞。おそらく土で組まれており、つなぎ目がなく、いったいどうやって建てたのかと不思議に思う。
彼のチートスキルを知らなければ。
「さすがS級チートスキル。ぬかりないな、フルイデ」
古射手伊月。
万物を想像できるチートスキル創造主。世界の文明にはそぐわない、機能性だけを追及したような要塞を創りあげた、そのチートスキルを攻略しなければ、魔国を殲滅することはできない。
「まぁ、やるしかないんだけど」
俺は、サクに視線を送った。
「サク、頼む」
「おっけー」
サクは、地面に手をおいて、目を閉じる。すると地面に薄青色の紋様が浮かび上がり、そして、複数の砲門が現れた。
チートスキル収納。
本来、動かすことの難しい砲台を、大量に運搬でき、そして、一瞬で展開できる。おそらく戦争という点に関していえば、サクのチートスキルほど重宝されるものはないだろう。
チートスキルにはチートスキル。
「さぁ、一斉砲撃だ!」




