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英雄達の偽曲~親友に裏切られて全て失ったけど【コスプレ】スキルで世界征服に邁進します~  作者: 最終章
魔国征伐~魔国の西の森にて~(異世界転移12か月後)
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第71話:月がきれいですね

「まだ起きてんのかよ」



 魔光石ライトストーンの明かりで、軍服のほつれを直していた俺は、ソマリのがさつな声に顔をあげた。



「あぁ、眠れなくてな」


「自分が休めって言ったのによ」


「休んでいるよ。こうしていると落ち着くんだ」



 糸と針を持っていると落ち着くというのは、元の世界にいたときからだ。単調作業が、頭の中を整理するのに役立つのだろうか。


 軍服は、この小さな針でえる生地ではないが、俺のチートスキル武装強化リーンフォースと合わせると何の問題もない。ある意味で、いいスキルをもらったものだ。


 

「ソマリこそ、何してんだ?」


「あたしも休んでんだよ。こうして、クロ隊長にちょっかいかけてな」


「もっと普通に休めよ」


「あはは」



 ソマリはうれしそうに尻尾しっぽを振っていた。それから、ひょいと俺の横に座り込む。



「こんなところで、裁縫さいほうなんてすんなよ。緊張感がねぇな」


「気を張っていてもいいことなんてないだろ」


「確かにな。あたしもリラックスしているし」


「おまえはもう少ししっかりしろ」


「いいんだよ。あたしは、これで今日まで生きてきたんだから」


「そうかい。ほら、おまえの上着も貸せ。ほつれを整えてやる」


「えー、いいよ、別に。どうせ、明日にはぼろぼになるんだから」


「確かに、そうだな」


「まぁ、クロ隊長がどうしてもやりたいっていうんなら、やらせてやってもいいけど」


「いや、別にそこまでは」


「いやいや、本当はやりたいんだろ」


「いや、だから、別にそんなに」


「……やってよ」


「……最初からそう言えよ」



 俺は、ソマリの上着を受け取って、ほつれを直し始めた。


 

「クロ隊長って、そういうちまちましたこと得意だよな」


「得意っていうより好きなんだよ。それに、これはちゃんと俺が()()()()()()()()()だしな」


「ん?」



 その意味を、ソマリは理解していなかったが、あまり意にかいしていないようだった。ただ、俺が裁縫している様子を、横から覗き込んでいた。



「見ていても早く出来上がるわけじゃないぜ」


「いいんだよ。クロ隊長が作っているのを見ているがおもしろいから」


「それ、ルミも言っていたな」


「ふーん」


「そんなにおもしろいもんかね」


「まぁ、クロ隊長にはわかんねぇだろうな」



 俺が、縫っているんだけどな。何で俺にはわからないんだろうかと不思議に思いつつも、あまり深く考えないようにした。



「あたしさ、ずっと、こうしていられたらな、って、ときどき思うんだよな」


「ずっとだとさすがに飽きると思うけどな」


「そういう意味じゃねぇよ。こうしてさ、なんていうか、クロ隊長の隣にさ、何をするでもなくさ」



 ソマリが口をつぐんだので、俺は顔をあげて、彼女の方を向いた。すると、すぐ目の前に顔があって、驚いた。


 魔光石の明かりに照らされた瞳は、ルビーのように輝いていて、ふとすると吸い込まれそうだった。


 彼女の耳がひょこりと跳ねる。


 心臓が跳ねる。


 しおらしくしていれば、こんなにもかわいらしいのにと思わずにはいられない。


 風が髪をさらりとでて、あまい香りをふわりと広げる。


 ずっと、こうしていられたら。


 たしかに、そんな夢想を、思い描いてしまいそうな時間が、そのとき流れていた。


 ほんの短い時間だったと思う。


 ソマリは、じっと俺の目をのぞき込んでいたが、すぐに顔を赤くして、パッと空を見上げた。



「あはは、なんてな。からかっただけだよ」


「わ、わかっているよ」



 俺も、ソマリにならって、空を見上げる。夜は深い黒色の底に沈んでいる。そこにぽっかりと浮かぶ月。


 俺は、魔光石の明かりを落とした。


 すると、より際立った月の白が夜に染み出して、浜辺はまべでうってはかえす波のように青白く輝いていた。



「今日は月がきれいだな」



 ソマリの言葉に、俺は驚いたが、彼女が元の世界の文学作品を知っているわけもないと思い直して、ただ、素朴に答えた。



「あぁ、今日は月がきれいだ」

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