第69話:魔国遠征
「ついに魔国を滅ぼすときがきた!」
「「「おぉ!」」」
今日、何度目になるのかわからないかけ声が、兵士達からあがった。
魔国遠征中のキャンプ。焚火のせいか、兵士達の熱気のせいか夕方だというのにやけに暑い。まったく、季節感ないな。
もうじき来る夜がいささか不安だが、まだ魔国軍と接敵することはないだろう。一応、交代で見張りも立てているし。
それにしても。
「そんなにうれしいことかね」
俺の工作活動が実ってか、それとも、まったく関係なくなのかはわかりかねるが、とりあえず帝国との同盟は叶った。
同盟といっても、宗教的な対立は避けがたいため、全面的な国交正常化などは現状不可能で、戦争をしないという、いわゆる不可侵条約を結んだわけだ。
何はともあれ、帝国との問題を解決した今、王国は、魔国との戦争に臨んでいた。
「そりゃ、魔国を滅ぼすことは王国の念願ですからね」
答えたのは、ラブル分隊長であった。
「神に仇なす魔人どもを、この世界にのさばらせておいては、いつまで経っても救われません。王国の子共達のためにも、魔人を早く根絶やしにせねば」
「なるほど、敬虔な教徒だな」
「ははは、英雄殿にそう言っていただけるとは、誇りですな」
王国民は、英雄を神の使徒と思う節がある。さらに、魔人を神の敵と。
「なぁ、前々から聞いてみたかったんだが、どうして魔人は神の敵なんだ?」
「ん? それは、原書にそう書かれているからですよ」
「さいですか」
だとすれば、反論する言葉はない。それでいて、説得しようもない。
魔人といっても、ただの生物。独特の見かけと文明をもっているが、言葉を操り、意思疎通を図ることができる。
彼らを滅ぼしたところで、何も変わらないと思うが、彼らにそんな理屈は通じないだろう。
この宗教上の理由さえなければ、俺は、魔国との交渉で治めたかった。
王国と魔国の戦力差は歴然。英雄フルイデ達によって、かなり戦力が増強されたとはいえ、全面戦争となったら、王国側が有利だろう。
その優位をもって、魔国と交渉すれば、王国優位に交渉をを進められた。戦争は、その交渉が決裂してからでいい。
いきなり全面戦争って。
「帝国と手を組むのは業腹ですが、これで魔国を滅ぼせるのであれば、世界も平和になりましょう」
「……そうなるといいな」
そうはならない。
自分の考えと異なる者を排斥していくその思想では、戦争はなくならない。それは、元の世界で既に証明されている。
仮に魔人を殲滅したとして、その後、訪れるのは、さらなる敵の登場。いや、登場というより、創出だろうか。
それは、獣人かもしれないし、宗派の異なる帝国かもしれない。
いずれにしても、敵は現れ続け、戦争は続く。
その半ば確定した未来が見えつつも、俺には、この戦争を止めることができなかった。
「勝つしかないな」
俺が呟くと、ラブル分隊長は、にこりと笑った。
「何を弱気なことを。我々は、今日も戦果をあげて、報酬をもらうつもりですよ」
「たくましいな」
まぁ、彼らのモチベーションはどちらかといえば、そちらだろう。
俺は、というと。
完全にゲームに参加してしまったな。
今更という話もある。既にこの世界では、あちこちで戦争が起こっており、王国とて遅かれ早かれ参戦するしかなかった。
世界征服ゲーム。
これまで、どっちつかずな行動をとってきたが、今回の作戦は、完全に勝つための動き。
俺は、勝ちたいのだろうか。
いや、やはり勝ちにはあまり興味はない。あのクソ女神に頼んで叶えてもらいたい願いなどないしな。
ただ、負けることだけは許されない。死にたくないし、友達を死なせたくない。
それが、俺のモチベーション。
自覚してから、俺は具の入っていないスープを飲み干した。
「よし。とりあえず、騒いでいる奴らをそろそろ黙らせろ。宴会で体力を無駄に消耗させるな」
「了解です、クロ隊長」
「あと、あの隅でやっているカードギャンブルをやめさせろ。ソマリがすっからかんになって脱ぎだす前に」
「あ、それは遅かったですね。既に、ソマリが脱ぎ始めています」
「やめろ!」




