第67話:機械仕掛けの神様
「出来過ぎだな」
暗くなった道に、街灯の明かりがちらつく。魔光石の質がわるいのだろう。床の模様が白と黒で変わって、まるで雪が降っているようだ。
「たまたまイチランがいたから、あんなイベントが発生した。まぁ、王女が舞台に上ってきたのは必然としても、その後の、ソマリへの歓声。少しは改善したとしても、未だに獣人への差別は消えていない。たまたま獣人部隊に世話になった人たちが集まっていたとしか考えられない」
そう、たまたま。
「そして、王女の暗殺者の襲撃。いいタイミングだった。俺が来てほしいと思ったタイミングで、あいつらは襲ってくれた。さらに、調べてみると、4つの別のチームが、たまたま居合わせて、同時に襲撃してきたらしい。一網打尽にできたと、警備の奴らが喜んでいた」
偶然に。
「偶然が重なって、ソマリへの偏見を消すようなシナリオが成り立った。だが、こんな偶然は、普通成り立たない。たまたま王女様がお忍びデートしたりしないし、たまたま暗殺者が襲って来たりしない。ソマリが王女様をかばって、受け入れられるなんて、出来過ぎたシナリオは、演劇の中にしか存在しない」
だから、俺は尋ねる。
「どこからが、おまえのシナリオだ? ルミ」
ルミは、俺の隣を素知らぬ顔で歩きながら、小さな焼き菓子を紙袋から取り出し、むしゃむしゃと頬張っていた。
「私は何もしてないよ」
「嘘つけ、おまえがソマリをけしかけたんだろ」
「あれは、つい熱くなっちゃって」
「王女様に、ソマリの件でつっかかったのも、考えてやったことなのか?」
「私は正しいことを言っただけだよ」
「いわゆる機械仕掛けの神様だ。そんなことありえない。ルミのチートスキルを使わなければ、な」
ルミのチートスキル、寵愛。
ルミの思ったとおりに世界が動く。その確率が高くなる、いわゆる、確率操作の力。
実験では、コイントスを100回連続で表にすることができたのだから、恐ろしい。
事象が曖昧になればなるほど、その確率操作できる量は減少するのだが、それでも影響を及ぼすことはできる。
つまり、ルミは、世界を自分の思い通りに動かすことができるのだ。
「私は何もしてないよ」
ルミは、それでもしれっとした顔で、焼き菓子を頬張っていた。
「私は、思ったことをしただけだもん。そうしたら、偶然、全部うまくいっただけ。それに、最後の方は、クロが調整してくれたんでしょ?」
「それも、ルミの力の内とも考えられるけどな」
ただ、と俺は疑問を述べる。
「ソマリとは、直前まで仲違いしているように見えたが」
「うん、私は、あの子、好きじゃない」
「はっきり言うな。それでも、ルミは、ソマリが差別されない展開を望んだ。どうしてだ?」
「だって、クロはそうなってほしかったでしょ?」
ルミは、何の迷いもなく、そう言ってのけた。
「私は、あの子、嫌いだよ。でも、クロにとっては、お気に入りなんでしょ。あの子への差別がなくなるとクロにとって都合がいいんでしょ。だったら、そうなった方がいいなって思ったの」
「よくわかったな」
「わかるよ、だって、私は」
その後、ルミは、少し間をおいて、小さく息を吐いてから、続けた。
「私は、クロの友達だから」
「あぁ、そうだな」
「ただの、友達だからね」
「……、おまえ、けっこう根に持つよな」
俺は、おかしくなって、つい笑って、それから、ルミの頭に手を乗せた。
「ルミは俺の親友だよ」
「……、ふーん、そっか、ふふ、じゃ、いいかな」
どうやら機嫌が直ったようで、俺は、肩の荷が下りた思いだった。今日中に解決してよかったと、息を吐く。
息は白くならなかったが、夜になると、けっこう寒い。これは早めに、セーターを編まないとなと俺は気合を入れた。




