第65話:王国の戦士
「かっこつけ過ぎだ、バカめ」
俺が呟く中、民衆は大いに盛り上がっていた。いささかヒーローショー染みているが、こういうわかりやすい展開は、万人に受ける。
アキトが舞台にあがったことで、狼藉者は一掃された。これで、終わったかと思われたが。
投石。
さきほどソマリを襲った投石が、再び放たれたのだ。それも複数。
しかも、今度は弓矢も混ざっていた。おそらく弓矢は別の者の仕業だろう。
到来方向の推定は、なんとかできそうだ。アキトならば、追えるだろうか。
さて、石や弓矢が放たれているというのに、どうして俺がこんな悠長にしていられるのか。それは、投石や弓矢が、何の問題もないからだ。
それらはすべて、空中で止まり、そして、舞台の上にパラパラと零れ落ちる。
アキトは何もしていない。
彼のスキルではないからだ。
チートスキル、絶対防御。
空間にシールドを展開させ、物理攻撃を完全に遮断する。ほぼ概念的なもので、いかなる力でも打ち壊せない。
そんな凄まじいチートスキルの持ち主、イチランは、俺の横で、ははは、と笑って、大声をあげた。
「さぁ、王女を暗殺せんとする狼藉者達の乱入! 一時、騒然となりましたが、軍人ソマリの献身的な行動と、英雄アキトの登場により、見事! 撃退に成功しました!」
「「「おぉ!」」」
イチランの進行で、騒動は、ショーの一部として消化された。
民衆もアキトの登場に安堵しているようで、たった今、殺し合いが行われていたというのに、沸き立っている。
ここまでは、気持ち悪いくらい、俺の希望通りの展開。あとは、彼女達が、流れに従ってくれれば問題ない。
イチランも理解して、わかりやすく伏線をおいてくれている。
俺の期待を受けてか、ソマリが痛そうにしながら、身体を起こした。見たところ、さほど大した怪我でもなさそうだが。
ゆっくりとソマリが立ち上がろうとしたそのとき、彼女に手が差し伸べられた。
「立ちなさい。私の勇敢な戦士」
「てめ……、王女様?」
てめぇ、と言いかけたところは聞かなかったことにして、ペルシヤ王女は、ソマリの手をとった。
「さきほどの非礼は詫びましょう。献身的に私を守る姿勢を見させてもらいました。あなたは、紛れもなく王国の戦士です」
民衆から歓声があがる。
この歴史的な事態を民衆は理解していた。しかし、この場で一人、眉をひそめている者がいた。
当人のソマリである。
いくら展開上、そうせざるをえないからといって、急に王女に認められて、ソマリは困惑していた。
『どうすんの?』
ソマリは、目で俺の方に尋ねてきた。
『とりあえず一発殴っていいのか?』
『いいわけねぇだろ』
俺は、ソマリがペルシヤ王女を殴り倒すという、別の意味で前代未聞の事態を引き起こす前に、ジェスチャーを交えて、必死に次の動作を伝えた。
ソマリは、なぜか不服そうにしながら、ペルシヤ王女の手を借りて立ち上がり、そして、王女の足元に跪いた。
ペルシヤ王女は慣れたもので、堂々と立ち、主従関係をはっきりとさせた。
それは、ソマリの身分を認めることと同義であり、このとき、彼女は獣人で初めて、王国に認められた戦士となったのだった。




