第63話:王女乱入
「何で、ここに王女様が!?」
俺はごくごく自然な疑問を口にしたのだけれども、とりあってくれる者はいなかった。
え? 俺がおかしいの?
いやいや、俺が普通だよね。こんなところに王女様がいるのおかしいもん。
俺が自問自答していると、まったく不意のところから、声がかかった。
「何してんだよ、こんなところで」
「っ! アキト!? 何でおまえまでここに?」
「それはこっちの台詞だよ、まったく」
アキトは、あからさまに嫌そうな顔をして、頭をかいていた。
「おまえ、ルミと買い物するんじゃなかったのか? 何でミスコンなんてやってんだよ」
「ひどい誤解だぞ。ルミと買い物していたら、なんやかんやあって、ミスコンが開催されただけだ」
「いや、どんな、なんやかんやだよ」
たしかに。
「おまえこそ、王女様とデートじゃなかったのか? どうして王女様がミスコンに闖入しているんだよ」
「知らねぇよ。ペルシヤ様が町に出たいっていうからお忍びでぶらぶらしてたら、なんやかんやあって、いつの間にかミスコンに参加していたんだよ」
「だから、どんな、なんやかんやだよ」
俺とアキトは、自然と掛け合いをしていることに気づき、気まずい空気となった。
一方で、ペルシヤ王女と、ルミ達は、何やら盛り上がっていた。
「正直、ミス王都というものが、何なのかわかっていませんが、つまり王都を代表する女ということでしょう。だとしたら、それは私! ペルシヤ・キングレイに他なりませんわ!」
「いえ、ペルシヤ様。これは、私とソマリちゃんとの勝負でして、綿貫、じゃなくて、イチランくんが、ミス王都とか言い出しちゃったけど、別にそういうイベントでは」
「なるほど、私などは勝負するに値しないと。さすがは、英雄ルミ。しかし、私も一国の王女です。あなた様であっても負ける気はありません。さぁ、民衆に問おうではありませんか! どちらが美しいかを!」
「ペルシヤ様、話を聞いて!」
うん、おまえらもだぞ、ルミ。
俺が心の中で突っ込みを投げていると、ペルシヤ王女が、それにしても、と冷めた視線をソマリに向けた。
「それにしても、ルミ様の相手が獣人とは、お笑い草というか、見世物にするにしても、いささか趣味がわるいかと」
「どういう意味だよ」
「獣人が人のように着飾っている滑稽さを楽しむという趣向でしょう。英雄であるルミ様の隣に立てば、より滑稽さが際立つというもの。えぇ、無駄に性的な格好がお似合いですわ。そのまま、どこぞの男にでも買ってもらえばいかがですか?」
「何だと!」
「あら、野蛮だこと。獣人のくせに言葉がわかるようでしたので、見どころがあると思いましたのに、身分の違いはわからないようですわね」
「……っ!!」
ここで手を出さなかったソマリは偉かった。少し前のソマリだったならば、ここまでバカにされたらつかみかかりそうなものだが、教育の成果だなと俺は小さく拳を握った。
とは言いつつも、これ以上、煽られれば、ソマリも耐えられないだろう。その前に、止めた方がいいと俺が間に入ろうとしたとき、ルミが声をあげた。
「そんな言い方は、よくないと思います」
「え?」
「ソマリちゃんは、確かに、王女様とは身分が違うけれど、それでも、軍人として、王国のために戦ってくれてます。なのに、獣人だからって、そんなふうに言うのは、よくないです、王女様」
「うっ!」
さほど表に出たがらないルミにしては、珍しく強い口調であった。舞台にあがったことで、気持ちがハイになっているのかもしれない。
ルミの意見は正しく、模範的な良い考えだ。ただ、それは元の世界では、の話だが。
この世界では、獣人への差別はよくない、という意識がそもそもない。そんな彼らに、平等に扱えといっても響かないだろう。
しかし、そんな俺の思考とは裏腹に、民衆から拍手が聞こえてきた。
「そうだ! おまえらがんばっているぞ!」
「ハチノス村を救ってくれてありがとう!」
「また、うちの店に来てくれ!」
「ソマリちゃん、かわいい!」
「嫁にほしいぞ、コノヤロー!」
一部、違うものも混ざっているが、俺が思っていた以上に、獣人の評価があがっていた。
この数か月の、獣人部隊の活動の成果が出たのか?
軍の中に、獣人部隊を設立するにあたり、俺がモデルとしてのは日本の軍隊だ。彼らは、戦闘よりも災害救助に力を入れていた。
歴史的な流れで、力を入れざるを得なかったのだが、そのおかげで民衆の信頼を得た。
ゆえに、獣人部隊でまず行ったのは、対外的な戦闘よりも、国内向けの活動。野盗退治であったり、水害の支援。
ソマリなどは、ぶぅぶぅと文句を言っていたが、こうして効果が表れた。
だが、まずい。
俺は、この盛り上がりに焦っていた。
ルミの意見は、王女を否定するもの。そして、その意見が民衆の支持を得てしまった。
それは、つまり、王族と民衆の対立を示す。
革命。
なんてものは、緻密に計画されて引き起こされるものではない。こういう小さな諍いが、大きな流れとなっていく。
ルミに、そんな気はないだろう。
しかし、彼女の行動は、そのまま革命につながりかねない、ひどく危険な動きであった。
どうする?
権力で抑え込む? いやだめだ。それは、余計に民衆の反発を招く。
王女側に加担するか? 獣人を迫害することを正当化する? そんなロジックが組めるか? この民衆の盛り上がりを鎮静化させられるような話術が俺にあるか?
無理だ。ここで、獣人の差別を肯定する結末には至らない。王女が、意見を変えるしかない。
ただ、王女が否定される。それは、王族の権力を低下させ、政治がやりにくくなる。
何か、きっかけが必要だ。王女が意見を変えても民衆が納得するような、茶番めいた何かが。
汗が頬を伝うの感じつつ、何か言葉を発しようとしたとき、
「王女、覚悟! ゾキエ様の敵!」
事態は、俺に都合がいいように動いた。




