第62話:ファッションショー
「先手は、ルミちゃんです!」
イチランの声を契機に、舞台袖から、ルミがおずおずと姿を現した。
白のブラウスに、ふんわりと広がる黒のスカート、腰元はコルセットで絞められており、お人形のようなシルエットを作っている。
花の刺繍の入った黒タイツが、ファンシーさを醸し出し、厚底のブーツが、あどけなさを演出していた。
胸元の紐リボンで、きっちりとキメている一方で、ちょこんと斜めに被ったトーク帽が、全体をほどよく崩していた。
頬を染めたルミは、少し俯きがちに、こちらを向いて、こくりと首を傾げて見せる。
その仕草が愛らしく、会場の男達の歓声を誘った。
「これは、何ともかわいらしい! この世界のファッションをしっかりと着こなして、なじんでいます! なじんで、かわいさを極めています。いやぁ、媚びるような顔の角度といい、男心を理解しきってますね、彼女は。まさに天然のアイドル! これは高評価ではありませんか、クロ委員長!」
「そうだな。ルミは、もっとゴテゴテと着飾るのが好きなんだが、そこをぐっと抑えて、シックにまとめてきたところがいい。コーデした人は、よくわかっている」
「思ったよりもマジレスありがとうございます。ただ、ここはルミちゃんかわいいと一言ほしかったところ!」
「何言ってんだ。ルミがかわいいのは当たり前だろ」
「きたぁあ! 天然ジゴロ発言! そんなことをさらりと言えちゃうクロくんに憧れるぅ!」
「どうでもいいが、脱ぐんじゃなかったのか?」
「あー、クロくんのエッチ。女の子が、そんな簡単に脱ぐわけないでしょ。むしろ、こうやって、着飾った方が秋服の宣――、もとい、盛り上がるというものですよ!」
「そこまで言って、言い直す意味がわかんねぇよ」
あと、何でおまえが秋服の宣伝隊長やってんだよ。もう突っ込みどころが多すぎて、いろいろ追いつかないよ。
「さて、お次に登場したのは、ソマリちゃんだ!」
カツカツとヒールを鳴らして現れたのは、ソマリである。
タイトなニットのワンピース。グレーのウール生地がソマリの凹凸のあるラインを浮かび上がらせて、煽情的な美しさを表している。
丈は短いが、ニーソックスで足は隠されており、ちらりと見える太腿の肌色が、男共の視線を釘付けにしていた。
長袖であるが、胸元は肩まで開けており、そのスタイルの良さゆえに着こなせる服と言えよう。
「エロい! とにかくエロいぞ、ソマリ嬢! 男の男の子を総じて起立させてしまいそうな、そのスタイルに、俺達は敬礼せざるを得ない! これはクロくんのクロくんも反応してしまったのではないですか?」
「おまえ、さっきからぜんぜんアウトだからな。完全セクハラだぞ」
「いいんです! ここは異世界だから、コンプライアンスなんてないんです!」
「あと、この衣装は、どう考えてもこの世界の価値観ではないんだが、イチラン、もしかして、おまえ何か助言したか?」
「いや、ちょうどこの間、仕立屋の店主と、夜のお店で知り合って。いろいろアドバイスを」
「おまえ、本当に異世界を満喫しているな」
何か気になる単語があったけれど、もう面倒くさいのでスルーしよう。
「俺はレイヤーであって、ファッションデザイナーではないので、その服装の評価はできないが、一般的に言って綺麗なんじゃないか」
「綺麗、頂きました! さてさて、これは両者とも高評価だったのではないでしょうか。果たして、勝負の行方はどうなるのか!」
いったい何の勝負なんだ。
俺が、ため息をついていると、ルミとソマリが、舞台上で睨み合っていた。
「私の勝ちよね。だって、私がかわいいのは当たり前なんだもの」
「は? 何を聞いてたんだよ。あたしは、きれいだって言われたんだぞ。あたしの勝ちだろ」
彼女達もどうして仲良くできないんだか。
そろそろこの茶番を終わらせようと、俺が立ち上がろうとしたときだった。
「ちゃんちゃらおかしいですわ!」
その発言こそがちゃんちゃらおかしかったわけだが、声の主はつかつかと舞台の上にあがっていった。
「私を差し置いて、ミス王都を名乗るなんて、ちゃんちゃらおかしいですわ!」
闖入者は、ゆったりとしたワンピースを腰元でベルトで留めており、丸めの黒いパンプスも相まって、いささか子供っぽさを伺わせた。
ただ、スカーフで髪を覆っており、太縁の眼鏡で顔を隠しており、何やら怪しげだ。
と思っていたら、彼女は、スカーフと眼鏡をパッと取り外して、放り投げ、その翠色の双眸と、麗しい金髪を露わにした。
同時に、今日一番の歓声があがる。
「なんということでしょう! 誰が上ってきたのかと思えば、王女様です! 王女様が、ミス王都に名乗りを上げました!」
第一王女、ペルシヤ・キングレイは、歓声に答えて、肩にかかった髪を大げさにはらって見せた。




