第60話:マウント合戦
「へー、クロ隊長、彼女いたんだ。まぁ、英雄だしなー。女の一人や二人はいるよなー」
何?
その糾弾するしゃべり方が流行っているの?
俺とルミ、それからソマリは、同じテーブルを囲んでいた。別に一緒に座る必要などないのだが、ルミが、せっかくだからと誘ったのだ。
そして、ソマリは、不機嫌なんだか、怒っているんだか、おもしろがっているんだか、よくわからない表情を浮かべつつ、クレープにかぶりついている。
「変な言い方をするなよ。ルミは、俺と同じ、いわゆる英雄で、ただの友達だ。今日はオフだから一緒に買い物していただけだよ」
「ふーん、ただの友達ねぇ」
ソマリはそう言って、ルミの方を眺めた。するとルミは、にこりと笑ってから、
「そう、ただの友達です」
何やら語気荒く応じていた。
「な。俺は、英雄だからって、手当たり次第に女に手を出すようなクズじゃない」
出してんじゃん、とルミが小声で呟いていたが、おそらく誤解していると思われるので、とりあえず無視することにする。
「ルミも会うのは初めてだよな。こいつは、俺の部隊で班長をしているソマリだ」
俺が紹介すると、ソマリは、どーもとかるく挨拶をしていた。ルミの方は、再び、にこりと笑みを返す。
「えぇ、でも、知ってますよ。クロが、ソマリさんのことよく話しているので」
「え? あたしのことを?」
「えぇ、部隊での話を、私にいつもしてくれるので」
「……へぇ、いつも」
「えぇ、まぁ、同じ屋敷に住んでいるので、毎日、おしゃべりしているから当然ですけど」
「……ふーん。まぁ、あたしも、日中はクロ隊長とずっと訓練しているし、この前の獣国侵入作戦では、朝から晩まで一緒だったし、けっこう長い時間、一緒にいるけど」
「……ふーん」
「でも、あんたの話は、聞いたことねぇな。クロ隊長とは、けっこう話してんだけどなぁ」
「……そこまで親しくないから、じゃないですかね。ただの部下に、身内の話はしないでしょ」
「まぁ、そうかもな。部下に、ただの友達の話はしないかもな」
「「……」」
え? 何? このマウント合戦?
そもそもいったい何のマウントを取り合っているの? 話の流れが見えないんだけど。
ピーンという音が聞こえそうなほどに張り詰めた空気が、時間を止めてしまいそうなほどに、場を凍らせていた。だが、しばらくして、二人ともクレープを口にし始めたことで、試合は棚上げされたようだった。
この話題に突っ込むのはやめた方がいいと思い、俺は話を切り替えた。
「ところで、ソマリ。どうして軍服を着ているんだ? 今日、俺の部隊は休みのはずだが」
「ん? あぁ、王都だからな。あたし達、獣人は、軍服着ていないと過ごしづらいんだよ」
「あぁ、なるほど。わるかったな、変なこと聞いて」
「気にすんなって。獣人でも、こいつを着ていれば、普通に扱ってくれる。それだけでも、昔には考えられないことだからな」
そのあたりが制服のいいところだ。制服を着ているだけで、軍人という強烈な属性を得ることができる。中身が獣人であろうと、差別されにくい。
「こうして、町中でクレープも食える」
「満喫しているな」
「はは、おかげさまで」
「ただ、休みの日くらい、おしゃれできればな。軍服のバリエーションを増やしてもらうか」
「いや、いいって。あたしなんかがおしゃれしても」
などと、ソマリは笑い飛ばすが、本心でないことはすぐにわかった。彼女は、俺のあげた組み紐を髪にしっかり編み込んでいたのだ。
興味があるのならば、そこに選択肢を用意してあげたい。
それは、コスプレ好きとしてのおせっかいと、上司としての心遣いだ。
俺は、クレープをごくりと呑み込むと、すくりと立ち上がった。
「よし、ソマリの服を買いにいこう」
「「え?」」




