第59話:クレープ屋
微妙な空気になってしまったが、再び何の服を作るか、色は何がいいかという話に戻ったところで、雰囲気は元に戻った。
結局、防寒用のセーターや手袋を作るということで、落ち着き、毛糸を購入した。持ち歩くのも、面倒なので、毛糸は屋敷に運んでもらうこととなった。このあたりは、勇者特権である。
「いっぱい買ったね。カスミちゃん達の分もつくるの?」
「いや、カスミは、俺みたいな素人の作った服なんて着ないだろ」
「あぁ、確かに。この前も、お金があるんだからってプロに仕立ててもらってたもん」
まぁ、俺も自信がないわけではないが、さすがに、プロと比べれば未熟である。
「ソマリに作ってやるんだよ。前に話したけど、覚えているか? うちの部隊の班長でな、俺が服を作るって話をしたら、自分のも作れってうるさいんだ」
「ふーん、そうなんだー。ソマリちゃんにねー。へー」
何だろう。何か含みのあるもの言いなんだが。
「心配すんなよ。いつもみたいに、ルミの分から作ってやるから」
「ソマリちゃんにも同じのを作るの?」
「今のところ、そう思っているが、ソマリの意見を聞いてからかな。あいつ、わりと好みがうるさいし」
「ふーん。ソマリちゃんのこと、よくわかっているのね」
「わからないから、聞くんだよ」
「私、聞かれてないなぁ」
「さっきセーターがいいって言ってたじゃん」
「聞かれてはいない」
何やら不機嫌そうなルミを見て、俺は、思わずため息をついた。彼女は、ときおり、こうやってごねる。その理由は、たいてい甘いものが足りていない場合だが。
「ソマリちゃんとは仲良いみたいよね。この前の獣国にもソマリちゃんと二人で行ったらしいし。二人っきりで旅行なんて、クロって意外とすぐ手出すのね」
「いやいや、何もないよ。そもそも旅行じゃなくて作戦だから。命懸けだったんだぜ」
「どうだか。作戦とか言って、2人で遊んで来たんじゃないの?」
「勘弁してくれ」
「獣人らしいしね。クロ、ケモミミとか好きだものね。よかったね、異世界に来られて」
「どうして、そうなるんだ。ソマリは、ただのチームメイト。ケモミミは好きだが、それは趣味。ソマリとは関係ないよ」
「ただのチームメイトに、服をプレゼントするんだ。へー、クロって優しいんだね。知らなかった」
だめだ。
どう話を転がしても、ルミの機嫌がよくならない。おそらく、この異世界の住人であるソマリと友好関係を築いていることが気にくわないのだろう。
ルミは、元の世界に戻りたがっている。俺が、ソマリと仲良くしていれば、それは、元の世界に戻れなくてもいい、というメッセージに思われてもおかしくない。
こうなると、ルミはわりと意固地である。
やれやれと思いながらも、俺は、少し考えてから、ルミに話を振った。
「そんなことよりも、小腹が空かないか? この先に、クレープ屋があるんだが」
「え!? クレープ!」
「そうだ。生地は微妙に違うんだが、クリームと果物を薄い生地で包んだスイーツ、つまり、クレープだ。味はそこそこいける」
「行く!」
よし。
俺は、盛大に話を逸らしたわけだが、ルミの機嫌はいいかんじに直ったので、結果オーライである。
ルミの機嫌がわるいときは、とりあえず甘いものを与えておけばいいと、俺は経験的に知っていた。
仕立屋から、大通りを挟んで向かい側の路地に、そのクレープ屋はある。ポップなデザインの看板と、屋台と、三つのテーブル。
この世界でも人気があるようで、屋台の前には、行列ができていた。
テーブルで食べている人たちの持つクレープを見て、ルミは喜びを隠しきれず、はしゃいでいた。
「本当にクレープみたい! おいしそう!」
「喜んでくれてよかったよ」
ルミが喜んでくれてうれしい限りなのだが、俺は、まったく別のことで頭を痛めていた。
行列の最後尾に、軍服を着た者達がいる。ほんの数か月前に作られた王国軍。彼らが王都でクレープを食べようとしていることは、別におかしなことではない。
ただ、その軍服は、俺がよく知ったデザインだったのだ。部隊ごとに多少アレンジを加えてもいいと言うので、俺が手を加えたもの。
つまり、そこに並んでいたのは、俺の部隊の隊員であり、そして、今、一番会いたくない女であった。
女は、こちらに気づくと、一度、眉をひそめてから、片頬をぐいと吊り上げて見せた。
「よう、クロ隊長。こんな真昼間からデートかよ。隅におけねぇな」
そりゃどうも、と俺は、ソマリの間のわるさに頭を抱えざるを得なかった。




