第57話:城を一望できるパスタ屋さん
「ねぇ、クロ。私の話聞いている?」
「ん? あぁ、聞いているよ。確かに、履いてないをコスプレで表現するのに、肌色タイツを使うのは邪道だよな」
「いや、でも、見えちゃうよりはいいんじゃない、って、そんな話していないよ!」
自然にノリ突っ込みをこなすルミを見て、俺は、目の前のパスタをフォークでくるりと巻いた。
「キャラの布面積は、年々減っているからな。なのに規制は厳しくなるから、困ったもんだ」
「え? 続けるの?」
「まぁ、レイヤーもキャラに合わせて身体づくりをしたり、ポーズを工夫したりで、コスプレの質自体は向上しているけれど、俺は見かけよりも、もっと内面に力を注いでほしいと思うね」
「ねぇ、強引に話を逸らそうとしてない?」
「つまり、履いているか、履いていないかは、コスプレにとって重要じゃない。仮にパンツを履いていても、心のパンツを履いていなければ、それは履いていないんだよ」
「心のパンツって何よ! ていうか、もう現在進行形で話聞いてないじゃない!」
意外と突っ込みスキルの高い女である。
俺は、パスタを頬張ってから、コンコンとフォークで皿を叩いた。
「で、何の話だっけ?」
「もう、やっぱり聞いてなかったじゃない」
「わるい」
「えっとね、あれ? 何の話だっけ?」
「おい」
まぁ、飯の途中の話なんてものは、得てしてそういうものである。
獣国での工作活動を終えて、俺は、しばらくの休暇をとっていた。別にサラリーマンというわけではないので、自主的に活動していないだけだが、まぁ、そういうわけで、わりと暇をしている。
そこで、俺とルミは、王都の中央通りにあるパスタ屋のテラスで、少し遅めのランチをとっていた。
中央の巨大な城を一望できるスポットで、こんな天気のいい日に、俺はよく訪れる。トマトをふんだんに使ったボロネーゼは絶品だが、ペペロンチーノはニンニクが効き過ぎていて、日を選ぶ。
ちなみに、パスタと言っているが、これは俺達用に翻訳された言葉であり、実際には、微妙に生成方法が違うらしい。
まぁ、おいしければ、どちらでもよい。
「このパスタがうまいって話だったか?」
「そう! これ、トマトトマトしていて美味しいよね。なんか、素材を活かしているってかんじ」
「だな」
「こっちのご飯は、あんまり好きじゃなかったけれど、これは美味しいね」
「あぁ、俺もいろいろ探したけれど、俺達の口に合う飯屋もいくつかあるよ。今度、一緒に行こう」
「うん」
ルミは、うれしそうに頷いた。
ここに来てから、ルミは屋敷に引きこもりがちだったが、最近はようやく外に出歩くようになった。
クラスメイトのカスミなどとも、ショッピングを楽しんでいるようで、異世界の生活にもやっと慣れてきたようだ。
「ちょっと痩せたか?」
「ん? そうかな?」
「ちゃんと飯、食っているか?」
「最近は、食べれているよ。カスミちゃんが、味付けとかをコックさんに注文してくれているの」
「そうか」
ルミは、力なく笑う。
痩せたとなれば、大喜びしそうだが、この状況では、さほど喜べない。それでも、こうして少しずつ食べれるようになってきたのだから、いい傾向だろう。
「クロの方こそ、ちゃんとご飯食べている? お仕事ばかりで、忙しそうだけど。この前だって、獣国に行ってきたって」
「あぁ、獣国の料理は、意外とおいしかったよ。発酵食品が多かったが、なかなか癖になる味だった」
「クロって、適応能力すごいよね」
「新しいものを試すのが好きなだけだよ」
知らないものに触れるのが好きで、知らない文化に浸るのが楽しい。コスプレも、その一環だと俺は思っている。
俺は、グレープジュースをごくりと飲み干してから、ナプキンで口を拭き、それから、立ち上がった。
「そろそろ行こうか」
「うん」
今日は、ルミとお買い物である。




