第6話:異世界へ
いったい何が?
俺がやったように、曾我部からチートスキルを強奪しようとしているところを殴られた?
いや、だが、後ろには明人がいたはずだ。
明人がやられた? だとしたら、俺に何か合図を送ってくるはず。黙ってやられるなんてありえない。
じゃ、何があった?
地面に突っ伏した身体をなんとか起こして見上げると、俺を殴った男の顔がそこにあった。
「明人、おまえ、何やってんだよ?」
そこには、見紛うことのない明人の顔があった。動揺して目を泳がしているが、しかし、明確に意思をもって、俺に敵意を向けている。
「すまねぇ。クロ」
言葉で謝りながらも、立とうとする俺の顔を、明人はサッカーボールのように蹴り上げた。
身体は浮き上がって、地面に叩きつけられる。
口の中に血の味が広がって、俺は、ごほっと血を吐き出す。
「何、やってんだよ! 俺達は、同じチームなんだぞ。ここでやりあっても意味ねぇだろ!」
「わかってんよ! でも、ハイランクのチートスキルを持っていた方が安全に決まっているじゃねぇか!」
それは、そうだ。
いくらチームメイトであったとしても、ハイランクのチートスキルを奪うチャンスがあれば奪いたい。そう考えてもおかしくない。
だけど、友達の明人は違う。
そう、思い込んでいた。
けれども、この生きるか死ぬかの極限状態で、友達という言葉がどれだけの意味を持つのだろう。
保身よりも優先されることだろうか。たかが、高校の友達だと、その程度のものだと、そう考えても。
おかしいに決まってんだろ!
「ふざけんな! ちょっとは考えろよ! 俺が強ければ、チームが勝てるんだ! それでいいだろ!」
「そんなのわかんねぇだろ! おまえが裏切るかもしれねぇじゃねぇか!」
裏切るわけねぇだろ。
その言葉を口にする前に、俺はもう一度蹴り上げられた。
代わりに、口からは血が垂れて、目からはぽろぽろと涙があふれ出てきた。
友達を裏切るわけない。
そんなこと考えたこともなかったよ、と俺は明人に言ってやりたかったけれど、言葉にならず嗚咽だけが漏れ出でた。
痛々しい俺を労わるわけもなく、明人は無情にフィギュアを奪い取った。
「恨むなよ、クロ」
そんなことを言われても、今の俺には恨むという感情がわからなかった。ただただ悲しくて、止め処なく流れる涙が視界を歪めていく。
「はーい、あと10秒ですよ。皆さん、急いで」
女神の場違いに陽気な声が聞こえてくる。
もうどうでもいい。
俺は女神のカウントを遠くに聞きながら、半ば諦めていた。そんな俺の目の前には一つのフィギュアが転がっている。
明人は自分のフィギュアを、俺の顔の前に転がしたのだ。
こんなもの!
やっと、俺の胸の内に怒りがじわじわと湧いてきた。フィギュアを手に取って、こんなものいるか! と放り投げてしまいたい。
しかし、理性が俺を必死に止めて、生存本能が怒りを縛り付けて、悔しくて涙が止まらなかったけれども、それでも、むりやりフィギュアを口の中に押し込んで、力の限り砕き、呑み込んだ。
「さぁ、皆さん。新しい世界へ。良い旅を」




