第54話:決着
アキトの斬撃が、辺り一帯を吹き飛ばしてから、どれだけの時間が流れたのだろうか。
舞い上がった砂塵が、やっと落ち着いてきたところだから、数分くらいだろうか。しかし、俺の脳みその中が混沌を極めており、数時間くらい経ったような気がした。
「危なかったな、クロ」
「アキト……」
能天気に駆け寄ってくるアキトを見ている内に、意識がはっきりとしてくる。だからこそ、ぞっとして、俺は、声を荒げた。
「何やってんだよ! てか、何でいるんだよ!」
「は? カスミが出たから追ってきたんだよ。そしたら、おまえがやられそうになっていたから、助けてやったんじゃねぇか。感謝しろよ」
「バカ野郎! あれはヤスナリだ! ヤスナリだぞ! 殺していいわけねぇだろ!」
「バカはおまえだろうが! これは戦争で、現に殺されそうになってただろ! 俺が助けなければ、おまえは死んでたんだぞ!」
「捕まえるつもりだったんだよ! 殺すつもりなんて、なかった」
なかったんだ。
俺は、その場に座り込んだ。ヤスナリの死を受け入れられなかったからなのか、死の恐怖が去ったからなのかわからないが、身体から力が抜けた。
俺の落胆を見て、アキトは不満げな声を漏らす。
「何だよ、せっかく助けてやったってのに」
確かに、アキトの視点から見れば、そうなるのかもしれない。けれども、俺の中に残った現実は、ただヤスナリが死んだ、ということだけだ。
「ちくしょう」
ヤスナリが死んだ。クラスメイトが死んだんだ。悲しみが胸の内を渦巻く。
けれども、一方で、この結末がわるくないと思っている自分がいる。
帝国の英雄のチートスキルを一つ明らかにした上に、一人の英雄を失わせた。
戦果としては上々と、そう考えている非情さが、どうしようもなく辛かった。
さらに、俺は、まだ止まることができない。ヤスナリの死を悲しむ前にやることがある。彼の死を最大限に利用しなければならない。
俺は、オープンチャネルの通信で宣言した。
「王国軍に朗報である。空戦部隊は、英雄カスミとの英雄アキトが見事に撃滅した! これで空からの攻撃はない! 存分に力を発揮しろ!」
『『『おー!』』』
王国軍の士気は、上々である。
彼らの士気を高めるのに、空戦部隊撃破の知らせは効果的だ。空からの攻撃がなければ、うちの部隊が負けることはそうそうないだろう。
あとは、王国軍の包囲が終わるのを待つだけだ。帝国軍に、クロ部隊を倒す術がない以上、もはや勝つのも時間の問題である。
「俺は、部隊の指揮に戻る。カスミは下がらせる。だいぶ疲れただろうからな。アキトも下がってくれ。不測の事態が生じたときに、また加勢を頼む」
「ふん、あとは俺が片付けてもいいんだぜ?」
「数での包囲戦の方が確実だ。まだ、基地の中に他の英雄がいる可能性もあるしな」
「相変わらず、慎重過ぎる奴だ」
そう言いつつも、アキトは剣を納めて、踵を返した。
アキトが前に出てきたことは作戦無視で問題だ。しかし、俺の危険を察して、飛び出してきてくれた
のも確かだ。
それは、不思議なことではなく、アキトならばそうするだろうなと俺は思った。少し前ならば、何の不思議もなく。
「なぁ、アキト」
「何だよ」
「一応言っとくが、ありがとな」
「ふん。最初に言え」
俺は、アキトに背を向け、そしてラブル分隊、ソマリ分隊と連絡を取りつつ、戦場に戻った。
2020/12/30 誤字修正しました




