第51話:空中戦
頬を風が切る。
カスミ龍の鱗に足をかけ、なんとかしがみついているが、チートスキルで能力が向上していなければ、降り落とされていたことだろう。
上空まであがりきったところで、やっと風圧は止んだ。周囲には、槍を構えた空戦部隊の連中。
やっと近くで拝んだ空戦部隊は、やけに重装備をしていた。重量を無視できるというチートスキルの特性なのだろう。だから、あんなに何本も槍を投下できたわけだ。
重装備だというのに、動きは素早いのだから質が悪い。この連中を相手にするのは、龍と化したカスミでも恐ろしいだろう。
「カスミ、なるべく大きく動け。重量では勝っているんだから、激突しても押し負けることはない」
『重量とか言うなし』
「割り切れ。重量級のどすこい相撲戦法だ」
『最悪のネーミングだし!』
とは言いつつも、カスミ龍は、俺の忠告通り、翼を大きく動かして、一度高く飛び上がり、それから空戦部隊に突撃した。
数人の空戦部隊が、突風の巻き込まれて吹き飛ばされる。そして、また数人が、カスミ龍の額にぶちあたり、ピンポン玉のように跳ね返した。
『痛いっ!』
「我慢してくれ!」
そうとしか言えない。カスミ龍の鱗は凄まじく固いことはわかっているが、だからといって痛みがないわけではない。
怖いし、痛い。
そこに跳び込めというのだから、俺もひどい指揮官だ。いや、正確には、カスミは俺の配下ではないのだけど。
臆したせいもあり、カスミ龍の速度が落ちる。そこをつき、空戦部隊の連中は、カスミ龍の身体にとりついてきた。
こいつらは、こいつらで勇敢な奴らだ。
普通、龍に向かってくるか?
彼らは、カスミ龍の身体に槍を突き立てる。その槍は、鱗を突き破ることはしなかったが、カンと甲高い音と共に鱗を散らせた。
『痛いってば!』
「少し待て、俺がなんとかする」
俺は、剣を引き抜き、カスミ龍の背中の上を走った。武装強化で靴の性能をあげているから、背中からそう簡単に足が外れることはない。
空戦兵は、俺に気づき、槍をこちらに向ける。だが、その動作は緩慢であった。空中の移動は、素早いが、槍を動かす動作はそれとは関係がないということか。
俺は、なんなく槍を躱して懐に飛び込み、鎧の上から剣で斬りつけた。
そうなることを予見してたわけではないが、武装強化された俺の剣は、鎧を破壊し、彼の身体ごと切り裂いた。
「ぐほっ!」
剣の切先が、肉を切り裂く感触を俺の手元にまで伝えてくる。
一瞬、怖くなったが、その後、空戦兵が掴みかかってきたのを察して、頭の中が真っ白になる。
咄嗟に、空戦兵を蹴飛ばして、カスミ龍の背中から、彼を落とした。
「殺しちまった、か」
初めて、人を殺した。
いや、それは欺瞞か。俺が手を下さなかっただけで、俺の指揮で、俺の意思で、死んでいった者は数えきれない。
今さら、なのか。
だからといってやりきれない思いはあったが、そんな悩みを抱えている暇はなく、俺は、次の空戦兵に剣を向けた。
三人目を斬ったところで、カスミ龍は、高度を高くとって、大きく旋回を始めた。
『ごめ、ちょっと休憩』
どうやら、連続の急旋回は、カスミ龍の体力を大幅に消耗させたらしい。
だが、十分だ。空戦部隊はずいぶんと数が減っているし、こちらへの注意を外せずにいる。
空戦部隊は、カスミ龍から一定の距離をとって、ついてきている。機を窺っているのか、それとも、さすがに恐怖したのか。
ただ、好機だと俺は、彼らに通信魔法を投げかけた。この距離ならば、オープンチャネルで繋がるはずだ。
「おい、ヤスナリ! 俺だ、クロだ! 聞こえたら返事をくれ!」
届かないか?
それとも既にやられた?
いや、まだ空中を移動しているということはヤスナリは生きているはずだ。
「この戦いは不毛だ。おまえと俺が協力すれば、最小限の被害でこの戦いを終えられる。話を聞いてくれ!」
投げかけても帰ってこない問いかけが、風の中に消えていく。
やはり無理かと俺が諦めかけたとき、
『……俺は』
ぶつぶつと途切れながらも、返答があった。
音声がわる過ぎて、声だけでは判断できないが、それでもこのタイミングで応える者は一人しかいない。
「ヤスナリか!?」
通信状態がよくない。おそらく通信範囲がぎりぎりなのだろう。それでも、確かにヤスナリの返答はあった。
音声は、告げる。
『俺は、おまえらを殺す。話し合いの余地などない』
何の希望もない拒絶の言葉を。




