第50話:龍急襲
「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉお!」
木々を揺らすほどの咆哮で、俺の通信に応じたのは、遥か上空の赤い影。
影は、一直線に雲を引く。開かれた両翼が空を叩き、乱気流を巻き起こす。尾をひらりとたなびかせ、その牙を前に突き立てる。
カスミのチートスキル、龍回帰。
紛れもない龍が、上空の空戦部隊に突っ込んだ。
「こっちにだってあるんだよ。とっておきの航空戦力がな!」
龍、その大質量の突撃を止められるわけもなく、空戦部隊は散り散りになった。
ヤスナリのチートスキルは飛行のみ。一部隊を浮かせることができるらしいが、所詮は人である。巨大な龍に、太刀打ちできるはずもない。
カスミ龍が翼を羽ばたかせる度に生じる乱気流に、空戦部隊は、あっちへこっちへと吹き飛ばされる。
そして、ついには何人かが墜落した。
「よし、カスミ、そのまま撹乱しろ!」
『疲れるんですけどぉ』
カスミの気のない返事を無視して、俺は、ラブル分隊に声掛けをした。
「空戦部隊は、英雄カスミが抑えた! もう空から槍は降ってこない! おまえら、ここまでよく耐えた! さぁ、ゾンビ狩りだ!」
『『『おっしゃ!』』』
ラブル分隊は一気に息を吹き返した。もともと防御よりも攻撃の方が好きな荒くれ者である。
ここまで我慢した鬱憤が爆発し、ラブル分隊は、臆することなくゾンビ兵にぶつかっていった。
『こっからが本番じゃ!』
『ぶっ殺してやる!』
『往生せいや!』
「おいおい、足を狙えよ! そいつら死なないからな!」
『『『粉々にすれば問題ないぜ!』』』
あ、そうすか。
この手の脳筋ノリは、正直ついていけないんだけど、彼らの士気があがるのならばそれでもいいかと放っておく。
彼らの気合は、実力を伴っており、ラブル分隊は、戦線を押し上げていった。
ゾンビ兵への対処に戸惑っている場面もあったが、そこは持ち前の剛力で、文字通り粉砕していた。
よし、なんとか立て直した。
そう思った矢先、カスミから通信が入った。
『クロ、ちょっとやばい!』
早めのヘルプであった。
空を見上げれば、カスミ龍と、空戦部隊が激烈な空中戦を繰り広げていた。
カスミ龍の圧勝かと思っていたが、そうでもなく、空戦部隊は、カスミ龍の周囲を取り囲み、翻弄していた。
確かに、カスミ龍は、強力な突進力を持っている。ただ、機動力、特に小回りに関しては、空戦部隊が圧倒していた。
その上、経験不足。
カスミ龍は、これが初戦闘。敵を倒すという点に関して、空戦部隊の足元にも及ばない。
さすがに分がわるいか。
「カスミ、一度降りてこい!」
『もう帰りたいんだけどぉ!』
カスミ龍は、ひらりと身体を返して、落ちるように俺のもとに飛来した。
ばさりと翼をはためかせて、周囲の兵士を敵味方関係なく吹き飛ばし、俺の前にそのおっかないトカゲ顔を寄せた。
『槍が超痛いんだけどぉ』
「すまないが、もう一飛び頼む」
『えー』
「頼むよ。俺もいくから」
俺は、カスミ龍の背中に飛び乗って、それから、鱗をぽんぽんと叩いた。
「ラブル分隊長、地上は任す! ソマリとボンベイと会話して合流してくれ」
『了解です!』
ここでカスミ龍を撤退させるという選択肢はない。そうすれば、地上のラブル分隊は全滅する。
カスミ龍には、どうしても空戦部隊を抑えてもらわなければ困る。
それに、
「上にいるのはヤスナリなんだろ。話せば、戦闘を終わらせられるかもしれない」
俺はそう告げ、期待を込めて、空を見上げた。
カスミ龍は、俺の考えを理解してかどうかわからないが、それでも、再び翼で風を捉え、空へと飛び上がった。




