第49話:奇襲
「あ、言うのを忘れていたが、帝国軍にはゾンビが紛れ込んでいるから気をつけろ」
『ゾンビって何だ?』
「動く死体だ。殺しても死なないから、交戦は避けろ」
『動く死体? ははは、死体が動くわけねぇだろ。何言ってんだよ、クロ隊長』
まぁ、そうなるよね。
ソマリはまったく信用していないようで、笑いとばしていた。
作戦事態は、うまくいっているようだった。そもそも帝国軍は前に出すぎだった。ゾンビ兵といえど戦力は戦力だ。本陣の守りは薄くなる。
そこにボンベイ隊が西側から攻撃をしかける。弓を放ち、火をかけ、突入を試みる。
だが、こちらはおとりだ。帝国軍の戦力がボンベイ隊につられれば御の字。しばらくちょっかいをかけて、すぐに撤退。
本命は、ソマリ分隊。
東の崖からの急襲。こちらを昇ってくることはないという心理的な死角を突き、ソマリ分隊を突入させる。
『おっしゃ! ソマリ隊、見張りを制圧完了!』
どうやら、東から基地に潜入したらしい。
「ソマリ、目的を忘れるな! できるだけ交戦を避けろ」
『ははは、わかっているって! で、どれが大将首だ?』
ぜんぜんわかってないじゃん。
『って、うわっ! なんじゃ、こいつ! 首をもいでも動くんだけど!?』
「いや、だから、そいつがゾンビだって」
『きもいきもいきもい! これだから異教徒は! いったいどんな罰当たりなことをすれば、こんなことに!?』
「信仰は関係ないから。チートスキルだから」
『ぎゃあ! わきわきしてる! もきもきしている! きもいぃ!』
「落ち着け。それと狙うなら足だ。機動力を奪え」
ソマリへの指示をこなしつつ、俺は、ラブル分隊の戦況判断をしていた。
ゾンビ兵の進行は止まっていた。奴らが基地から出てくるようであれば、そのまま引き付けつつ、基地から離すつもりだったが、そのあたりは冷静だった。冷静なゾンビというのもおかしな話だが。
空戦部隊の槍だけならば、今のところ、防ぎ切っている。獣人部隊の剛腕と、俺の『武装強化』のコンボはなかなか使える。
だが。
限界は近い。
投下される槍の威力は凄まじく、確実に隊員の体力を奪っている。それに精神的な面が大きい。防戦一方で、こちらから反撃の手立てがない。
ラブル分隊が保たないようならば、撤退させたい。しかし、ここでラブル分隊を引いたら、戦力は基地内に集結し、突入しているソマリ分隊は壊滅するだろう。
だからといって、これ以上は……
「ラブル分隊長、戦線を維持しつつ――」
『まだいけます!』
「いや、だけど」
『いけるよな! おまえら!』
『『『おう!』』』
『このくらい何でもないぜ!』
『異教徒には絶対に負けねぇ!』
『金のためなら俺は死ぬ!』
『俺、この戦いが終わったら結婚するんだ』
オープンチャネルで、隊員が叫んでいた。一部、どうかと思う発言もあったが、気合は十分のようだ。
「よし! おまえら! 死ぬまで耐えろ! そうすれば必ず勝てる!」
『『『おう!』』』
言い切って、俺は自分の恐ろしい指示にゾッとする。けれども、そう言わざるをえない。
合理性だけでは動けないのだ。恐怖と高ぶり。不測の事態と混乱。
その中で、できるかぎり勝ちへの可能性が高い選択肢を選んでいく。
俺は、やっと指揮官というものをほんの少し理解した。
『クロ隊長! 増援だ。これ以上は無理!』
「ソマリか? かまわん、撤退しろ。その前に報告だ」
『基地全部は見れてねぇ。半分くらいだが、あたしらの見たかんじでは、英雄はいない!』
「了解だ! よくやった!」
よくやった、が。
俺は、頭を抱えた。
これで判断していいか?
いや、判断するしかない。判断はするしかない。次の作戦決行にしろ、撤退にしろ、俺が判断するしかない。
ソマリ分隊には、足が速く、目が利くものを集めた。彼らだから、この短期間で、基地内を半分も探索できた。
それで、英雄はいなかった。
だから、いなかったと決めつけていいのか?
罠なんじゃないのか? 英雄を隠しておき、その上で、こちらの判断ミスを誘っている。
いや、そんなことを考えだしたらキリがない。
でき得るかぎり状況のチェックはした。ここで、引くのは慎重ではなく臆病というもの。
この判断が、勇敢なのか、それとも蛮勇なのかはわかりかねるが、もはや俺の心は決まっていた。
「カスミ! 出番だ!」




