第48話:想定外
「頭上!」
俺の叫びが轟いたときには、既に遅く、シュナーザ部隊も、帝国軍も何の反応もできずに、ただ、槍の雨に打たれた。
槍は、無情に兵士を貫き、そして地面にめり込むと、大きく血しぶきの花を咲かせて、まるで花畑のようであった。
きれいだな。
ぞっとするような美しさとあまりの残酷さに身を震えさせた俺は、どうやら混乱していたらしい。
ハッと気づけば、そこに美しさなど微塵もなく、ただ地面に広がる血の海と、動かなくなった肉の塊があるだけだった。
「仲間、もろともかよ!」
信じられねぇ。
ヤスナリ達、帝国の英雄と帝国軍がどのようなコミュニケーションをとってきたのかはわからない。
ただ、こうやって同じ作戦に参加しているのだから、少なからず仲間として認識しているんじゃないのか。
その仲間を気にせず、槍を投下するなんて!
いや、違うのか?
俺は、帝国軍の動きに、ふと、背筋の冷めるような仮説が立つことに気づいた。
まさか、そのために、帝国軍が出てきたのか?
槍の投下は、こちらに知られている。普通に投下しては防がれる。だから、帝国軍との交戦状態をつくり、防御できないようにした。
初めから、槍で串刺しにするために。
理屈はわかるが、思いついてもやるか?
そんな悪魔みたいな作戦を。
俺は事態が想定外の動きをしたことに動揺していた。だが、事態はさらに想定の外側へとはずれていく。
「え?」
俺は、その現象に目を疑った。
槍に貫かれ、誰もが動きを止めている中で、ぴくりと動きがあったのだ。
それは目の錯覚ではなく、手も足も、まるで息を吹き返したかのように動き出す。
帝国軍の兵士が、生き返ったのだ。
「おいおい、こんなチートスキルありかよ」
蘇生?
いや、違う、ゾンビか?
どちらにしろこの異常な現象は、明らかにチートスキルであり、英雄の誰かが関わっている。
そして、確かなことは、
「殺される……!」
シュナーザ部隊がほぼ壊滅し、空には、ヤスナリの空戦部隊が陣取っており、目の前には、ゾンビと化した死なない帝国軍。
「やば過ぎる」
撤退するしかない。
はっきり言って、俺はびびっていた。
こんな状況は想定していない。事前情報としてあがっていた帝国の英雄は、空戦部隊のヤスナリと身体強化系のメルであった。
そのうち、メルが出て来ないから、想定よりも容易な作成だと思っていた。
しかし、どうだ?
蓋を開けて出てきたのは、ゾンビ軍団。彼らの攻撃を無視することはできず、また、交戦すれば、空からの槍投下を防ぐことができない。
戦線の維持なんてできやしない。
だが、ここで逃げたらどうなる?
既に包囲作戦は実行している。俺達の陽動が失敗すれば、王国軍の進行が気づかれる。さすれば、帝国軍も手を打つだろう。こちらの被害は甚大となる。
だったら、逃げなければ?
最後の一人になるまで戦い続ければ何か変わるか?
いや、仮に変わったとしても。
俺にそんな覚悟はない。
「死にたくない」
呟いて身体の震えがいっそうに増してしまった。怖くて、思うように動けない。周囲の状況だけがめまぐるしく変化する。
「――!」
「――!」
怒号が響く。耳がバカになったからか、脳みそが動きを止めているからか、もはや何の音かもわからない。
俺が腰をぬかしそうになったとき、
「クロ隊長!」
背中を力強く叩かれた。
振り返ると、そこにはラブル分隊長が、見たこともない険しい顔で立っていた。
「しっかりしてください! 今、あなたが折れたら、部隊全員が死にます! 前に言ったでしょ。あなたには、どんな絶望的な状況でも笑っている義務があると!」
ラブルの叱咤の言葉に、俺は、ハッと目の覚める思いだった。
そして実感させられる。俺が背負わされている責任の大きさを。
「わかっている。大丈夫だ。ラブル分隊長は、部隊をまとめ直せ。ゾンビ兵との交戦は避けて、距離をとるようにしろ」
「了解です!」
俺はラブルに指示を出し、再度、状況を確認した。
急に視界がクリアになる。ゾンビ兵と、空戦部隊、壊滅したシュナーザ部隊、そして、再集結しようとしている俺の部隊。
冷静に考えれば、まだ終わっていない。状況はわるいにはわるいが、まだ俺の作戦は生きている。
いや、むしろ帝国軍に在籍する英雄のチートスキルが明らかになって、戦況が好転する兆しまで出ている。
あとは、もう一つ。
もう一つの条件さえクリアすれば。
そう思い至ったとき、
『クロ隊長、あたしらのこと忘れてないっすか?』
ちょうど通信にソマリの声が聞こえてきた。
「忘れるわけないだろ。タイミングを窺っていたんだよ」
『本当かよ、嘘くせぇ』
「当たり前だろ。準備はできてんだろうな」
『ばっちりだって』
この作戦が成功すれば、次のフェーズに話を進めることができる。そして、
「よし、ボンベイ、ソマリ。作戦開始だ!」
『『おう!』』




