第42話:ハバラ基地陥落
変な夢を見た日は、たいていよくないことが起こる。それは、そもそも俺の気分がわるいから、何が起きても嫌な気分になるというのもあるのだが。
「ハバラ高地が制圧された!?」
ただ、今回の案件は紛れもなくよくないことだ。よくないなんてものではない。はっきりいって最悪だ。
「それは本当なのか?」
「はい、伝令によれば」
緊急の会議が開かれ、いったい何が起きたのかと集まってみれば、いきなりの凶報に俺は、まだ信じられない思いだった。
ハバラ高地は、王国と帝国の境にある戦闘的要地をさす。歴史的に戦場となってきた地域であるが、現状、王国が支配している。
そこが制圧されたということは。
「帝国が攻めてきたのか?」
「そう考えるのが自然かと」
「基地はどうなった? あそこには、ヌケバシ隊長の部隊が駐屯していたはずだろ?」
「ヌケバシ隊長とは連絡を取れていませんが、逃れた隊員の話をまとめると、部隊は壊滅しています」
隊長達から、落胆の声があがった。
先にも述べたがハバラ高地は要地である。ここを落とされれば、王国の地理的優位がなくなる。そのため、死守すべき地点。
ゆえに、もっとも実力のあるヌケバシ隊長の部隊が配備されていた。
帝国でも、ヌケバシ部隊を突破するのは難しいはずだ。大兵力で攻めて来られれば、そのかぎりではないが、そんな大規模な動きを察知できないほど索敵能力は低くない。
とすれば、機動力のある小規模部隊で、完全にヌケバシ部隊を圧倒したということだが、そんなことできるのは。
「英雄がらみか」
セルカーク隊長が、ぽつりと零すと皆が黙り込んだ。そこで、俺は話を継いだ。
「逃げてきた奴らは、何か言ってなかったのか? どんな攻撃を受けたとか?」
「いえ、ずいぶん混乱しておりまして要領を得ません。ただ、突然の襲撃であり、一瞬で基地は制圧されたとのことです」
その襲撃内容を知りたいのだが、そこまではわからないようであった。
ただ、このありえない攻略速度から、英雄が絡んでいると考えて間違いない。俺として、何が起きたかよりも、誰がやったかの方が気になるところである。
「俺もセルカーク隊長と同意見だ。英雄が絡んでいると考えるのが自然だろ」
「じゃ、英雄には英雄だな」
俺が告げると、アキトが立ち上がった。
「なぁに。問題ねぇよ。俺が、ちょっくら行って片付けてくる」
アキトが胸を張ると、おぉ、と隊長達から歓声があがった。
Sランクのチートスキル持ち。アキトが戦場に出れば、どれだけ強力な部隊であろうと勝てるだろう。
しかし、俺は反論する。
「だめだ。おまえが出るのは最後だ」
「はぁ? 何でだよ。俺が、成果をあげるのがそんなに気に食わねぇのか?」
「違う。いつも言っているだろ。おまえのチートスキルは確かに強力だ。だからこそ、もしもその力を失ったら、王国は確実に敗北する」
「ふん。そんなヘマはしねぇよ」
「おまえのヘマとは関係なく、チートスキルの特性でやられることがあるって言ってんだ。ルミの『寵愛』やサクの『収納』のような、力では対処できない特殊なチートスキルがあることはわかっている。おまえがいくら強くたって、捕縛される可能性はある」
仮に、俺が帝国側ならば、まず、アキトを無力化することを作戦目標とする。そうすれば、王国を攻略するのは容易だ。
「まだ、帝国にいる英雄たちのチートスキルは把握できていない。軽率に動かれては困る」
「ちっ、わかったよ」
アキトは不満そうであったが、渋々と同意した。
会議の空気は重くなっていた。アキト派閥の奴らが多いせいだ。人は強い奴につく。彼らが、アキトを否定されたと思い、俺に対して不満の色を見せていた。
今は、それどころではないだろうに。
「アキトはなるべく動かしたくないが、事態は一刻を争う。今、基地にいるのは、小中規模の部隊だろうが、いずれ主力部隊が来る。そうしたら、圧倒的不利な状態で、帝国との戦争になる」
できれば、それは避けたい。まだ、王国軍もできたばかりで、戦争に耐えられる力はないのだ。
睨み合いの現状を維持するためには、あのハバラ高地はなんとしても奪還したい。
その点は、セルカーク隊長も理解しているようで、すぐさま、おおよその計画を立てた。
「わかりやすく数で攻めよう。機動性のある小規模部隊で、帝国軍を陽動しつつ、ハバラ高地を包囲して一気に殲滅する」
ふむ、わかりやすい。
こちらの被害を最小限に抑えるための作戦としては、他に思いつかない。
陽動を行う部隊の負担は大きいが、まぁ、仕方のないリスクだ。作戦の要でもあるので、チズルーマの部隊に担ってほしいが、こんな危ない任務を負ってくれるかどうか。
この貧乏くじを誰が引くのか、それがここからの会議の議題だなと俺が、顔をあげると、なぜか、皆の視線が俺に集まっていた。
え?
俺は、彼らの視線の意味がはじめわからなかったが、しばらくして、ハッと気づく。
どうやら貧乏くじを引かされるのは俺と決まっているようだ。




