第40話:出会い
「世話になったな、ガプーラ」
「いえ、ご迷惑をおかけしました」
馬に乗って帰路につこうとする俺に、ガプーラは、深く頭を下げた。
そんなたいそうな者ではないのだけれども、ガプーラ達がそれを望むのであれば、演じるしかない。
もしかすると、バミズも同じような境遇だったのかもしれない。周囲から英雄と担がれて、期待されて、そして演じている内に、後に引けなくなった。
そう考えると、俺もいつか引くに引けない状況に陥ってしまうかもしれない。
因果は巡るよ、どこまでもってね。
胸のところがちくりと痛んだけれど、俺は、なるべく顔に出さないようにした。
「今回の件は、同胞の軽率な行動が引き起こしたこと。報いを受けるのは仕方ありません。ですが、どうか、慈悲のあるご判断をお願い致します」
「わかっているよ。そのために来たんだ」
「それから、ついでに、うちの娘を嫁に」
「いや、それは考えさせてくれ」
激推しだな。
当の娘、ソマリは、ガプーラにまた怒っていた。聞いたところによれば、実際の娘ではないらしい。ただ誰の子であろうと、ここいらの子供たちは、皆、ガプーラの娘なのだと話してくれた。
そんな大事な娘に、粗相はできない。
と、そのとき、ふと、思いついたことを、俺はソマリに提案してみた。
「なぁ、ソマリ」
「何だよ」
「おまえ、王都に来る気はあるか?」
「は!?」
俺の言葉に、周囲の獣人が沸き立った。いったい何が起こったのかと思ったが、どうやら誤解しているようだった。
「よかったな、ソマリ! もらってくれるってよ!」
「英雄様の嫁だなんて、羨ましいわ!」
「元気な子を産めよ!」
あれぇ。そういう意味じゃないんだけど。
当の本人は、顔を赤くして、わたわたとしていた。
「い、いや、いきなり、そんなこと、言われても、あたしにだって、心の準備ってものが、あってだな」
「いやいや、違う違う。王都に働きに来ないかって話だよ」
「?」
俺が告げると、ソマリは、一度首を傾げてから、サッと自分の身体を抱いて、冷めた目をこちらに向けた。
「金に困ってねぇわけじゃねぇけど、あたし、身体を売る気はねぇから」
「うん、一旦、話を聞こうか」
俺は、こほんと咳ばらいをしてから話を続けた。
「獣人への理解と、経済的な独立を兼ねて、獣人達に仕事を用意しようと思っている。まずは、軍で募集をかける。獣人の強さを活用しない手はないからな。そこに、来ないかという誘いだ」
「あたしが?」
「あぁ、ソマリの強さは身をもって体感したからな。その力を軍で発揮してくれ」
おそらく獣人部隊として、特別に設置することになるだろう。戦場では差別意識も薄れるだろうが、いきなり統合するのは無理だ。
それでも、戦場で成果をあげれば、認めざるを得なくなる。そして、同じ勝利の喜びを味わえば、仲間意識も芽生えてくる。
どれだけの効果があるのかわからない。だが、一つずつだ。
ソマリは、何かを反射的に言おうとしたが、口を噤み、そして、そっぽを向いたまま、小さな声で言った。
「考えておくよ」
「そうか」
挨拶も終えて、俺達は、そろそろ出発しようかと馬に合図を送った。
「なぁ」
そのとき、ソマリが声をかけてきた。
「あんた、名前は何て言うんだ?」
「前に言っただろ」
「ちゃんと聞いてなかったんだよ」
悪びれる様子のないソマリに、俺はため息をついて、けれども、名前を覚えてもいいかと思えるくらいには仲良くなれたんだなと、少しだけ笑った。
「クロだよ。よろしくな、ソマリ」




