第39話:収納
「痛ぇぇぇな! 尻を打っちまったじゃねぇか!」
「また尻か」
「またって言うな! この変態英雄が!」
尻もちをついているソマリを放っておいて、俺はサクの方に目を向ける。彼は、卒なく着地したようだ。
外の者達は、まだ何が起きたのかを把握していないようだった。ただ、2階から落ちてきた俺達に、注目している。
俺は、犬耳カチューシャを付け直してから、大声で叫んだ。
「王都のスパイだ! バミズが危ないぞ!」
その言葉の真偽を確認せずに、慌てて、周囲にいた者は、アジトの中へと駆けこんだ。
あらかた見張りが中に入っていったところで、俺は、サクに声をかける。
「サク! 今だ! この建物を収納しろ!」
「オッケー!」
サクは既に建物に手をかけていた。一拍置いて、建物の下に大きな黒い渦が出現する。
渦は、すーっと音もなく上に昇っていく。渦が通ったところには何もなく、ただの空間が横たわり、渦が建物の天辺まで昇りきったときには、そこには平らな土地だけが残っていた。
「収納完了!」
チートスキル、収納。
初めから、俺達の目的は、暴動の首謀者を、サクのスキルで捕獲することだった。
ただ、首謀者の場所がわからなかったので、知っていそうな奴のいるところに向かって、ちゃんと首謀者バミズの元に辿り着き、こうして、一派ごと捕えた。
「お疲れ、サク」
「大きさはけっこうぎりぎりだったけどね」
俺とサクは、思わず笑い合った。
「何て、魔法なんだ!?」
一人、事情を知らないソマリだけが、座り込んだまま、目を丸くしていた。
「バミズ達は、どうなったんだ? どこに行った? 殺しちまったのか?」
「ううん、殺してはいないよ。僕のスキルで、収納しただけさ。みんな、僕の収納箱の中でぴんぴんしているよ」
サクの言葉に、ソマリはさらに疑問符を頭の上に浮かべていた。それは、仕方がない。俺でも、収納された奴らが本当に無事なのかは知りようもないのだから。
「俺達が、英雄だって信じたか?」
「あぁ、こっちの女か男かわかんねぇ方は、紛れもなく英雄だ。顔もきれいだし。でも、おまえは別だ」
「おい」
まったく。助けてあげたというのに、感謝の気持ちが足りないんだよな。
まぁ、厳しい決断だったのは理解できる。それを、ソマリに強いてしまったのは、すまないと思っている。
「手伝ってくれて、ありがとうな、ソマリ」
俺は、ソマリに手を差し伸べた。すると、ソマリは、ふんと鼻を鳴らして、俺の手を掴んだ。
「約束は守れよな」
「いや、嫁は、もう少しちゃんと選びたいんだけど」
「そっちじゃねぇよ! 虐殺が起こらないようにって話だろ! っていうか、何であたしがふられたみたいになってんだよ。おまえなんて、あたしの方から願い下げだよ!」
冗談なんだから、そんなに怒らなくてもいいのに。
「まぁ、それはそれとして、サクとソマリには、重大なお知らせがある」
立ち上がったソマリと、背伸びをするサクに対して、俺は、なるべくかるい口調になるように告げた。
「あと一仕事残っている」
「「え?」」
「ここから逃走することだ」
「まさか、ノープランってことはねぇよな」
「こんなにとんとん拍子に事が進むと思ってなかったからな。幸い、みんな混乱している。今の内に逃げ切るぞ」
「「うそぉ~!?」」




