第36話:アジト
「まず、あたしにバミズと話をさせてくれ」
廃墟である。
壁はところどころ崩れていて、窓は割れ、それらが布で覆われて簡単に補修されている。
ソマリの話では、ここにバミズがいるとのことだが、外からは判断できない。
ただ、廃墟の前には、二人の見張りが立っており、彼らの存在が、バミズのいる可能性を高めていた。
その入口を、遠方で窺っていたところ、ソマリが、先の提案をしてきたのだった。
「ソマリはグループに入っていた時期があると言っていたが、バミズと面識はあるのか?」
「いや、一度、紹介してもらったくらいだ。向こうは、あたしの顔なんて覚えてないだろうよ」
「じゃ、やめとけ。今のバミズ一派は、批判する者を許さないだろうよ。それが、どれだけ建設的な意見であってもな」
それに、と俺は告げる。
「ここから先のことに、ソマリは関わっていない方がいい。どんな結果になろうと、裏切り者といわれる危険性がある」
「あんたに心配される覚えはねぇ」
いやいや、こちらから依頼したわけだから、一応、責任があると思うんだけど。などという、俺の懸念をよそに、ソマリは、ふんと鼻を鳴らす。
「今さらなんだよ。ここに、あんたらを連れてきた時点で、あたしは裏切り者だ。そんなことは、最初からわかっている」
「それでも、同胞に手をかけるのは嫌だろ」
「同胞っていうなら、これは、同胞の話だ。よそもんに手を汚させて、こっちは横で見ているだけなんてことできるかよ」
なるほど、そういう仁義か。
だとすれば、これ以上、拒絶するのも野暮というものだろう。
「わかった。その代わり、俺達もついていく」
「話を聞いてなかったのか? 人間がいたら、話し合いにならねぇって。中に入るときは、さすがにフードをとらないとだめだぞ」
「大丈夫だ。変装してきたからな」
俺がにやりと笑って、サクに視線を送ると、彼の方はぎこちなく笑い返してきた。
俺とサクがフードをとると、俺達の頭には、犬耳が生えていた。
「クロくん、やっぱりこれ恥ずかしいよ」
「どうして? いい出来だろ?」
俺の作った犬耳カチューシャだ。
獣人の制圧に行くとなったときに、もしかすると変装するかもしれないと思い、かりかりと作ったのだ。
毛並みの感じを出すのに、けっこう苦労したが、わりといい出来だと自負している。
実際に、サクなどは、もともとの素質も相まって、とってもかわいらしく仕上がっている。
「こんなのでごまかせるのかなぁ」
「コスプレで大事なのは、思い込むことだ。しっかりと思い込めれば、誰も違和感を覚えない」
「いや、コスプレはそうかもしれないけど」
サクが不満を漏らす一方で、ソマリが、ぬぅと奇妙に唸り声をあげていた。
「確かに、それをつけているとあんたらの人間臭さが消えるんだよな。いったいどんな魔法なんだ?」
「え? 消えるの? これで?」
ほら。
「獣人のソマリから、お墨付きがもらえたんだぞ。だから、コスプレは気持ちなんだ」
「はぁ、僕もコスプレデビューか」
「安心しろよ。これから、もっといろんなコスプレをさせてやるからな」
「いや、頼んでないけど」
いずれサクにはいろいろコスプレさせるとして、どんな衣装が似合うのか想像が膨らむところだが、その気持ちは今は抑えておいて、俺達は、バミズのアジトへ侵入を図った。
「おい、止まれ。何者だ?」
「南地区のガプーラの遣い、ソマリだ。王国側の情報をもってきた。バミズはいるのか?」
「ガプーラの?」
ソマリが、コートの中からペンダントを取り出して見せると、見張りの者は、ちょっと待っていろ、と言って中に消えていった。
どうやら、ガプーラ一派であることを示す記号があるらしい。その効果はしっかりとあったようで、しばらく待つと、ソマリと俺達は、アジトの中に通された。
アジトの中は、外側と同様に汚らしかった。その上、物資が所狭しと置かれており、確かにアジトといった風体だ。
通されたのは、二階の一室。
黒い布で窓が覆われており、薄暗い。その中に、魔光石がぼんやりと浮かんでおり、なんとなく鍾乳洞の中にいる気分だ。
思ったよりも獣人が多くいた。何やら、会議を行っていたようで、もしかすると重要人物が揃っているのかもしれない。
だとしたら都合がいいのだけど。
部屋の一番奥に、一人、異彩を放っている男がいた。
格上なのをわかりやすく示すために、高い椅子に腰を据え、皆を見下ろしている。長い灰色の耳に、ふさふさの尻尾、切れ長の瞳は、ルビーのように赤く輝いていた。
「バミズ様、お連れしました」
先行していたバミズ一派の構成員が、深々と頭を下げるのを見てから、その男、バミズは、赤い瞳をぎろりとこちらに向けた。
「おう、婆さんの遣いがいったい何の用だ?」




