第35話:過激派
「なぁ、別に俺達のことを嫌うのはいいんだが、その仏頂面はどうにかならないのか? 気分がわるくなる」
俺達は、ソマリに先導されて、獣人街の奥深くへと足を運び入れていた。
ぼろぼろの廃屋が立ち並び、ここに本当に人が住んでいるのかと疑いたくなるような有り様だ。そんな俺の不安に反応するかのように、陰から視線だけが、こちらを窺っている。
フードを被っているので、人間とはバレていないはずだ。ただ、こんなフードに身を包んだ2人を見れば不審に思うだろうが。
俺とサクは、彼らの冷ややかな視線が恐ろしく、びくびくとしていた。だが、ソマリは、まったく気にせず、がしがしと先に行ってしまう。
「別に、あんたらが嫌いなんじゃない。あんたが気に食わないんだ!」
「さいですか」
どうやら、決闘で尻をぶっ叩いたのを根に持っているらしい。
あれは、ソマリの身を案じたのと、手っ取り早く負けを認めさせるための作戦だったのだが、まずかったようである。
完全に関係がこじれてしまった。
「まぁ、クロくんはデリカシーがないからね」
「それ、どこで売っているんだ? 今度買っておくよ」
サクは、その点、器用そうだ。おそらくコンビニかそこらでデリカシーとやらを買い占めたに違いない。
別にデリカシーがないと話ができないわけではない。要は、仕事さえしてくれればよいのだと、俺は思い直し、ソマリに話を振った。
「君は、バミズのことを知っているのか?」
俺が尋ねると、ソマリは、嫌そうな顔をしつつも、ガプーラの言いつけもあってか、渋々答えてくれた。
「この辺りで、あいつのことを知らねぇ奴なんていねぇよ。人間を全部ぶっ殺して、獣人を救うって本気で言っている狂った奴さ」
獣人を虐げる人間をすべて殺せば、獣人に平和が訪れるという、シンプルで、明瞭で、反論のしにくい、過激な思想。
こういった過激思想は、いつの世にも現れて、一定数の支持を受ける。
「ほんの少し前までは、人間からも獣人からも追われていたよ。ボリダグも、領主との信頼関係が崩れるのを恐れていたしな。だが、そのボリダグを殺しちまった今では、獣人の英雄だ」
「英雄ね」
皮肉な話だが、よっぽど俺達よりも英雄らしいともいえる。
「あいつを批判する奴は、バミズの信奉者に袋叩きにされる」
「君は違うんだな」
俺が、尋ねると、ソマリは、少し言いよどんでから返してきた。
「昔の話だが、あいつに、憧れていた時期もあった。ほんの少しの間、バミズのグループに入っていたしな」
え? おまえがその信奉者なんじゃねぇの?
「昔だぞ」
「昔って、君、見た目によらず、ババアなのか?」
「18だ。人をババア呼ばわりすんじゃねぇ」
自分だって、ガプーラに言ってたのに。
「14のときだよ。友達に誘われて、バミズのグループに入った」
あれだな、中学生が、わるい友達に誘われて、不良の先輩のグループに入る流れだな。
「人間を制裁する。口ばっかしのボリダグよりも、ちゃんと実行するバミズの方が、かっこよく見えたんだ」
そう思うのも無理もない。むしろ、そういう過激な行動が、獣人たちのいいガス抜きになっていたのだろう。
「今でもそう思うのか?」
「昔って言っただろ。今は、あいつにはついていけねぇって思っているよ」
子供を襲ったんだ、とソマリは続けた。
「獣人の女を強姦した兵士がいた。そいつを制裁しようという話になった。そんな奴、死んで当然だと思ったよ。でも、バミズが襲ったのは、その兵士の娘だった」
ふぅ、とバミズは息を吐く。
「あいつは、憂さ晴らしのために、弱い奴をいじめ返して、喜んでいるだけなんだよ。それに気づいたとき、一気に冷めた」
「よかったな。早めに、そのことに気づけて」
「うっせぇよ」
ふと、PV稼ぎに過激になっていくユーチューバーを連想した。実際、バミズの行動で、とり巻き達は大喜びするのだろう。人間に一矢報いてやったと。そうするとバミズも調子に乗って、さらに過激に、下劣になっていく。
そのサイクルが激しくなって、手が付けられなくなってしまった。
「あいつの考えには賛同しねぇが、だからって、人間は気に食わねぇ。いくら、英雄だからって、認める気はねぇよ」
「勝負に負けたくせに」
「な! あれは、ばぁちゃんの邪魔が入ったからで、あたしは、負けてねぇ!」
「はいはい」
「あー! もう、おまえ、本当にむかつくな! 人間とか獣人とかいう前に、おまえがそもそも嫌いだわ!」
話して、少しは打ち解けたかと思ったのだけど、余計に嫌われてしまった。
もう、この関係の修繕は無理かもしれない。
隣で、サクが、呆れたようにため息をついたところで、ソマリが足を止めた。
「さぁ、着いたぜ。ここが、バミズのアジトだ」




