第34話:扇動者
「ただ、一つ、問題があります」
いささか気を緩ませてしまった俺に、ガプーラは注釈を述べた。
「わしは、この辺り一帯の長であります。しかし、過激に動いているのは、別の者達です。彼らは、わしの言うことには従わないでしょう」
「なるほど。扇動者がいるわけだな」
「えぇ。もともとわし等は穏健派です。暴動になったので、自衛のために武器をもったに過ぎません」
実のところ、その話は、事前の調査でわかっていた。だから、俺達は、まずここに来たのだ。
「過激派なのは、バミズのグループ。この暴動が激化したのは、あのバカ者のせいと言えます。彼を止めなければ暴動は止まらないでしょう」
バカ者とガプーラは、はっきりと言った。どうやら、本当に、彼女もこの暴動に反対のようだ。
「もともと、コラット領の獣人の長は、ボリダグという男でした。あの男は、コラット伯爵と裏で手を組んでいて、獣人への残虐事件の後処理をする代わりに、優遇を受けていました」
今回も、そのはずだった。
しかし。
「バミズが獣人を扇動したことで、ボリダグにも手がつけられなくなりました。挙句の果てに、バミズは、非協力的だったボリダグを裏切り者と言って、彼の家ごと爆破しました」
本当に過激だな。
「ボリダグは褒められた男ではありませんでしたが、彼のおかげで、獣人の虐殺といった大きな事件が起きなかったのも事実です。けれども、タガが外れてしまった今となっては」
ガプーラは、言葉を切った。
おそらく、彼女は既に諦めていたのだ。このまま暴動を続けていれば、何が起こるか。そんなこと、彼女は知っていた。
皆の手前、俺達の提案に抵抗するそぶりを見せたが、初めから、降伏案に賛成する気だったに違いない。
それでも、この暴動が止められないのではないかと、ガプーラは不安なのだ。
「わかった。バミズを拘束しよう」
俺は、断言した。
「拘束して、王都に連行する。リーダーを拘束すれば、この熱気も冷めるだろう。ガプーラも協力してくれ」
「もちろんです」
ガプーラは、即答した。そこに、俺は追加で注文する。
「さっそく協力してほしいんだが、そのバミズの捜索を手伝ってくれないか。俺達は、土地勘がない。潜伏しているバミズを探し出すのは、かなりたいへんなんだ」
「そうですか。でしたら、うちの者に手伝わせましょう」
「……俺が聞くのもなんだが、同胞を売ることに抵抗はないのか?」
「生き残るためです」
ガプーラは、淡白に述べた。
この老婆は、信心に対する情熱と、論理における冷静さの二つを兼ね備えている。その使い分けを心得ており、上に立つ者としての手腕に俺は、素直に尊敬の念を抱いた。
ガプーラは、席からか首をひねり、扉の方に向けて声をかけた。
「ソマリ、ソマリや。ちょっとおいで」
「……」
「尻ぶっ叩かれ娘のソマリや! ちょっと来なさい!」
「黙れ、ババア!」
扉を開けて、跳び込んできたのは、先ほど俺が決闘で倒した女子であった。
「これから英雄様のお供をしな。英雄様の言うことを聞いて、しっかりと力になるんだよ」
「何で、あたしが! こんな変態英雄のお供をしなくちゃいけねぇんだよ!」
「つべこべ言うんじゃないよ」
「嫌だね。ババアがやればいいだろ」
「相変わらず、口のわるい子だよ」
「うるせぇ」
「尻までぶっ叩かれて、これじゃ嫁のもらい手があったもんじゃない。そうだ、英雄様、ついでにこのバカ娘をもらってくれやしませんかね。口はわるいが、顔はいいと思うんですが」
「なっ! 勝手なこと言うんじゃねぇ!」
楽しそうで何よりなんだが、旦那候補としては他をあたってほしいのと、できれば、案内役は他の人にしてもらえないかな。
俺が、そんな提案をしようとしている一方で、ソマリとガプーラは、やいやいと話を続けており、口を挟める雰囲気ではなかった。
ただ、少しだけ懐かしくなった。
こんな、家族のやりとりを見たのは久しぶりだったから。




