第31話:獣人との邂逅
「何だ! このくそ猿が! 死にたいのか!」
あっという間に、俺達は、獣人達に囲まれてしまった。剣やらこん棒やらをもった屈強な獣人たちは、憎しみに満ちた目で、俺達を睨みつけてくる。
……怖っ。
とにかく口汚い。
教養の欠片もない悪口を並べ立て、俺達を叱責してくる。
仕方がないといえば、仕方がない。俺達の姿は、この世界の人間と同じだ。獣人から見れば、人間の子供が二人、のこのことやってきたようにしか見えない。
子供なんだから、優しくしてくれるかなと思ったんだけど、どうやら当てが外れた。
「俺達は、王国の英雄だ。話し合いに来た」
「何が英雄だ! おまえらみたいなガキが英雄なわけねぇだろ!」
そりゃそうだ。
「こんな辺境の地じゃ、俺達の話も伝わっていないか」
「いや、クロくん。話が伝わっていても、僕たちの顔はわからないんじゃない?」
「確かに」
サクは、および腰で俺の腕に捕まっていた。これから交渉しようというのだから、虚勢でいいから、しゃきっとしてほしいのだが。
「じゃ、どうすればわかってもらえるんだよ。生徒手帳でも持ってくればよかったか?」
「それもわからないんじゃないかな?」
俺とサクが話し込んでいると、獣人の大男が吠えた。
「何ごちゃごちゃしゃべってんだ! ぶっ殺す!」
何で、すぐ殺そうとするかな。
俺の不満をよそに、三人の男が剣をふりあげて、走り寄ってきた。
こちとら十代の子供。一方で、相手は獣人の大男。普通に戦えば、向こうが勝つ。獣人達は、当然、そう思う。
だが、そうならない。
なぜなら、俺達にはチートがあるから。
「サク!」
「うん!」
サクが、腕を大きく振り上げたそのとき、地面に複数のゲートが開いた。
そこから突如現れたのは、石の柱。
柱は、走ってきた獣人の身体の前を塞ぎ、次に、彼らの身体の動きを封じるように、二本、三本と立ち昇り、あっという間に、その自由を奪った。
一瞬、静寂が訪れ、すぐさま、驚きの声があがった。
「な、何だ? あの魔法!?」
「あんな魔法見たことないぞ!」
「もしかして、本当に、英雄なのか?」
どうやら、納得してくれたようである。こうなるならば、カスミとかがついてきてくれた方がありがたかったな。龍になるとか、わかりやすいし。
まぁ、サクのチートスキルも十分チートだが。
「うまくいったな。この技は、十分に通用する」
「うん! 練習した成果だよ!」
隣でサクが、ホッと胸を撫でおろしていた。
サクのチートスキルは収納。巨大なものでも、彼のゲートの中に収納できて、運搬コストをほぼゼロにできる。それだけでも、戦場においては、S級といっていいほど使えるチートだ。
しかし、単体での戦闘能力はない。
これでは、戦場で危険だということで、俺とサクで考えだした拘束技だった。
俺は、獣人達に動揺が走っている間に、声を張った。
「これでわかっただろ。俺達は英雄だ。おまえ達には絶対に勝てない。信教者であるおまえ達を傷つけたくないんだ。話を聞いてくれ」
獣人たちにざわめきが走った。
「おい、英雄様だぞ!」
「俺達を助けに来てくれたのか?」
「いや、王国の味方かもしれないぞ」
英雄と信じるか、味方かどうか、半信半疑といったところか。少なくとも味方ではないのだが、話し合いには応じてもらいたい。
「けっ、何が英雄だよ。そんな小細工で勝った気になってんじゃねぇ」
口汚く声を張ったのは、女だった。
いや、女の子といった方がいいかもしれない。瓦礫の上に座る彼女は、あどけない顔立ちに猫耳。尻尾がひょろりと肩にかかっており、何やら挑発染みた笑みを浮かべている。
ショートパンツを履いて、タイトなシャツを着こみ、その華奢な身体のラインを露わにしていた。編み込みのブーツは重厚感があり、彼女の明るい髪の色とは対照的だった。
「おい、ソマリ、やめとけって」
「うっせぇ。臆病者は引っ込んでろ」
周囲の大男が、彼女を制しようとするが、彼女に睨まれると、おずおずと下がる。そのかわいらしい容姿からは想像がつかないが、ここでは、彼女が一番強いか、リーダー的な存在なのだろう。
「あたしは、そんなんで英雄とは認めねぇ」
ソマリと呼ばれた女子は、ひょいと瓦礫がから飛び降り、そして、俺達の前に、腕を組んで立った。
「あたしとやりな。一対一で、真っ向勝負だ」




