第30話:コラット領での獣人蜂起
最初は、子供の喧嘩であった。
喧嘩というには一方的なもので、獣人の女の子に、人間の子供達が石を投げていた。
それを見た獣人の大人が止めに入った。獣人か人間か以前に、大人として当然の行動をしたといえる。しかし、獣人の彼は、人間の子供に怪我をさせてしまった。
翌日、子供を助けた獣人は、コラット伯爵の私兵によって惨殺された。
当然、獣人達は激怒した。
不当な殺人であると。そんなことは、今更の話であったはずなのだが、おそらく蓄積されていたものがあふれ出てきたのだろう。
反抗する獣人は、次第に増えていき、いつの間にか、コラット領全域での獣人蜂起となった。
困ったのはコラット伯爵である。
そもそも、コラット伯爵は、王国の最東部にある辺境の貴族であり、兵力もさほどない。だからこそ、獣人が多く住んでいたともいえるが、ゆえに、コラット伯爵には、獣人の暴動を抑え込む力がなかった。
そこで、コラット伯爵は、王に援助を頼んだ。
「よし、いいぞ。全員殺せ」
報告を受けて、王は、第一声でそう述べたらしい。
まったく、見事な鬼畜である。
俺は、密かに鬼畜王の称号を彼に与えた。
しかし、この世界では、普通のことで、誰一人、王の言葉に忌避感を抱く者はいなかった。俺は、そちらの方に唖然とした。
「コラット領鎮圧の件、俺達に預けてくれませんか?」
気づくと、俺は、口を出してしまった。平和ボケした正義感。そうとしか思えない判断で、自分でも、合理性に欠けると思っている。
だが、放っておけば、大虐殺が起こる。
それを、みすみす見逃すことはできなかった。
「僕は、クロくんの判断は間違ってなかったと思うよ。アキトくんは、文句を言っていたけどさ」
「そう言ってくれてよかったよ」
コラット領の荒廃した大通りを歩いていると、隣でサクが、グッと拳を握っていた。
「全員殺すなんてひど過ぎるもんね。そりゃ、暴動を起こすのよくないけど。ここは話し合って、平和的に妥協点を探すべきだよ」
サクが、にこっと笑うので、俺もかるく笑顔を返して、首を横に振った。
「いや、暴動は、暴力によって鎮圧する。いっさいの妥協を認めない」
「え!?」
驚くサクに、俺は、なるべくわかりやすく説明を試みる。
というか。
「この話、王都でしただろ。おまえ、話聞いてなかったのか?」
「うーん。僕、理系だから」
「理系は耳がねぇのか」
まったく、と俺は肩を落とす。
「いいか、至極単純な理由だ。暴力による現状変更は認めない。それだけだ」
「ふむ、もうひと声」
「つまりだな、暴動ってのは、やくざのやり方だってことだ。殴られたくなかったら、俺の言うことを聞け、俺の要求を受け入れろってな。そんなやり方を認めちゃだめだろ」
「なるほど。でも、今回は、先に手を出したのは人間の方だよ」
「だめだ。どんな理由があろうと、一度、暴力による現状変更を認めたら、次が出てくる。気に食わないことがあったら、暴力に訴えようと」
「小学校みたいだね。みんなが真似するからだめ、ってよく先生が言ってた」
「まさにそれだ。だから、先生よろしく、どんな理由があろうと、妥協しない」
「でも、暴力で鎮圧するって、それじゃ、王様と一緒じゃん」
「いや、暴力は使わない」
「え? でも、さっき暴力で鎮圧するって」
「正確には、暴力を背景に、強硬的に交渉し、降伏させる」
「それって、脅すってことだよね?」
「虐殺よりはいいだろ」
「はぁ。もっと平和的な解決がいいなぁ」
「現状、考え得るもっとも平和的な解決法だ。代替案があったら教えてくれ。いつでも募集中だよ」
「ないよ。だから、クロくんの案を精いっぱい実現しようとしているんじゃない」
「これも綱渡りだけどな。一歩間違えれば、大虐殺が始まるか、俺達が殺される」
「そうならないようにがんばろうよ」
「まったくだ」
俺とサクは、道端で立ち止まる。大通りは、まだ続いているはずなのだが、これ以上、進むことはできない。なぜならバリケードが築かれているからだ。
「やっぱり怖いね」
「あぁ。俺も怖い」
俺達が震えていると、ぞろぞろとバリケードの裏から、獣人が現れる。
コラット領の獣人が不法占拠した地区に、俺達はやってきたのだ。
どうして、俺達がこんなことを、と思わなくもないが、俺達にしかできないことなのは間違いない。
英雄と呼ばれる異世界人。
そんな俺達だから、できること。
英雄などと言われてもピンとこないが、とりあえず、救える命は救おうじゃないか。




