第29話:異世界の国々
「国じゃないって、どういうこと?」
サクが首を傾げるので、俺は世間話程度に、今の自分の理解を話すことにした。
「サクは、そもそも国とは何か言えるか?」
「うーん。日本とか、アメリカ?」
「それは国の個別名称だな。一般的に国の構成要素は、領土と国民と政府の三つだ。小学校で習っただろ」
「僕、理系だから」
「おまえの小学校、文理でわかれてたのかよ」
てへ、と首を傾げるサクに、俺はかるくため息をつく。
「王国には、領土と国民はあるが、政府がない。だから、国とは呼べないというのが俺の見解だ」
「政府ならあるじゃん。王様がいるよ。それに貴族の人達もいるし」
「あれはただの戦争互助会だ。王様がいちばん偉いんじゃなくて、貴族共の代表が王様なの。そうだな。言ってしまえば、貴族ってのは知事みたいなもんだ。そして都知事が王様。だから、王様の言うことなんて誰も聞きやしない」
「あぁ、それ、わかりやすい」
「しかも、貴族の領土の中にもプチ貴族がたくさんいる。市長や町長までもが、ここはわしの国じゃ、と主張しているかんじだ。これじゃ、国とはいえない。国とは、その地域一帯を治める統一政府があって、はじめて国といえるんだ」
「ふーん。で、国じゃないと何か困るの?」
「すごい困る。国としてのまとまりがないから、戦力は弱い。権力闘争ばかりで内紛が絶えないから、経済も発展しない」
戦争をするために必要なものが、ここにはずいぶんと足りていない。それどころか、このままでは先に内紛で王国が倒れかねない。
「だから、まず国を創る」
「おー」
サクは、素直に拍手をくれた。
「革命だね」
「いや、革命は起こさない。民主革命を起こすには、国民の教養と理解が足りないし、他の貴族を擁立するなら、今の王でも同じだからな」
むしろ、国民に認知されている分、今の王の方が都合がいい。
「うーん。でも、国ってどうやってつくるの?」
「とりあえず、当面、俺が目指すのは権力と法律の統一だ。王国内にある権力は、王国政府だけが所有していて、王国内ならば、どこにいても同じ法律に従っている状態のことだな」
「それって、はっきり言って普通だね」
「俺達からすればな。でも、王国では、貴族ごとに私兵団をもっているし、領地ごとに法律が違う」
国を作って、兵力を統一して、強力な軍隊をつくる。この世界征服ゲームに参加するにしろ、参加しないにしろ、生き残るためには、必要なことだ。
「そうなれば、獣人の問題も解決するかな」
「それは、また別の大きな問題なんだよなぁ」
ゲームに勝つためには国を作らなくてはならない。一方で、この世界で生きていくのならば、解決しなければならない大きな問題が、もう一つある。
それは、宗教問題だ。
「獣人は異教者、ゆえに人ではない。だから、どんなひどいことをしてもいい。この差別意識が、この世界の常識だ」
歴史的に見ても、異教を排除するのは珍しいことじゃない。しかも、実際に、見かけも人じゃないんだから、差別もしやすいというものだ。
「魔人も同じだな。あいつらは、獣人からも差別されているんだから悲惨だよ」
「見た目が完全に悪魔だからね。角生えているし、目が赤いし。あれは怖いよ」
「そこに宗教が絡んでくると大義名分を得るんだ。自分達が正義で相手が悪だとな。そうすると人はもう止まらない」
俺は、宗教の観点を含めて、この世界についてまとめてみた。
「この世界はまず大きく二つに分けられる。信教者か異教者か。そして、教徒の中で、宗派によって二つに分けられる。救援派と約束派だ」
「なんだか、難しいね」
「簡単だよ。救援派は、この世で善行を積めば救われるという思想で、王国がこれに該当する。もう一つの約束派は、救われる人間は予め決まっているという思想で、帝国はこの思想でできた国家だ」
「似ているけど、違うの?」
「全然違う。救援派は、獣人でも教えに従えば救われると考えるが、約束派は、獣人はどうあっても救われないと考える。この二つの考えが折り合うことはない。だから、王国と帝国は何度も戦争している」
「わからないな。どうして、そんなことで戦争になるのか」
「宗教に疎い日本人にはわからない感覚だよ。正直、俺にもわからない。へぇ、おまえはそう考えているんだ、でいいのに」
「そうそう」
「だが、この世界の連中は、思想が違う者は殺さなくてはいけないと考えている。だから、戦争になるんだ」
意味わかんない、とサクは首を傾げた。
「話を戻すが、異教者の方も二つに分けられる。獣人か魔人か。彼らについて理解するのは簡単だな。信教者から迫害されているのが獣人で、信教者からも獣人からも迫害されているのが魔人だ」
「なんかそう聞くと、魔人は悲惨だね」
「だから悲惨だと言っているだろ。魔人は過去に何度も王国と帝国に虐殺されている。獣人からも嫌われて、追いやられて、南東の辺境に逃げ込んで今に至るわけ」
「かわいそう」
「獣人も似たような歴史があるけれど、魔人ほどじゃない。王国は、信教者であれば獣人でも国民として認めているからな」
「そういえば、王国でも獣人は見るものね。魔人は見たことがないけど」
見たことない、ということが、どういうことなのか。サクはちゃんと理解していないだろうが、過去に何があったかを物語っていた。
「まとめると、勢力は4つ。救援派の王国、約束派の帝国、獣人の獣国、魔人の魔国。これが、この世界の勢力図となる」
「ちょうど、僕達が振り分けられたところだね」
そこで、サクが疑問を呈する。
「ねぇ、聖国はどうなるの? 確か、振り分けられたクラスメイトがいたよね」
「あそこは緩衝地帯だ。地理的に4つの勢力のちょうど中心にあって、それぞれの聖域。いがみ合っている内に誰も手出しできなくなった。そこにいつの間にか国みたいなものができていただけ。あそこは、正直、脅威じゃない」
ふぅ、と俺はため息をつく。
「そういうわけで、世界中が宗教問題でいがみ合っていて、王国内は、無法地帯でガタガタ。これが現状」
「もしかして、やばい?」
「やばいやばい。このまま放っておいたら、いちばん最初にドロップアウトだ」
「僕、まだ死にたくないな」
「俺もだよ。だから、こうして一つ一つ問題を片付いていくしかない」
俺は、サンドウィッチの残りを呑み込んでから、手を叩いた。
「コラット領で起きた獣人の暴動。こいつを鎮圧しようじゃないか」




