第28話:書庫とサンドイッチ
「痛っ!」
俺は、頭の痛みで目を覚ました。どうやら、積んでいた本が落ちてきたらしい。
周りを見れば、本の山である。荘厳に飾られたハードカバー。やたらと重いし厚いしで、持ち運ぶのが面倒だったから、その辺に置きっぱなしにしてしまっていた。
やっぱり電子書籍だよな。
まぁ、俺は、元の世界でも、紙の本で読むことが多かったけれど。
ただ、本があっただけマシか。
本があるということは記録があり、歴史を知れるということだ。この世界の知識の蓄積を得ることができる。
この世界の言葉をしゃべれるだけでも驚いたのだが、文字も読めるのだからありがたい。正直、これもほとんどチートのような気がする。
俺が、欠伸を一つしたとき、扉の開く音が聞こえた。
「クロくん、ここにいるの?」
「あぁ、いるぞ」
声の主は、恐る恐るといったふうに、書庫の中へと入ってきた。慣れていなければ、確かに書庫は怖い。
たくさんの本と、薄暗い部屋。紙の乾いた臭いが、異質な空間をつくっている。
俺は、積まれた本の山から、顔を出して手を振った。すると、彼はパッと笑顔を見せて、こちらに寄ってきた。
やってきたのは、佐倉咲丸だった。小柄な男子で、線も細いため、ときおり女子と見間違われることもあるという。
名前の語呂もいいため、女子からはサクサクと呼ばれていたが、俺は普通にサクと呼んでいた。
「どうしたんだ?」
「どうしたって、もう出発する時間だよ。クロくんが遅れるなって言ったのに」
「ん? あぁ、わるい。寝過ごしたみたいだ」
「ここで寝てたの? 風邪ひくよ」
「心配ありがとう。でも、やらなくちゃいけないことが多くてさ」
俺は本を避けて、サクの方に近寄っていった。申し訳ないが、片付けは司書にお願いしよう。
「それじゃ、行くか。ただ、わるいんだが、途中で何か飯を食わせてくれ。お腹空いちゃったよ」
「あ、そうだと思って、用意しておいたよ」
サクが手をかざすと、宙にゲートが現れた。そこからサクは皿を取り出す。皿の上には、サンドウィッチが乗っていた。香ばしく焼かれたパンの中央に切れ込みがあり、そこにハムとレタスとチーズが挟まれている。
佐倉咲丸のチートスキル、収納である。
彼の手元にゲートを生成して、その中にモノを収納できる。収納したものは、サクにならばいつでも取り出し可能である。
「ありがとう。ていうか、サクは、ずいぶんとその力を使いこなしているな」
「うん、練習したしね。これ便利なんだよ。たまにどこにいれたか忘れるけど」
「どこにっていう概念があるのか?」
「なんだろう。重さのないロッカーを背負って歩いてるみたいなイメージ?」
わからん。
まぁ、サクがわかっているのならば、それでいいのだ。
それよりも、こんなわけのわからんスキルを与えられて、それを平然と使おうと思う図太さの方に、俺は感服していた。
「ねぇ、何読んでたの?」
「ん? 歴史書だよ。この国の成り立ちとか、他の国との関係とか、国力はどんなものなのかとか」
「へぇ、何か難しそうな本ばかりだけど」
「あぁ、正直、すごい読みにくいし、書籍ごとに記載が違う。作者の気分に左右されまくりだな。読むのにすごい難儀したよ」
「ふーん。クロくんて変わっているよね。異世界に来てまで、歴史を勉強するなんて」
「半分趣味、半分ゲームのためだな」
「ゲーム、か。それじゃ、クロくんは、世界征服するつもりなんだね」
「異世界で一生を終えるってのもありだと思うけど、フルイデがやる気だからな。争いはご免だが、争わずに殺されるほどお人よしじゃないってかんじか」
「僕は、戦いたくないな」
「同感だよ」
だが、このゲームで戦争は必須。戦わなければ、ただ殺戮されるだけだ。とすれば、戦うための準備をするのは当然。
「あ、いけない。出発しなくちゃ」
「そうだったな。大丈夫。これなら、食べながらいけるから」
「行儀わるいよ」
俺は、サンドウィッチを片手に持って、サクの後ろについていった。
「それで、調べてみて、王国のことは何かわかったの? そもそもこの国って強いの?」
「あぁ、そうだな」
俺は、サンドウィッチをがしっと噛みちぎってから、サクの問いに答えた。
「とりあえず、王国は国ではないことがわかった」




