第27話:回想~図書室の妖精~
「渦楽くんって、よく図書室に来るわよね」
「何だよ。いいだろ。別におまえの部屋ってわけじゃないんだ」
「そうかしら。ほとんど誰も来ないし、私が選んで仕入れた本も多いし、本の並びは全部私が決めているのよ。私の部屋と言っても過言じゃないわ」
「言い過ぎだ、それは。勉強してる奴なら、何人かいるだろ。あいつらは何だ? 居候か?」
「うーん、どっちかというとモニュメントかな」
「人を勝手に芸術にカテゴライズするな」
「芸術だなんて、過大評価し過ぎよ」
「粗大ごみとでも言うつもりか?」
「ノーコメント」
「おまえ、本当に性格わるいよな」
「生まれつきよ」
「この世の不条理を嘆いて生れてきたんだな」
「そう、おぎゃあおぎゃあと泣いてね」
「うるさいよ」
「うふふ。で、今は、何を読んでいるの?」
「『西洋中世の衣食住について』だよ。次にやるコスプレの原作が異世界モノで、舞台がこの時代を背景にしているんだ」
「ふーん。私、よく知らないんだけど、そういうのって原作を読み込むものなんじゃないの?」
「それは当たり前だ。けれども原作でわかるのは結果だけ。どうして、そういう文化になったのか、どうして主人公は戦っているのか、そういうところから調べないといいコスプレはできないんだよ」
「そういうものなの? 何だかずいぶん過激派の意見な気がするけど」
「俺なんてかわいいものさ。原作の忠実再現以外を認めないっていう原理主義者なんかは、もっと厳しいぞ」
「奥が深いのね、コスプレって」
「業が深いんだよ。まぁ、楽しめれば、それでいいんだ。これは俺の楽しみ方なの」
「あっそ。ところで、そのお楽しみのお仲間達が扉のところで立っているわよ」
「ん? もうそんな時間か。おい、図書委員。この本、借りてくぞ」
「だから、図書委員じゃないんだって」
「じゃ、図書室の妖精か何かなのか?」
「どっちかっていうと地縛霊?」
「何でもいいよ。さっさと手続きしてくれ」
「2000円になります」
「いや、金とるのかよ」
「2000円札になります」
「持ってねぇよ。そんなマイナーお札」
「はい、記入したわ。ちゃんと返しに来てね」
「おう」
「そういえばさ」
「何だよ」
「渦楽くんて、どうしてクロって呼ばれてるの?」
「ん? あぁ、これ渾名じゃねぇよ。渦楽久郎。久郎っていう名前なんだ。それを縮めてクロって呼ばれてんだ」
「そうなの。猫みたいね」
「そうなんだよ。ペットじゃねぇんだから」
「私も、さ、クロって呼んでいいかな」
「好きに呼べよ。じゃ、またな」
「うん、またね、クロくん」




