第26話:龍の背中で見上げる星空
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
ソマリの悲鳴と共に、俺達は、暗闇の中を落下していった。
地面には、光が小さく揺れている。あれが何かわかったときには、もはや死を免れることはできないだろう。
俺は、バッグから魔光石を取り出す。魔力を込めると発光する石である。俺は、ありったけの魔力をこめて、石を光らせた。
ここからは賭け。
タイミングと、時間と、それから運。
やるべきことはやるだけやった。タイミングはおおよそばっちりだし、落下の時間はどうすることもできない。
あとは運に任せるしかない。
俺は、暗闇の中ですっと目を瞑った。
どちらにしろ暗闇の中。
聞こえてくるのは、遠ざかるパーティ会場の喧騒、風を切る音、ドレスのはためき、ソマリの叫び。
バサッ!
そして、翼が強く大気を叩く音。
「来た!」
俺は、身体をひねって態勢を整える。その横を突風が駆け抜ける。
暗闇の中に、巨体が蠢いていた。
巨体は、赤く光る大きな二つの目をこちらに向けてから、翼をかるく打って、ひょいと俺達の下へと身体を滑り込ませた。
ドスン!
わりと衝撃があって、俺は巨体の上で尻をさすった。
「え? 死んだ? 死んだの?」
ソマリが、困惑した声を出していたので、俺はどうどうと背中を叩いて落ち着かせる。
「生きているよ。辛うじてだけど」
「嘘!? え? 意外と高くなかったってこと?」
「いや、迎えが来たんだ。俺達は、そいつに乗って、そのまま帰るんだよ」
俺がソマリに告げると、魔法通信で突っ込みが入った。
『人をタクシーみたいに言わないでくれる?』
「そんなつもりはないよ。助かった。ありがとう、カスミ」
巨体は、大仰に鼻を鳴らしてみせた。
龍回帰。
それが、王国所属のクラスメイト、田所香澄のチートスキルだ。
自らの身体を龍へと変身させることができる。飛行能力に加え、魔法耐性と物理攻撃耐性がつき、火も吐けるというチートぶりだ。
本人は、えぇごついから、嫌なんだけど! とあまり気に入っていないようだが。
『暗いし、危ないし、何が起こっているかわかんないしで、すっげぇ不安だったんだから。正直、みつけらんなかったら、そのまま帰ろうかと思ってたんだからね』
「本当に、運がよかった」
『あとで、ルミルミにお礼言いなよ』
「わかっているよ」
カスミには、首都から離れたところに待機していてもらった。協力者からの照明弾の合図を受けたら、龍に変身して首都に突入する。そして、俺達を回収して離脱。
龍の機動力だからこそできるヒット&アウェイ。今後もこの戦法は使えそうだ。
『ていうかさ、今回の作戦て危険過ぎじゃね。そこまでしてやんなきゃいけないことだったん?』
「いや、どうだろうな。効果はあると思うが、危険と釣り合っているかというと怪しい。むしろ、失敗してもいいと思っていたのかもしれないな」
『はぁ? 何で? そんなわけなくない? 失敗していいんだったらやらなきゃいいじゃん』
「もう少し練ってから実行したかったんだが、王の耳に入って承認されちまった。だから、断れなくなった。王にちくったのは、アキトだという噂だが」
『あぁ。ったく、あんたら、さっさと仲直りしろし。友達だったんじゃないの?』
「その話は今度にしてくれ。わるいが疲れた」
『あ、逃げたし。まぁ、いいか。とりあえず、お疲れさん』
「おう」
俺が、ふぅと息を吐いた。
カスミの言う通り、リスクばかりでおいしいところの少ない作戦ではあったが、なんとか成功した。
マイスキーと王国の勇者との密会。これは、獣国内にいる帝国の諜報員の耳にはすぐに入る。そうすれば、帝国は王国との同盟を急ぐだろう。
やっと一息つけるなと思ったそのとき、ソマリの顔が、ぐいと眼前に現れた。
「なぁ、助かったってことでいいんだよな」
「あぁ、お疲れ、ソマリ」
「じゃ、そろそろ聞きたいんだが、あの獣人の変態親父にあたしの身体を売ろうとしていた件、説明してもらおうか」
あぁ、あったな、そんなこと。
『えー、クロ、そんなことしようとしたの? サイテー』
なぜか、カスミまで話に入ってきて劣勢となったので、俺は慌てて弁明した。
「いや、違うんだ。あの後、すぐに離脱するのはわかっていたから、ちょっとしたリップサービスというか」
「あたし、実は尻とか触られてたんだけど」
「あぁ、おまえ、だからあんな恐ろしい顔してたのか」
「全部、クロ隊長がわるい!」
「いや、でも、これはハニートラップだから、ある程度は仕方ないというか」
「「サイテー」」
カスミとソマリの追及は、しばらく続いて、俺はげんなりとしながらも、とりあえず、作戦成功にホッとしていた。
空を見上げれば、無数の星が浮かんでいて、あまりに幻想的な風景に、あぁ、そういえば俺は異世界にいたんだなと、龍の背中で、ふと思った。




