第24話:元クラスメイト
ウシノは、俺の前に立って、首を傾げた。
「ねぇ、聞いてる? ウズラくんの意識だけは止めないでおいてあげたはずなんだけど。あれ? できてないのかな?」
目の前で手を振るウシノに、俺は反応することができない。彼女の話では、意識だけは止められていない。ゆえに、こうして、思考を働かせていられるのだろう。
ただ、口も何も動かせないのだから、反応などできようもない。
「はぁ。いまいち調整ができないのよね、このスキル」
そう言って、ウシノは俺の額に手を当てた。すると、急に身体の自由が戻ってきて、俺は、ごほっと咳き込んだ。止まっている時間に息苦しさを感じたわけではないが、意識的に呼吸をしていないと気持ちがわるい。
「これで、話せるかしら?」
動かせるのは、首から上。他は動作しない。声が出せるということは、肺は動いているらしい。他に血流がどうなっているのかなどの疑問もあるが、今、俺がこうして生きているということは、何かしらの整合性がとれているのだろう。
何が、調整できない、だ。部分的な停止と再生、しかも、自分はその中で自由に動ける。
これほど、融通の利くチートスキルもないだろう。
「チートだな。時間を止めるだなんて」
俺が告げると、ウシノは、つまらなそうに鼻で笑ってみせた。
「久しぶりね、ウズラくん」
「あぁ、久しぶりだな、ウシノ。少しやつれたか?」
「こんな状況だからね。私もいろいろあったのよ。ダイエットしていた頃がなつかしいわ」
「もう少しぽっちゃりしている方が健康的でいいと思うぞ」
「あんたの好みなんて聞いてないわ」
ウシノは、かるく返してくる。
「で、何しているの、こんなところで?」
「見てわからないか?」
「わからないから聞いているんだけど。女装して、うちの幹部のおっさん獣人と密会してって、いったいどんなプレイ?」
「やめろ。そう言われると、なんかすごい変態に聞こえる」
いや、事実しか言ってないんだけど。
「そこのおっさんと話をしていただけだよ。獣国と王国で同盟を結べないかと思ってな」
「へぇ。同盟ね」
ウシノは、腕を組む。
「確かに、魅力的な話だわ。うちは、やっと獣国近辺を平定したばかり。それなのに、帝国が攻勢をしかけてきて困っているの。魔国とはまだ穏やかだけど、王国が負けたら、こっちに来るかもしれない」
「その通り。獣国と王国は、地理的に距離がある。いずれ戦うにしろ、最後になるだろ。まずは協力して、他の二国を蹴散らすのが効率的だと思わないか?」
「あいかわらず、そういう身も蓋もないことを考える人よね」
そうでもない。この手のサバイバルゲームならば、序盤はチームを組んで乗り切るのが常道。それは国であっても同じことだ。
魅力的だなんて言っておきながら、ウシノは特に悩む様子もなく応えた。
「まぁ、無理だけど」
「即答だな」
「あ、これは私の意見ってわけじゃなくて、連合政府の総意だから」
だって、とウシノは告げる。
「テロサノキの虐殺をしたような野蛮人なんでしょ。異世界人の私ですら、ぞっとするわ。そんな国とは同盟は組めない、っていうのが獣人の総意。まぁ、ユズリハくんとかは、違う意見を持っているみたいだったけど」
「まぁ、そうなるよな」
テロサノキの虐殺。過去に王国のテロサノキという地方で起きた事件だ。獣人と人間の小さな諍いから、騎士団が動き、そして、獣人の大虐殺へと発展した。一説には、獣人の死体で山ができて、湖が血で赤く染まったとも言われ、それほどの獣人が殺された。
記録によれば、ずいぶんと昔の事件だが、それでも獣人達にとっては許しがたいものなのだろう。
「だから同盟はなし。マイスキーに話をもってきたのは、いい線だったかもしれないけれど、結局はむりだったと思うわよ」
「そうか。残念だ。それじゃ、俺達はおとなしく帰ることにするよ」
「ふふ、帰れるわけないじゃないでしょ」
ウシノは、そこでいじわるそうに笑った。
「あなたはこのまま拘束させてもらうわ。殺しちゃってもいいけど、王国の情報を吐かせてからでもいいからね」
「クラスメイトを殺すだなんて、物騒なことを言うなよ」
「元クラスメイトでしょ」
「ウシノに人なんて殺せないだろ。一年のとき、学校の前で猫が轢かれて死んでたの覚えているか? あんとき、おまえ、すっげぇ泣いてたろ。墓を作るの手伝ったからよく覚えているよ」
「あぁ、そんなこともあったわね」
ウシノは一度顔を伏せた後、ふっと表情を消して、ナイフを取り出した。そして、俺の首にスッと這わせる。
「言ったでしょ。私にもいろいろあったの。今さら、殺すことを躊躇ったりしない」
刺さるような殺気が、俺の背筋をすっと冷やす。この言葉は脅しじゃないと、ウシノの目を見ればわかった。
「これはそういうゲームなんでしょ」




