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英雄達の偽曲~親友に裏切られて全て失ったけど【コスプレ】スキルで世界征服に邁進します~  作者: 最終章
交錯する二人~獣国首都にて~(異世界転移10か月後)
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第22話:誘惑

「ですから、僕は彼をさとしてあげたわけですよ。ここで将軍と共に僕達と敵対すれば君は歴史に残るおろか者となるが、将軍を切って僕達につけば皆に感謝される英雄になれるとね。そうしたら、彼は簡単に首を縦に振ったよ。つまりだね、交渉とは狩りなんだよ。ただ追うだけじゃだめなんだ。しっかりと逃げ道を用意してやって、こちらの都合がいいところへ自ら動くように誘導しなくちゃ。そうでないと、無駄むだな労力をはらうことになる」



 酒の力もあってか、マイスキーはやけに饒舌じょうぜつであった。


 もともと話し好きなのか、こんな話をする機会がなくてえていたのかわからないが、上機嫌なのは俺にとって都合がよかった。



「本当に、すごいですわ。私などには思いもつかないことばかりですもの」


「ただ単に場数ばかずんでいるだけですよ。あなたのように聡明そうめいな女性であれば、すぐに男などたくみにあやつれるようになるでしょう」


「そんな、私なんてただの小娘こむすめです。マイスキー様は特別に賢くて勇敢ゆうかんであることを自覚するべきですわ」


「ははは、何を言うんですか。今まさに、僕は君の手玉てだまにとられていますよ」


「まぁ、お上手ですわね」



 自分でもき気がするような、あまったるい露骨ろこつなよいしょだ。


 だが、男をめるには露骨なくらいがちょうどいい、あいつらはバカだから、というコスプレ仲間のキャバクラじょうの言葉を信じて俺は笑顔を続けた。


 実際に、マイスキーは喜んでいる。


 熱心に相槌あいづちを打つ俺に対して機嫌きげんよく話を続け、片方の手で、隣に座るソマリの肩をさすっている。


 ソマリは、今すぐそのいやらしい手を払いのけたいといった嫌悪けんおに満ちた顔をしていたが、俺はなんとかこらえろと視線を送った。


 しばらくして、マイスキーは酒もまわり、こちらのちょっとしたおかしさにも気づかない程度に頭がまわっていない様子となった。


 俺は、満をして話を展開させた。



「そういえば、マイスキー様にお渡ししたいものがあるのでした」


「僕に?」



 俺は、手持ちのバッグから、紙包かみづつみを取り出して、マイスキーに渡した。


 マイスキーは、怪訝けげんそうにしながらも、紙包みを開いて、そして、ハッと顔を青ざめさせた。



「これを、どこから?」


「それは言えません。ただ、マイスキー様はお好きと聞きまして」


「確かに集めてはいるが、このグラスは王国の宝物だろ?」



 マイスキーが周囲を見まわして、声をひそめる。だから、俺はにこりと笑みを返した。


 

「申し訳ありません。浅学せんがくゆえ、どこの国のグラスかは、私にはわかりかねます。ただ、この一風変わった細工のグラスは、今、私の手元にあり、マイスキー様におゆずりしたいと申しています」



 俺は一拍いっぱくおいてから、マイスキーが手に取ったグラスに、そっと手をえる。



「まぁ、むりにとは言いません。マイスキー様のお眼鏡にかなわないのであれば、こちらは持ち帰らせていただきます」


「待て、ちょっと待ってくれ」



 マイスキーは、グラスを強く握りしめ、そして酔いをまそうと頭を振っていた。


 突然、目の前にふってわいたおいしい話。マイスキーはグラスの蒐集家しゅうしゅうかだ。彼ならば、このグラスを理解するだろう。今、この場を逃したら、二度と手にすることはないだろうことも。


 迷った末に、マイスキーは大きく息を吐いた。



「何が目的だ?」


「目的だなんて。私はただマイスキー様が喜ぶかと思いまして」


小芝居こしばいはよせ。何か要求があって、こんな危ない橋を渡っているのだろう」



 俺は、ふふと意味ありげに笑ってから、周囲をかるく見まわした。



「何もありませんよ。ただ、今後とも私共と懇意こんいにしていただければと。これは挨拶あいさつ代わりです」


「挨拶、ねぇ」



 いぶかしんでいたマイスキーであったが、欲望の方にかたむいたのか、ついに笑みをこぼした。



「ふふふ、私に近づきたくて、宝石だの女だのと貢物みつぎものを持ってくる者は少なくないが、これほどのものを持ってきた者はいない。素晴らしいの一言だ」


「ありがとうございます」



 マイスキーは、グラスの輝きを確かめたそうであったが、この場ではまずいと気づいてか、紙包みに戻し、大事そうにしまった。


 そして、俺の方に、にやりと笑みを見せて、ソマリの肩をぐいと寄せた。



「ついでに、今晩、こちらの美人をいただいてもよろしいかな?」


「ふふ、さすがマイスキー様。抜け目ないですね。どうぞ、お好きになさってください。なんなら、私もお供致しますが?」


「いや、君はよそう。抱いたら、後が怖そうだ」


「あら、残念」



 俺が、肩をすくめると、マイスキーは愉快そうに笑っていた。


 一方で、勝手に処遇しょぐうが決まってしまったソマリは、ゾッとしたような顔でこちらをにらんでいた。


 いや、なりゆきでね。


 うん、気持ちはわかるから、そんな目でこっち見るな。


 ソマリの視線から逃げるように、俺は、もう一度、周囲を見まわした。パーティ会場は、ずいぶんといており、文字通りえんたけなわといった様子だ。


 頃合いかな。


 俺はバッグからリボンを取り出して、長い髪を後ろでたばね、きゅっと縛りあげた。


 そのとき。



「王国の人間が紛れ込んでいるぞ!」



 弓矢のように鋭い声が響き、パーティ会場は、一瞬にして静まり返った。

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