第19話:ドレス
「あははははは! クロ隊長! 似合い過ぎ!」
ソマリが、腹を抱えて笑っているのを見て、俺は、イラっとしていた。寝不足もあるが、どんなへぼコスプレであっても、コスプレイヤーを笑ってはいけないという俺の中のコスプレ魂が、彼女の反応を許せなかったのだ。
仮に、女装であっても。
笑うのは失礼である。
ソマリとの一泊という何か起こりそうな夜を過ごして、結局のところ、何も起こらなかった翌日のことである。
朝起きたソマリと、やったやらないで一悶着あったのだが、少なくとも今のソマリは上機嫌である。
「それにしても、パーティに参加するだなんて、大胆な作成だな。あたしは、てっきりコソ泥よろしく城に忍び込むんだと思ってたよ」
「こういうの堂々としていた方が、バレないんだよ」
「そうだな。堂々と女装して、な。あははは!」
「しつこいぞ。ソマリ」
俺は、ソマリと話しつつ、淡い翠色のドレスの裾を確認していた。
もともと背は高くないが、低めのヒールにしてもらっている。肩から胸までフリルで覆われており、スタイルに問題はない。
ありふれた金髪のウィッグにハサミを入れて、自然な感じに。なるべく顔を隠せるように、前髪は長め。
道具も時間もないので、いささか物足りないが、ひと時、騙すだけならば、問題ないだろう。
「ソマリも、あんまりバタバタするなよ。髪型が崩れるだろ。せっかく整えたのに」
「へへ、あたしも似合っているだろ?」
「あぁ、俺がメイクしてやったからな」
そう言って、ソマリは、自分のドレスを見せびらかせた。
青系の色でうまく染められた生地には、きらきらと光って見える加工が施されていた。俺のドレスとは対照的で、胸元が大きく開いており、女を前面に出している。
髪もまとめあげて、素材のよさをアピールするような構成。
ソマリは、もとが美人なので、わりと簡単なメイクで仕上げられる。
あとは、おしとやかにできればな。
「へへへ、お姫様みたいだな」
「あくまで商人の付き添いって設定だけどな」
ソマリは、初めて着るドレスに、興奮しているようだった。俺も初めてコスプレをしたときは胸が躍ったものだ。
「いいか。俺達の目的は、獣国連合政府の幹部、マイスキーに、このワイングラスを渡すことだ。名工のつくったもので、変な形だが価値があるらしい。マイスキーがワイングラスと女に目がないことは調査済みだ」
「それで、女二人で、パーティに参加するわけだな」
「そうだ。今回のパーティは、獣国連合政府のナンバー2が主催のパーティで、政府関係者と商人が参加する。そして、このパーティにスピッツという商人が参加するんだ。この男は、女調達係だな。毎度、数十人の女を集めて、パーティに連れてくる。俺達は、その女の二人として侵入する」
「奴隷商なのか?」
「いや、口利きとでもいうのかな。政府と関係を得たい中堅の商人や軍人の娘を集めてくるんだ。娘が、政府関係者に見初められれば、儲けものといったところだろう」
「なるほど。権力者に媚を売る女を演じればいいわけだな」
「まぁ、そうなる」
正直、ソマリと対極にあるような性格の女だと思うのだけれども、大丈夫だろうか。
「もうしばらくしたら協力者が馬車で迎えに来る。俺達は、その馬車に乗って、パーティ会場に向かい、スピッツの率いる女たちに紛れる」
「何だ、協力者がいるのか? だったら、そいつらに全部任せればいいんじゃないの?」
「協力者は、獣国で活動している諜報員だ。そんな派手に動いたら、もう獣国で仕事ができないだろ。それに、明らかに王国の使者と接触したという事実がほしい」
「つまり、王国の英雄であるクロ隊長と、獣国のマイスキーがパーティ会場で会うことが大事なわけだ」
「ソマリにしては、ものわかりがよくて助かるよ」
この話、もう5回目だけど。
ちなみに、このドレスを用意したのも変装道具を用意したのも協力者だ。なかなかセンスがいいと、俺は密かに感心していた。
「そうだ。ソマリ、これをあげようと思っていたんだ」
俺は、テーブルの上の組み紐を差し出した。昨晩、見張りをするのが暇で、つい作ってしまったものだ。
「え? あたしにくれるの?」
「あぁ、でも、ドレスには合わないな」
「いいよ。つけるつける!」
「つけるっつってもなぁ」
俺は、少し考えて、髪に編み込んでやることにした。茶髪にちょっとしたアクセントが加わって、思ったよりいいか。
「ふふ。これでマイスキーもイチコロだな」
「だと仕事が楽でいいけどな」
部屋の道具類を片付けていると、ドアをノックする音が鳴った。
作戦決行である。




