第14話:隊長会議
「クロ隊長、ぼーっとして、どうした?」
俺が、半ば居眠りをしかけていたところ、横からこつんと頭を小突かれた。
目を擦って、それから、隣に座るセルカーク隊長の方を向いた。
「いや、あいつの報告がひどくつまらなくてですね。ちょっと眠気が」
「はは、気持ちはわかるが、もう少しうまくやれよ。頭が船をこいでいたぞ」
「気を付けます」
俺は、背もたれに埋もれて、かるく返した。父親くらいの年齢のセルカーク隊長は、おかしそうに笑みを見せる。
彼は、俺達が異世界にやってくる前から隊長職に就いていた男だ。ふざけたことばかり言うおっさんではあるが、その手腕は目を見張るところが多く、俺も戦術を真似させてもらった。
これほどの実力のセルカークが、小規模部隊で、ただ強いだけのアキトが大隊を率いているのだから、非合理的と言わざるを得ない。
まぁ、王の勅命であることと、民衆の支持を考えれば、仕方のない采配ではあるが。
「俺が言うのもなんですが、こんなガキに偉そうに隊長面されて、むかつかないんですか?」
「ん? そりゃ、むかつくさ。特におまえみたいな小生意気な奴にはな」
どうして、こう、俺の周りには気を遣わない奴が多いのかな。
セルカークは、にやっと笑ってから続けた。
「だが、おまえ達、英雄が来てくれたおかげで、王国は魔王軍の侵攻を抑えられている。これは紛れもない事実だ。感謝こそすれ、恨むことなんてねぇよ」
その魔王軍の侵攻も、同じ英雄の仕業なのだけれども。俺は、わかりやすいマッチポンプにいささか後ろめたさを感じた。
「ただ、あいつの演説はつまらんな」
「でしょ」
俺は、王国軍の隊長会議に出席していた。以前の魔王軍侵攻に対しての報告と評価と今後の対策。議題は多数あるというのに、先ほどからアキトが自らの成果を高らかに語って止まないのである。
「自分が主役の俺TUEE小説を朗読されている気分です。はっきり言って寒気がする」
「俺TUEE? おまえはときどきわからんことを言うな。どういう意味だ?」
この世界にない言葉を使おうとすると、単なる日本語が口から出るらしい。
日本の文化を伝道するのもわるくないが、俺TUEE小説みたいな業の深いものよりも、先に伝えるべきものはあると思う。
「そんなことより、セルカーク隊長。帝国との同盟交渉に進展があったか知っていますか?」
「あぁ、どうやらうまくいっていないらしい。外交官が頭を抱えていた」
「そうですか」
今日、俺は、この会議でそのことを聞きに来たのだった。
王国は、魔国と帝国、それから聖国と隣接している。その一つ、聖国は別として、魔国と帝国とは戦争状態にあった。
だが、戦争において二正面作戦は避けたい。
魔国の戦力が増加の一途をたどる状況を鑑みるに、王国は、帝国と争うのではなく手を組む必要があった。
同盟である。
わかっている。各国の事情はそうだとして、俺達、クラスメイトの事情は違う。勝ちあがるのは一つのチーム、一つの国家。
手を組めるわけがない。
ただ、それは終盤の話。
まだ5つの国が健在の序盤においては、同盟を組んで、後々、強敵となりそうな国を滅ぼしておく戦略は当然ありだ。
俺は、帝国と同盟を結ぶことにより、戦力を増強し、魔国を先に滅ぼそうと提案していた。
王国、帝国の両国にとってメリットの多い話だと思っていたのだが。
「これは噂の域を出ないが、帝国には魔国の使者も入っているらしい」
「なるほど、魔国も同じことを考えているということですか」
王国と帝国の関係は、もちろん、魔国と帝国についても成り立つ。とすれば、同じように魔国も帝国と同盟を結ぼうと工作するだろう。
だとすれば、早さこそが大事。
いかにして魔国よりも早く帝国と同盟を結ぶか。その方法を考えなくてはならないのだが。
「こんなくだらない会議をしている暇はないだろうに」
「まぁ、そう言うな。基本的にこの手の偉い者が集まる会議で決まることなんて何もない。決まるのは、もっと実務担当者同士の会議だよ。つまり、ここでは偉い奴が気分よく話してくれていれば、それで重畳なのさ」
「無駄過ぎる……。大人ってのはバカなんですか? どうしてそんな明らかに無駄な会議をするんですかね?」
「会議の真似事しかしてこなかったからさ。形だけ真似しても、中身なんてありはしない。それは戦術も剣術も同じだからな」
「含蓄のある言葉ですね。できれば、あいつらの耳にも入れてやりたいんですが」
「勘弁してくれ。俺にも嫁とガキがいるんだ」
そうして、誰も文句を言わないから、裸の王様が生れるんじゃなかろうか。
「仕方ない。俺がやるか」
「お、会議に横槍をいれんのか?」
「そっちはどうでもいいです。同盟の話ですよ。俺がやるんで、知恵を貸してください」
「買いかぶるなよ。うちの外交官がやってだめなんだ。俺になんとかできるわけねぇだろ」
まぁ、そうか。
あとで、外交官に催促をしておくか。催促して話が早く進むわけでもないが。
「いや、あるな。俺達にはやろうと思ってもやらないことだが、おまえらにならできることが」
「……何ですか? 物騒なものいいですけど」
「いやいや、荒事じゃないよ。まぁ、9割方、冗談みたいな話だが」
セルカークは、そう言って、にやりと笑った。
「獣国との同盟だ」




