第10話:Sランクチートスキル
「わるかったな。シグレの部隊に意外と手こずったんだ」
アキトは、さほど悪びれる様子もなく、笑っていた。この男は、責任というものをほとんど感じない。その点に関しては、ある意味で才能であった。
へへ、とアキトは、トーイチロに剣を向ける。
その辺の粗雑な鉄の剣ではない。青白く輝く大剣。防具も含めて、凄まじい力を感じさせ、彼のスキル名を体現していた。
『聖刻騎士』
俺が、手に入れるはずだったチートスキル。
その神々しい姿を見るたびに、俺は、胸の内に黒いものが渦巻くのを感じる。恨みと羨望と嫉妬。
それでも、今は、ぎりぎりの来訪を喜んでしまっている。そんな自分の浅はかさが、よりいっそう胸を締め付けるのだった。
「アキトくんがどうしてここに?」
「考えればわかるだろ。シグレを追っ払ったからだよ」
「な、何ですって!? シグレさんの部隊が負けるなんて」
「何もおかしくないだろ。俺はSランクなんだぜ。俺を倒したかったら、フルイデが直接出て来ないと無理だっつーの」
ぎりっと歯噛みして、トーイチロは後ずさった。
そりゃそうだろう。言ってしまえば、トーイチロのスキル『超人』の上位互換。最上級の身体強化は言うまでもなく、その剣はすべてを切り裂き、その防具は最上級の物理耐性と魔法耐性を持つ。
チートの中のチート。
はっきり言って、アキト単体を破壊することは、この世界のいかなる者にも不可能なのではないかと思われる。
びびるトーイチロに、アキトは笑みを見せる。
「おまえなんか俺の相手じゃないんだけどな。戦力は削っておいて損はないだろ」
「くそっ!」
アキトが剣を振ると、トーイチロは吹き飛んだ。間合い的には当たっているはずがないのだが、風圧だろうか。
トーイチロが、勢いよく転がっていった。あれはもう死んだんではないかと思ったが、傷だらけになりながらも、生きていた。
「ふん、タフだな。だが、次で終わ――」
アキトの声を遮るように、空から無数の砲弾が落ちてきた。
な、何だ!?
俺は、爆風に吹き飛ばされていた。
いったい何が起きたかわからないが、それを把握する前に逃げた方がいいかもしれない。流れ弾に当たったら死ぬぞ、これ。
しかし、その心配は杞憂だった。
飛んできた砲弾は一つ残らず、アキトに直撃した。砲弾の起動は、明らかに歪で、物理法則なんて無きがごときであったが、この世界ではさほど不思議でもない。
「アンドウか」
魔国所属、安藤萌香、スキル『操作(推定)』。遠隔で物体の移動を操作することができる。サイコキネシスのような能力だ。
容赦なく降り注ぐ砲弾が、アキトを襲う。
だが、
「しゃらくせぇ!」
アキトは剣の一振りで、砲弾を吹き飛ばした。
「こんなもん通用するかよ!」
「あぁ、そうだろうな」
「!?」
声は、突如現れた。
トーイチロの眼前に、黒く丸い穴が空いている。そこから現れたのは人の半身。
「フルイデ!」
「トーイチロ、撤退だ。実戦データは十分取れた」
「は、はい、フルイデ様!」
様、って。
どうやら、上下関係ができているらしい。
ちなみに彼らの名前は、そのままの音で聞こえている。この世界の言葉を俺達は予め使えるようになっていたが、名前だけはそのままで、王国の皆は、いささか呼びにくそうであった。俺のクロという呼び名は呼びやすかったようですぐに定着したが。
撤退を開始するトーイチロの部隊に対して、アキトが、剣を向ける。
「逃がすと思ってんのか!?」
「思ってないさ。だから、妨害させてもらう」
フルイデが、地面に手を当てるのを見て、俺はゾッとして咄嗟に叫んだ。
「全員、警戒! 地面が抉れるぞ!」
叫ぶと同時に、フルイデが触れた地面が青白く光り、続いて、地面が盛り上がっていった。
現れたのは、巨大な壁。
その生成速度は凄まじく、にょきにょきと空へと伸びていく。同じ速度で、俺達側の地面が抉れていった。
「相変わらずでたらめだな!」
古射手伊月のSランクチートスキル『創造主』。いわゆる製造スキルだ。発動条件はよくわからないが、その名の通り、いかなるものでも創造できる。
魔国で、銃を大量に作り出したのも、この力によるものだ。
「ちっ、こんな壁!」
「やめろ、アキト! こっちにも被害が出る!」
俺の制止を振り切って、アキトは巨大な壁に剣を振った。すると光の巨大な刃が壁に直撃し、まるでダイナマイトで爆破されたかのように壁が吹き飛び、そして破砕した。
「あのバカ! 全員退避!」
俺の声を聞くまでもなく、隊員は落下してくる壁片から逃げていた。
アキトは、壁の向こうに行こうとしていたが、その先には、既に次の壁が用意されていた。そこで、アキトは、舌打ちをしつつ、思いとどまったようだった。
壁の倒壊と、地面の変動が終わって、なんとか生き残っていた俺は、座り込んで、大きくため息をついた。
一応、今回の戦いは凌いだ。
見たところ、部隊のメンバのほとんどは生き残っている。上々の出来といったところではないだろうか。
はぁ、それにしても。
と周囲を見まわして、俺はどうしてもぼやかざるを得なかった。
「チートかよ」




