第9話:英雄
「おまえ、みんなで協力して戦争を止めようとか言ってなかったか?」
「君達がわるいんだろ! 僕は戦争をやめようと何度も言ったんだ。それなのに、君達が戦争をやめないから、僕達も戦うしかない!」
「よく言うぜ。攻めてきたのはそちらのはずだが?」
「先手必勝だよ。そちらに攻められる前に、こちらから攻めるのは兵法の鉄則だろ」
「日本の優等生なら専守防衛と言えよ」
「そんな国は滅びるだけさ」
確かに、このご時世で専守防衛は難しい。覇権主義で、世界大戦が行われている中、攻めてきたら守るなんて、そんな悠長なことをしていられるわけがない。
専守防衛は、ある程度文明が進んだ世界で、やっとまやかしとして存在する。
そんなものにすがるのは宗教的といえる。
「僕は、この魔国で世界を征服する! そして、世界平和を実現する! 戦争のない世界をつくるにはそれしかない!」
「戦争をなくすために戦争をする。わかりやすい矛盾だな」
「なんとでも言え。クロくんも僕に歯向かうのなら、容赦しないぞ!」
「穏やかじゃないな」
戦場で殺し合いをしている最中に、穏やかも何もあったもんじゃないが。
俺は、トーイチロに剣を向ける。
「できればクラスメイトを殺したくない。部隊を引いてくれ」
「殺す? この僕を? あははは! おもしろいことを言うじゃないか。君の、そのゴミスキルで、どうやって僕を殺すっていうんだい?」
「……何だ。スキルを知っているのか」
そりゃそうだ。
他国のクラスメイトのスキルを知るなんて、一番最初にやるべきこと。諜報活動もやっているだろうし、一度、戦場で使ってしまえば、すぐに広まってしまう。
俺の、ゴミスキル、Dランクの『武装強化』についても。
「僕のスキルはBランクの『超人』! 身体強化で、その攻撃力は戦車級で、防御力は防弾チョッキよりも上だ。戦場でこれほど優れた能力もないだろ!」
確かに、使い勝手のよさそうなスキルだ。異世界モノで、いろんな無双話があるが、たいてい身体能力で優れているものが多い。
典型的チートスキル。
それに比べて、俺のは……。
俺の武装強化は、武器の能力を向上させるというもの。剣ならば切れやすく、盾なら丈夫になる。ただ、Dランクのため、そこまでの効果はなく、近くにある武器に限られる。
典型的ゴミスキル。
悲しくなるから考えるのはやめるが、とにかく、トーイチロの相手は俺がしなくてはならない。この男を部隊の者と戦わせたら、どれだけ死人が出るかわかったものじゃない。
とはいっても、俺に勝てるとも思えないんだよなぁ。
そこで、俺は、少し考えて、トーイチロに向けて、不敵に笑って見せた。
「気でも触れたか? 何がおかしい」
「いや、おまえが滑稽でな」
「何だと?」
「俺の能力を知っているって? それは誰に聞いたんだ? もしかして他の魔国のクラスメイトか?」
「……言う必要はないだろ」
「どうせ俺が戦場で使ったのを見たんだろうが、それは浅はかだな。俺が、スキルを偽っているとは思わなかったのか?」
「何だと?」
「おまえみたいなバカがいると思って、俺はローランクのスキルを装っていた」
「何!?」
「実は、俺の能力はSランクだ!」
「まさか!?」
「俺にかかれば、ここにいる全員を一瞬で全滅させられる!」
「そ、そ、そんなぁ!?」
ノリがいいのは、前から知っていたが、その点は変わっていないようだった。
「……でも、そんなすごいスキルを持っている奴が、何で、戦線の端っこにいるんだ?」
「……」
「……」
「あー、作戦かな?」
「ふーん。ちょっとやってみなよ。そのSランクのチートスキル」
「いや、やめといた方がいいと思うぞ。すっげぇから。なんかもうすっげぇから」
「はぁ。僕は悲しいよ、クロくん。旧友が、小賢しいペテン師に成り下がってしまうなんて」
うっせぇ。
ちょっと運がよくて、いいチートスキルを手に入れたくらいで調子に乗んなよ。
「せめて、苦しまないようにしてやろう」
「ちょっと待――」
俺の制止の声をぶっちぎって、トーイチロは、こちらに駆けてきた。
トーイチロは、目で追うのがやっとのスピードで懐に跳び込んできて、掌底を繰り出す。
俺は、ぎりぎりで避ける。
風圧で、かるく押されて倒れかけたが、なんとか堪えて、そのまま、くるりと回って、トーイチロに剣を叩きつけた。
ゴン!
音は鳴った。
剣はトーイチロの腕に当たり、そして、接触した音が鈍く鳴る。だが、斬れることも、折れることもなく、ただ当たっただけだった。
いや、ゴンって……。
「非力だな」
「……そんな哀れみの目で見るな」
くっそ!
これだからチートは!
俺が内心で悪態をついていると、トーイチロは腕を引いて、それから、こちらを見据えた。
「終わりだな」
言って、歩幅を広げて、トーイチロは、拳を構えた。
俺は、何か惑わす言葉を言ってみた。命乞いとか、はったりとか。だが、トーイチロの耳には届かず、その拳は俺に向かって放たれた。
そのとき、
「終わるのはおまえだよ!」
声と共に突風が巻き起こる。
トーイチロの拳が俺に届くことはなく、代わりに俺の前に一人の男が立っていた。
戦線を維持していたのも、ときおり攻勢に転じていたのも、すべては時間稼ぎ。この戦場は、いささか特殊で、たった一人の到来で戦局が決まる。俺は、そいつの到来を待っていただけだ。
「遅ぇんだよ、アキト」
Sランクのチートスキル保持者、英雄アキト様の派手なご登場であった。




